ep9-6 また負けた、だけど手応えはあったはず!
うう、負けた……また……。
悔しい、悔しい、悔しくてたまらない!! 暗黒魔女でなければ俯き涙の一つでも流していたかもしれない。
だけど、ブリスに涙なんて見せたくない。あたしはブリスをキッと睨みつける。
「ふ、ふふふ……ブリス、あんた、わかってるわよね……?」
「え……?」
「あたしは暗黒魔女マギーオプファー……負ければそれだけ憎しみの力が強まり闇の魔力が増幅する……。この憎しみは、そう、あんたとの勝負に負けたことでさらに強くなったわ」
「……」
「今日の敗北は明日の勝利……。せいぜい勝利の余韻に浸ってなさい、次に会うときは、必ず……あんたをぶちのめすから!」
あたしは勢い良く立ち上がると、ブリスに背を向けて全速力で駆け出す。
「あ、待って……う……」
おそらく彼女も限界だったのだろう、あたしを追いかけようとはしたものの、そのまま地面に膝を突いてしまった。
それを気にすることなくあたしはヴァーンズィンを拾い上げると、そのまま走り去った――。
――走り去ったのはいいけど、やはりあたしが受けたダメージも深刻だ、なんとかブリスたちの姿が見えなくなるあたりまではやってこれたけど、歩調が弱まり足を動かすのすらままならなくなってしまう。
「ク、クリッター……いるんでしょ……あ、あたしたちを、アジトまで転移させ、て……」
もう限界だ、朦朧とする意識の中ブリスたちが現れたあたりから姿を消している相棒のはずのクソったれ妖精に呼びかける。
「は、や、く……意識が、飛ぶ……」
このままここで意識を失ったら戻ってきた市民に袋叩きにされかねない。それに、警察に捕まる恐れもあるのだ。
しかし、必死に呼びかけるもののクリッターは現れない、な、なんでどうして……?
いい加減気絶しそうになったその瞬間、目の前のコンビニのドアがウィーンと開くと、その小さな両手にお菓子を山ほど抱えた、灰色のイタチのようなネズミのような、もふもふとした可愛らしい生き物が飛び出してくる。
あ、あのクソ馬鹿……騒動で店員が逃げ出したの良い事に火事場泥棒を働いてやがった……! 人が必死こいて戦ってたってのに……。
怒りと共に薄れゆく意識の中で最後に見たのは、ようやくあたしの状態に気付いたあのバカタレが、慌ててあたしの元に駆け寄ってくる姿だった……。
「どうなんですかぁ、クリッターちゃん、センパイの様子はぁ」
「う~ん、どうやら魔力を使いすぎのようクリ、これはしばらくは目を覚まさないかもしれないクリ……」
どこかで誰かがそんな会話を繰り広げる声がする。
「うう……」
あたしは呻きながらゆっくりと目を開く、すると……。
「ん~♡」
唇を突き出し今まさにあたしのそれへと重ね合わせんとしている赤毛ツインテールの少女のどアップが目に飛び込んできた。
「うわぁぁぁぁ!!」
思わず叫び声を上げながら飛び退く、するとその少女ことマギーヴァーンズィンは不満そうに頬を膨らませた。
「もうっ! なんで避けるんですかぁ!」
「人が気絶してるのをいいことに何をしようとしてんのよ!」
「何って、センパイが早く目覚めてくれるようにマウス・トゥ・マウスでの魔力注入ですよぉ」
「魔力注入なら手を握るだけでもできるでしょうが!」
「え~、でもぉ」
とそこでクリッターが口を挟んでくる。
「オプファーの魔力は枯渇寸前クリ、だから魔力を補充しないとダメクリよ」
「……だからってなんでキスなのよ?」
そう尋ねるとヴァーンズィンはさも当然のように……。
「だってぇ♡ センパイはぁ、暗黒魔女なんですよぉ? お口で直接ちゅーってした方が効率いいに決まってますぅ♡」
などと言ってくる。
「もっともらしい事言って! 単にあたしの唇を奪いたいだけでしょ!」
「え~、バレましたぁ?」
ぺろりと舌を出すヴァーンズィン。ああもうっ! なんて女なのコイツは!? 油断も隙もあったもんじゃないわ!!
「ともかく、見ての通りあたしはもう意識を取り戻したわよ! ちょっと休めば魔力も回復するんだから魔力注入、特にキスでのそれなんてまーったく必要ないの!」
「え~、じゃあセンパイはぁ、ヴァーンズィンとちゅーしたくないんですかぁ?」
「したくないわよ! 別にあんたが嫌いとかじゃないけどね、あたしはファーストキスはイケメン王子とクリスマスの夜にって決めてんの! それ以外の相手とのキスなんて挨拶程度のもんでもお断りなの!!」
「ええぇ~? 男とですかぁ? センパァイ、アクアさんも言ってますけど、真実の愛は女の子同士の間にしか芽生えないんですよぉ?」
「あんたたちの思想にあたしを巻き込まないで! ともかく、友達として仲良くする程度ならともかくあたしはあんたを愛することはないの! これだけは断言できるわ!」
「う~ん、それは残念ですぅ。でもぉ、センパイがその気じゃなくてもぉ」
ヴァーンズィンはそこで一旦言葉を区切ると……。
「ヴァーンズィンはぁ、絶対に諦めませんよぉ?♡」
くうっ、なんでこいつはこんなに前向きなのよ!? いつかも思ったことだけど、本当にそのうち流されてキスとかしちゃうかもしれないじゃない!
しかし、それはそれとして、このアホ極まりないやり取りのおかげで、ブリスたちに負けた悔しさが随分緩和されたわ。
どうしようもない子とはいえ、仲間がいるのってはやっぱ悪くないかもね……。
ふふっ、ブリスにカレッジ、見てなさいよ、次は負けないからね、あたしとヴァーンズィンのコンビがあんたたちをぎゃふんと言わせる日はそう遠くないわ!
「クリッター! 例の疲れがぶっ飛ぶドリンク持ってきて! ヴァーンズィン、さっきの敗北の悔しさが心に残っているうちに特訓よ!」
「わっかりましたぁ!」
そしてあたしたちは訓練場へと向かい、この日夜遅くまで特訓に明け暮れるのだった……。
「うぃ~、ゲップ……。うう、頭が痛い……昨日は特訓やり過ぎたわ……それにあのドリンクも飲み過ぎたみたい……けど、ついつい飲んじゃうのよね、あれ……お酒じゃないけど、なんなのかしら、あれは」
翌朝、学校への道を歩きながら、あたしはぶつぶつと呟いていた。
「おはよ~、み・ゆ・き!」
「おはよう、
前方ではここ最近おなじみとなった光景が繰り広げられている。
くぅぅぅ! 結城灯めぇ……そのポジションは前はあたしのものだったのにぃぃ! あの女はあたしの一番の親友だった美幸をたぶらかし、あたしとの間を引き裂いたのよ!! ああもうっ! 思い出すだけで
「まーたあの子こっちを睨んでる。アタシあの子になんか悪いことしたのかなぁ?」
「……」
とぼけた調子でそんなこと言う灯とあたしを交互に見ながら美幸は複雑な表情を浮かべる。
美幸ぃ……あんたはまだあたしの親友だよね? そう問いかけたい! けど、あの約束、問題を避けるために学校関係者の目がある場所では他人の振りをするという約束を破るわけにはいかない。
あああ、あたしにあの灯の10分の1でいいから社交性があれば! クラスの鼻つまみ者でさえなければ! 何の気兼ねもなく美幸と仲良くできるのに!
クソ馬鹿クソ馬鹿! 浦城梨乃のクソ馬鹿!
小学校時代に男子相手にいい気になって女王様気取って女子連中敵に回さなきゃよかった!
女子中学校に入学した時点で過去の行いを反省して、みんなと馴染めるよう努力すればよかった!
孤立してから一人でもいいとかカッコつけずに素直に寂しいから誰かあたしの友達になってとでも言ってればよかった!
そうすれば、美幸以外にだって友達が……。
あたしは何度人生の分岐点で間違った選択をしてきたんだろう……?
泣き叫び大暴れしたい衝動を押さえつけながら、あたしはとぼとぼと教室へと歩いて行った……。
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