ep11-2 怖い! 四天王エンさんからのお誘い!!
いつの間に部屋に入って来ていたのか、そこにいたのは、真っ赤な髪(噂によれば自毛ではなく染めてるらしい)をハリネズミのように逆立てたパンクロッカーのような衣装に身を包んだ男。
「エ、エンさん……」
そう、彼こそはアンリューズ四天王の一人エンさんだった。
「アジトのリラックスルームで乳繰り合おうなんて、いい度胸してるな」
「あ……あの……これは……」
あたしは慌てて言い訳しようとするが、エンさんはそれを遮り言ってくる。
「おいメスガキ1号、てめぇは対マジカルブリス要員としてうちらに参加したんだろう? なのに奴を倒すことも出来ず、かといって訓練もせず、メスガキ2号に乳を揉まれてアへ顔晒して、何考えてんだ、あぁ?」
「う……あ……」
エンさんの言葉にあたしは何も言い返せない。確かに彼の言う通りだ、あたしはブリスに勝つために暗黒魔女としての訓練をしなければならないのに、それをサボってキョーコとイチャイチャしていた(正確に言えばさせられていたんだけど)のだから。
しかしそれにしても、この人相変わらず口が異常に悪い、怖いから言い返せないけど、人を平然とメスガキ呼ばわりだし。
「エンさぁん、センパイを責めないであげてくださぁい、今回の事はキョーコがいけないんですよぉ、チョーシに乗ってぇ、センパイのおっぱいをモミモミしちゃったからぁ」
と、キョーコがあたしを庇うような発言をする。
するとエンさんは「あぁ?」と凄みのある声を出しながら彼女を睨みつけた。
真っ黒なサングラス越しではあるが確かに感じられるその眼光の鋭さにあたしは思わず震え上がるけど、それでも彼女は怯まずにエンさんの視線を正面から受け止める。
「ほーう、メスガキ2号。てめぇとは初顔合わせだが、1号よりさらにいい眼をしてやがるなぁ、1号にあるような迷いが一切ねぇ、流石アクアの奴が連れてきただけはあるな」
エンさんは感心したように呟くと、顎に指をやりしばし何かを考え込む仕草を見せる。
「おい、メスガキども、てめえら俺にちょいと付き合えや。これから街に向かうぞ」
「えっ……」
突然の申し出にあたしは顔をさっと赤くする。付き合えって、つまりそういうことなの……?
「センパァイ、何を顔を赤くしてるんですかぁ?」
「だ、だって、ねぇ……」
「メスガキ1号……てめぇはあれだな、見た目以上のエロガキだな。俺の言ってる付き合えってのはそういう意味じゃねぇよ、俺のアントリューズとしての活動に付き合えって意味だ」
「あ……なんだ、そういうことですか……」
エンさんの言葉であたしはホッと胸を撫で下ろす。しかし同時にちょっと残念にも思ったりするのだがそれは内緒である。
……ん? ちょっと待って、なんかおかしいわよ? あたしよ、ホッとしてていいの? アントリューズとしての活動って、つまりは……。
「キョーコたちはぁ、対魔法少女要員であってぇ、エンさんたち四天王さんのやってるような破壊工作に参加するのはぁ、ちょっとぉ、違うと思うんですけどぉ」
キョーコがエンさんに言う。そうなのだ、あたしたちは魔法少女たちと戦うために選びだされたのであって破壊工作の構成員ではないはずだ。
少し前に結構派手に暴れてたじゃないかと言われるかもしれないが、あの時は一瞬の気の迷い、キョーコにしても初変身による興奮があったためにあんなことになってしまったのだ。
「まあ、キョーコはいいんですけどぉ、センパイは無暗な破壊とか嫌いみたいですしぃ、今回はご遠慮させてもらっていいですかぁ?」
「ほうなるほど、おいメスガキ1号よ、2号はこんなこと言ってるが、てめぇは実際どうなんだ? 破壊工作は嫌いか?」
エンさんはキョーコの発言を聞き流し、あたしに聞いてくる。しかしあたしは答えに窮してしまった。
確かにあたしの本音を言えば、無駄な破壊で誰かが傷つくところなんて見たくないんだけど……アントリューズの理想の世界を作るためにはそういうことをしなくてはならない時もあるわけで……。
だけどそれよりも何よりも……。
「答えろよ、あぁ!?」
「す、好きですぅ、破壊工作大好きですぅ。エ、エンさんとご一緒できるならどこへでもついて行きまぁす……」
この人に逆らう勇気なんてあたしにあるはずないのだ!
心の中で血涙流しながらあたしはエンさんに媚びへつらう。
「よーし、よく言った。2号、つーわけだ、1号がこう言ってる以上、もちろんてめぇも来るよな?」
「うーん、なーんか釈然としませんけどぉ、まあキョーコはセンパイが行くところならどこへでもついて行きますからぁ、仕方ないですねぇ」
キョーコはそう言うとむしろ嬉々とした表情であたしの腕に自分の腕を絡ませてきた。
「はっはっはっ、てめぇら面白れぇな。よーし善は……いや悪は急げだ。さっそく街へと繰り出すぞ」
そう言うとエンさんは両手を広げあたしとキョーコの肩を抱き寄せた。
「きゃっ」
と思わず声を上げてしまうあたしだが、キョーコはむしろ嬉しそうにエンさんに寄り添う。
「きゃー♡ エンさんってば大胆ですねぇ♡」
ん? とあたしは彼女の反応に僅かな違和感を持つ。
「アクアが連れてきた割にはてめぇは男は平気なんだな」
エンさんの言葉に、あたしはその違和感の理由を知る。
そうだ、キョーコはもう疑う余地など一欠けらもないくらいにそっち系、しかもあの男嫌いのアクアさんがスカウトしてきたくらいなのに、エンさんという『男』と平然と接し、あまつさえ体を触られても嫌がるどころかむしろ喜んでいる。
「うふふ、キョーコはぁ、女の子が好きですけどぉ、アクアさんと違ってぇ、男の人が嫌いなわけじゃあないですからねぇ。趣味が合えば仲良くは出来ますよぉ、実際男友達もそれなりにいますしぃ。その点エンさんはぁ、たぶんキョーコと同じタイプですからぁ、恋愛対象にこそはなりませんけどぉ、お友達としてなら仲良くなれそうですぅ」
「はっははは! 2号よおめぇなかなかいい女だな。気に入ったぜ!」
「ところでぇ、そのメスガキ1号、2号って呼び方止めていただけませんかぁ? キョーコには真殿響子って、センパイには浦城梨乃ってぇ、立派な名前があるんですよぉ」
「おうおう、真正面から俺に意見するたぁますます持って気に入ったぜ。わかったよキョーコ、これでいいかい?」
「はいぃ、今後はそれでお願いしますねぇ」
豪快に笑うエンさん、なんだか仲良くなってる二人を見ながらあたしは思った。
なるほど、同じそっち系でもキョーコはアクアさんとはちょっとタイプが違うわけね。
アクアさんは何というか、男嫌いが先にあって、その結果って感じもあるけど、どうもキョーコは完全なるガチっぽい。
そんな子に狙われてるあたしって……。
「おい、梨乃! 何ぼさっとしてやがるんだ? もう街に行くからとっとと準備しろや」
キョーコとの絡みに気を良くしたのか、エンさんは上機嫌であたしを急かすのだった。
しっかり名前呼びに変わってる……まあ、メスガキ呼ばわりよりかはマシか……。
「わかりましたぁ……」
答えて先に歩き出した二人について行こうとするあたしだったが、ふとさっきから一言もしゃべらず完全に空気と化していた邪悪妖精、クリッターの姿が目に入ってくる。
「キョーコに続いてエンさん。強烈なキャラばっかりであんたそろそろ立場が危ういかもねぇ……」
「ク、クリッ……梨乃のくせに、生意気クリ……」
クリッターは恨みがましい目であたしを睨みつけてくるけど、あたしは胸のすく思いだった。さんざんやられっぱなしだったこのクソ妖精に一矢報いてやったのだ。
「はん、ざまあ見なさい」
あたしはそう言うと勝ち誇った表情でその場を後にしたのだった。
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