ep9-5 どっちが強い!? 絆の力!!

「ブリス・シューティングスター!!」


 ブリスが高々とステッキを掲げ上げ叫ぶと、ステッキの先から空に向かって光が放たれる。


 思わず見上げたあたしの視線の先でその光が弾け、流れ星シューティングスターという名前そのままに、流星となってあたしに向かって落ちてくる!


「ちょ……っ!」


 あたしは咄嗟に身を翻してその光から逃げようとするが、範囲が広すぎる!


「ばばばば、バリアー!」


 なんとかそう叫ぶと、あたしの前に光の壁が現れブリスの攻撃を弾く!


「カレッジ・ブレイク!!」


 そこに間髪入れずカレッジが拳を振り上げながら飛びかかってくる。


「舐めんな! オプファーキック!」


 元は魔法少女に憧れた身、そして魔力を操る暗黒魔女としては好みの戦い方じゃないのだけど、あたしにはコスチュームのモチーフになっている害虫譲りの脚力が備わっている。


 あたしはその脚力を生かし、ブリスのシューティングスターをバリアで弾いた勢いを利用してそのまま回し蹴りを放つ! そしてそれは見事にカレッジの側頭部に命中した!


 グルグルグルッと回転しながら吹っ飛んでいくカレッジにあたしはおっしゃー! と心の中でガッツポーズを取る。


「す、凄い……なんてキック力なの……。オプファーにこんな力が備わってたなんて……」


「ふっふっふ、嫌だけどもこういう時は害虫の力に感謝だわ。さあ、残るはブリス、あんた一人よ! 覚悟しなさい!」


 あたしは鞭を構えながら高らかに叫ぶ。しかし……。


「ブリス一人? いつアタシがやられたのかしらね?」


 ぶるぶると頭を振りながら立ち上がるカレッジ。


「そ、そんな!?」


 確かに手応えはあったはずなのに!? そんなあたしの疑問に答えるようにカレッジはニヤッと笑いながら言った。


「とっさに蹴りつけられる方向に頭を傾けてダメージを最小限に抑えたのさ」


 くぅっ、こいつ! 格闘センスが半端ない! パワーはあっても格闘技に関しては完全な素人のあたしじゃ、まともなダメージを与えることは出来ないか……。


 どうすべきか考えるあたしをひと睨みすると、カレッジはブリスに向けて言った。


「ブリス、どうやらオプファーはまだやる気みたいだね。このままじゃ埒が明かない、で一気に決めるよ!」


「うん、そうだね!」


 ブリスは頷き返すと、カレッジの横に並び立つ。


 あ、これってもしかして……。


 そして、そっとブリスとカレッジは手を重ね合わせしっかりと握りあう。


 ああああ、やっぱりいいいいっ!! この間スーパーアリリンコを消滅させた二人の合体技だぁぁぁぁ!!


 さらに、お互いの指を絡ませる恋人繋ぎまでしちゃって、もうっ!


 メラメラメラメメラ!! またあたしの中で嫉妬の炎が激しく燃え上がる。


 ブリスぅぅぅ! そんな女と指を絡ませるなっつってんだろうが!!


 叫び出したいが変に思われるのは確実なのであたしは黙り込むしかない。


「行くよ、カレッジ!」


 ブリスが叫ぶと二人はそのまま体を寄せ合い、顔を擦り寄せる。


 ああん、もうっ! なんでいちいちあたしの前で見せつけるような真似をするのよ!! もう怒ったわ! 絶対に許さないんだからぁぁ!!!


 しかし、思わず目を逸らしたそんなあたしの手にそっと重ね合わせられる誰かの手。え、まさか、ブリス!?


 ドキドキしながら顔を上げるも、ブリスはカレッジと手を合わせ魔力を通い合わせている真っ最中だ。


「感じるよ、カレッジを……」


「アタシも、ブリスを感じる……」


 などと囁き合っているのだけど、じゃあ、あたしの手を握るのは……。


 半ば予想しながらもぎぎぎっと首を回すと、そこにいたのはヴァーンズィンだった。


「センパァイ。ヴァーンズィンたちもあいつらみたいに身も心も一つにして合体技をやりましょうよぉ」


 そう言いながら、あたしの手を取り指を絡ませる。


 が、合体技ねぇ……果たしてこいつとあたしで出来るんだろうか?


 あたしはこいつのアピールがうざ過ぎるせいでついつい邪険にしてしまうが、嫌いではないし仲間意識はしっかり持っている。


 ただ、そこに愛という感情は存在しないのだ。けど、こいつがあたしに求めてるのは愛なのよね……。


 つまり、心を合わせようとしても、そこに齟齬が生まれて上手くはいかないだろうという懸念が拭い切れないわけで……、


「センパイ、ヴァーンズィンの愛に身も心もゆだねてくださぁい」


 そんなあたしの考えを見透かしたようにヴァーンズィンが囁く。


 無理だっての! 魔法少女願望があったあたしだけど、それとは別にイケメンとの恋愛願望もあったし、こっちに関してはまだまだ諦めてはいないのよ?


 暗黒魔女とか言うふざけた『仕事仲間』しかも同性との恋愛なんてまっぴらごめんよ!


「さあセンパイ、ヴァーンズィンと身も心も一つに……」


 しかし、ヴァーンズィンは全くお構いなしだし、ブリスやカレッジに対抗するためにはこれしかないのか!? などと心のどこかで思ってしまうせいで突き放すことも出来やしない。


 それをいいことに、ヴァーンズィンの奴はあたしの下半身を覆う面積の小さい布の中に手を突っ込んでくる。


「ちょ、ちょっとヴァーンズィン! あんたどこ触ってんのよ!?」


 あたしは慌ててその手を掴むが、ヴァーンズィンは構わずあたしのお尻を撫で回しながら言う。


「センパイの大事な所ですよぉ」


 ああもうっ! そんなとこを触るなって言ってんでしょうが!! あうう……でもこいつの手つきって妙にいやらしくってさわり方一つ取っても絶妙に気持ちいいんだよね……ああんっ♡ もうだめぇぇ♡


「あ、あいつら何をやってんの……」


 あたしが流されそうになっていると、魔力の融合作業を中断してブリスたちがこちらを見ながらドン引きしていた。


「ああんっ♡ もうっ、ヴァーンズィン! あんたのせいであいつらに変な誤解されたじゃないの!」


 あたしは思わずそう叫ぶも、ヴァーンズィンは悪びれた様子もなく言う。


「センパイがいけないんですよ? そんなえっちな声出してるから」


 いや、それはあんたがあたしのお尻を撫で回したりするからでしょーが!! あうう……でもなんかもうどうでもいいやって感じになってきたわ……このままこいつの好きにさせてれば全部解決よね……。


 ってダメダメダメダメぇ!! こんなところで、こんな変態娘に貞操を奪われてたまるもんですか! そもそも今は戦闘中なのよ!


「ヴァーンズィン! あんたとの魔力融合と合体技までは許すけどね、それ以上はお断り! どっちにしろあいつらを倒さなきゃあたしたちに明日はないのよ!」


 ヴァーンズィンに向けて叫ぶと、むしろ彼女はにんまりと笑いながら言った。


「にゅふふふ、いいですよぉ、今はそれでぇ。センパイがヴァーンズィンとの魔力融合と合体技を許可してくださっただけでも満足ですからぁ♡」


 しまった……! これはこいつの作戦だったのだ! 先に受け入れがたい提案を提示しておいてからそれよりも条件の緩い提案をすれば、人は受け入れやすくなると聞く。


 あたしはまんまとその作戦に嵌ってしまったのだ!


「さあセンパイ、ヴァーンズィンと身も心も一つになってあいつらをやっつけましょう!」


 くっそ、もうどうにでもなれだ、どっちにしろあいつらの合体技に対抗するにはこれしか手はない!


「言っとくけど、キスとかはしないからね! せいぜい指を絡ませるくらいよ!」


 あたしがそう叫ぶと、ヴァーンズィンは「はぁい」と言いながらあたしの手を取り指を組み合わせる。


 んもうっ! なんでこいつはいちいち仕草が可愛いのよ!! うっかりそっちの道に進みそうになるじゃない!


 あたしは思わずキュンとなりながらも、ブリスたちに向けて叫んだ。


「見せてやるわブリス、二人の暗黒魔女の魔力が奏でる、暗黒のハーモニーを!」


「え、あ、は、はぁ……」


 戸惑った声を上げるブリスだったが、カレッジが彼女を叱責する。


「ブリス、ぼーっとしてる場合じゃないよ! あいつらのおバカ漫才に気を取られたせいで魔力融合作業が中断しちゃった。早くしないと、あいつらの合体技が完成されちゃう」


「あ、う、うん! そうだね!」


 ブリスは頷くと再びカレッジと手を握り合う!


「ううっ、集中力がかき乱される……ああん、もうっ、あいつらのせいだよぉ!」


「ブリス、アタシの事だけ考えて。雑音を気にする必要なんてない」


「そ、そうしたいんだけどぉ、どうもさっきの光景が……あのヴァーンズィンって子、オプファーのパ、パンツの中にて、て、手を……はうっ!」


 どうやら先ほどのヴァーンズィンの蛮行は意外な形でブリスにダメージを与えていたらしい。


 想像力豊かな彼女はあの時あたしの下半身を覆う布の中で何が行われていたかをあれこれと想像してしまうのだろう、顔を真っ赤にして悶える彼女が集中力を欠いているせいで、魔力の融合作業が遅々として進まないようだ。


 これならあたしたちの魔力融合の方が先に完了するか……?


 しかしそれにしてもブリスってば可愛いじゃないの……それにその純粋無垢なところ、やっぱり美幸にそっくりね……。それもあって彼女の一挙手一投足に心をかき乱されてしまうわけだけど……。


 そう言えば美幸は今どうしてるだろう……って、あかりと一緒か……。


 ブリスにはカレッジがいて美幸には灯がいる……あたしは、やっぱりぼっちだ……。


「センパァイ、魔力が乱れてますよぉ! ブリスの事が気になるのはわかりますけどぉ、今はヴァーンズィンのことだけを考えてくださいぃ!」


 ハッ、戦いの最中だというのに思わず親友に思いを馳せるとともに余計な事まで考えてしまった!


 ヴァーンズィンに言われ、あたしは雑念を振り払い彼女のことだけを意識する。


 暗黒魔女マギーヴァーンズィン――真殿まどの響子きょうこ……変な奴だし、愛が重すぎるけど、初めてできた美幸以外の友達だし、出来れば大事にしていきたいわね……。


 もちろん、愛を受け入れるつもりはないけど、友達として、後輩として、ね。


「きた、来ましたぁ! 融合作業、完了ですぅ!」


「くっ、早い!? ブリス、まだ完全じゃないけど、ここはやるしかない!」


 ヴァーンズィンの言葉にカレッジが叫ぶ。


「う、うん! わかった!」


 ブリスが応え、繋がれた手をこちらに向ける、が、遅いのよ!


「「ツイン・ダークネス・ブラスター!!」」


 あたしとヴァーンズィンの声が重なり、二人の手の先から闇の光線が放たれる!


「「デュアル・マジカルストリーム!!」」


 一瞬遅れ、対抗するようにブリスとカレッジの合体技が放たれる! 二人から放たれた金と赤のマーブル状の光線とあたしたちの放った闇の光線は激しくぶつかり合う!


「ア、アタシの中の勇気よ……もっともっと、強く燃え上がって……!」


「わ、わたしはこの力で、みんなの幸せを守るんだ……悪の魔女なんかに、負けるもんか……!」


 ブリスとカレッジがそう叫ぶと二人の魔力はさらに勢いを増していく。


「く……っ! ヴァーンズィン、もっと魔力を!」


「は、はいぃ!」


 あたしの言葉にヴァーンズィンがさらに力を込める。しかしそれでもなおあたしたちの合体技は押し負けようとしていた。


「ま、負けるか……あんたたちなんかにぃぃぃ! ぼっちの意地を……はみ出し者の意地を……なりたい姿になれなかった負け犬の意地を……見せてやる!」


 あたしは体の内から湧き上がる黒い感情を全て自分の魔力へと変換して黒い光線の出力を上げる!


「……す……あいつらを……ろす……。ヴァーンズィンは……キョーコは……。だから、あいつらも……」


 ぶつぶつと虚ろな目で呟きながらヴァーンズィンも魔力を高めていく。


 様子がおかしい……? おそらく自己暗示によって自分の中の闇の力を高めているのだろうけど、気になる言葉を口にしてるような……。


 だけど、今はそんなことを気にしている場合じゃないわ!


「いっけぇぇぇ!!」


 あたしが叫ぶと、あたしたちの光線はブリスたちの放った光線を押し返していく。


「だ、だめ……ま、負け……」


「ブリス! ダメだよ弱気になっちゃ! あなたには救いたい世界があるんでしょ!? 守りたい人がいるんでしょ!? アタシに言ってたじゃない、何に変えても守りたい友達がいるんだって、その子の事を考えるんだ! その子の笑顔を、その声を!」


「あ……う……」


 ブリスの目が見開かれる。


「……のちゃん……! うあああああああああ!!」


 今ブリスが誰かの名前を呼んだ……カレッジの名前じゃない……。誰? ブリスには、守りたい人がいるの?


「ブリス! 今だよ!」


 そんなあたしの疑問はカレッジの叫びにかき消される。そしてそれと同時にブリスが叫ぶ。


「マジカルパワー・最大出力!!」


 その叫びと共に放たれた魔力光線があたしたち二人の合体技を押し返していく! ああ……もうだめか……。あたしとヴァーンズィンではあの威力には勝てないわ……!


 しかし、あたしは最後の力を振り絞り必死で耐える、そして……。


 カッ! ドッゴオオオオオン!!


 ついに、飽和状態となっていた魔力が大爆発を引き起こし、あたしとヴァーンズィン、そしてブリスとカレッジはそれぞれ反対方向に吹き飛ばされた。


 ごろごろと転がりながら全身を強く打ち、意識が朦朧とする。


「う……うう……」


 あたしは呻きながら立ち上がろうとするが、ダメージが大きすぎて立ち上がれない。


 しかしそれは他のみんなも同じのようだった。


 ブリスはあたしと同じく地面に這いつくばったまま呻いているし、カレッジはうつぶせに倒れたまま微動だにしていない。死んではいないようだが……。


 そして、ヴァーンズィンの方に視線をやれば彼女はキュウ……と目を回していた。


 こ、これは……おそらく、最初に立ち上がった者が勝つわ! あたしはそう確信し、痛む体に鞭打って上体を起こす。しかし……。


「うぐ……」


 そんなあたしの目の前にはブリスが立ち塞がっていた。そして……。


「わたしとカレッジの……正義の、勝ち、だよ……」


 あたしを見下ろしながら、彼女はそう宣言したのだった。

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