ep7-6 切り裂かれる心、親友が奪われる!?
一説によれば人の運勢って言うのは総量が決まっていて、物凄い幸運に見舞われるとその反動で物凄い不運に見舞われるらしい。
例えば宝くじが当たった人とかはその後の人生において大きな不幸に見舞われることが多いというし、逆に大損した人はその後に人生最大の幸運に恵まれるということもあるそうだ。
正直眉唾物の話で、ただの偶然でしょ? 生まれてからずっと幸運だったり、逆に不幸だったりした人なんて大勢いるじゃない、なんて思ったりもするのだけど、少なくとも今日のあたしにはこの説が当てはまってしまったようだ。
お母さんから掛けられた優しい言葉に気をよくしつつ学校に向かう道を歩いていると、目の前に見慣れた後ろ姿が目に入る。美幸だ。
一瞬、あたしは昨日の事を完全に忘れていた、だから普通にいつものように声を掛けようとしてしまったのだ。
周囲に同じ学校の生徒らしき姿は見えない、他の生徒たちに見られるおそれのある場所までは話をしながら歩くといういつものパターン、今日もそうなるはずだった。
「みゆ……」
「おっはー、美幸!」
しかし、あたしが声を掛けるより早く美幸に声をかける者がいた。
そいつはシュッとあたしの横をすり抜けポンと美幸の肩に手を置く。
「あ、おはよう、
振り返りとびきりの笑顔でそいつを迎える美幸。
は? え? 何? どういうこと?
あたしの心の中に戸惑いと同時に疑問が渦巻き始める。
大事な用とかで美幸を連れ出し、お洒落なお店とやらで親交を深めるとか言っていたけど……。
『美幸』『灯ちゃん』二人は今互いをそう呼び合った。
昨日は『福原さん』『結城さん』で態度も完全に初対面の他人行儀だったはず……。
それが、それが、それが、たったの一日――いやまだ24時間も経ってない! そんな短い時間の間にどうしてここまで親しくなってるの!?
あたしの頭は大パニックを起こしていた、あり得ない、あり得ない、あり得ない!
これはあたしの常識を超えた現象である、初対面の相手とたった一回どこぞのお店に一緒に行っただけでここまで親しくなれるはずがない!
確かに美幸は表面上は人懐っこく友達も多い人気者だ、しかしあたしは彼女の実態を知っている。
美幸は基本的に他人に対して心を開くことはなく、常にどこかよそよそしく壁を作って接している。
唯一の例外があたしだったのだ!
結城灯がどれほどのコミュ強者だったとしてもたった一度のデート(?)で彼女を落とすことなど不可能である、そう断言できる。
しかし、その不可能が目の前で展開されている。さらに耳を疑うような発言が灯の口から飛び出した。
「見たよ、プチピュア。久しぶりに見たら思った以上に面白かったよ、思わず一気見して改めてハマっちゃったよ。ありがとね映像ソフト貸してくれて」
!!!!!!!!!
なななななな、なんですとおおおおおおおお!!!
み、美幸が……バカにされるかも知れないからという理由で誰にも――あたし以外の誰にも打ち明けてないはずの魔法少女アニメ好きを初対面の相手に暴露してる!?
「よかった~、灯ちゃんなら絶対にハマってくれると思ったんだ、勇気を出して勧めてよかったよ!」
「あはは、でもやっぱりプチピュアってアタシたちに……」
「しーっ、誰が聞いてるかもわからないよ?」
「ん? あ、ああそうだったね。いや~、ごめんごめん、慣れなくてさ」
「気を付けてね、もしわたしたち……魔……少……バレたら……」
顔を寄せ合いこそこそと内緒話をする二人。
あたしはそれを呆然と見つめることしか出来なかった……。
いや、これは夢だ、悪い夢なんだ! こんなことがあるはずがない!!
その時だ、美幸がふと後ろを振り向いた。しまった、あたしの視線に気づいたんだ!
「どうしたの美幸? ん、あれ、あの子……」
灯も振り返りあたしのことを見る。
「確か昨日美幸と話してた子だよね? なんかこっち睨んでない? 美幸、あの子やっぱりあなたとは親しかったり……」
「な、何言ってるの灯ちゃん、そんなわけないよ~。りの……浦城さんは一人が好きでわたしとは合わない感じだし。昨日だってたまたま声を掛けただけだし~」
「そうなの?」
「そうそう! それより行こっ! あんまりのんびりしてると遅刻しちゃうよ」
美幸はあたしから視線を逸らすと、灯の手を引いて学校へと向かい始める。
今の美幸の発言、あれはおそらくあたしがいつも言ってる他人の前では友達であることを隠すべしという教えを守った結果であり、本心から出た言葉ではないだろう。
その証拠に一瞬彼女は『梨乃ちゃん』とあたしを名前で呼ぼうとしたのだ。
それはすなわちあたしと美幸の親友関係はしっかりと継続中という事であり、それをここまで親しくなった灯にすら内緒にしてくれているほどあたしとの約束を大事にしてくれているということだ。
それは極めて喜ばしいことでありそれに関しては何も言うことはない。
しかし、逆に言えば美幸はそのあたしとの関係以外のほぼすべての事はあの結城灯に曝け出してるということになる。
いや、それどころか、灯に対する美幸の信頼度はあたしへのそれを越えているだろうことが、先ほどの二人のプチピュアについての話からも読み取れてしまったのだ。
元々美幸があたしに魔法少女アニメ好き、プチピュア好きを明かすことになったのも、それをきっかけに親友同士になったのも、一種の事故が原因である。
あの日偶然アニメショップでプチピュアグッズに同時に手を伸ばした性格も立場も何もかもが違う二人、それがあたしと美幸の始まりだった。
つまりお互いが同じ趣味を持っていると偶然知ってしまっただけであり、お互いに明かしたくて明かしたわけではない。
あの偶然がなければ、あたしと美幸はお互いの事など何も知らぬまま中学生活を過ごしていただろう。
しかし、美幸は灯には、進んで自らの趣味を明かしたのだ!
例えれば、それは自分から服を脱ぎ去り、生まれたままの姿を見せるような行為に等しい。
偶然目撃してしまっただけの裸体と相手が自ら晒した裸体、どちらが価値があるのかは考えるまでもないだろう。
がくり、と、知らず知らずのうちにあたしは膝から崩れ落ちていた。
「あ、あたしは……美幸の唯一の親友、そして一番の理解者……そう、だよね? そうだって言ってよ……お願いだから……そんな子じゃなくて、あたしの方だけを……見てよ……」
そう呟くあたしの声は、しかし誰にも届くことなく虚空に消えていくのだった――。
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