ep5-3 二度目の対決、今度のあたしは一味違う!
「なんだなんだ!?」
「あ、あいつ、ニュースでやってたマギーオプファーとかいう悪の女幹部だぜ!」
「女の子を襲ってるみたいだ!!」
少女とのやり取りに時間をかけ過ぎてしまったせいか、騒ぎに気が付いた人が集まってくる。
「なんて酷い……とんでもない悪党だ……」
そんな呟きまで聞こえてきて、あたしの胸はズキズキと痛む。
「そうよ……あたしは大悪党、暗黒魔女マギーオプファー!! さあ、出てきなさいマジカルブリス! 出てこないと、この子を含めこの場にいる全員が死ぬことになるわよ!!」
あたしはついに開き直って叫んだ、胸の痛みはより激しくなるがもうどうしようもない……。
これも……これも……全部あいつのせいだ……あいつがあの子が襲われた時点でさっさと出てきてれば、あたしはここまでしなくて済んだのに……!
「出てこい……ブリスぅぅぅぅ!!」
あたしは天に向かって叫んだ。
その時だ。
シュパッ! カッ!!
あたしの頬を掠めて何かが飛んでくる。
「うおっ!?」
あたしは思わず飛び退くと、その何かが飛んできた方向を見る。するとそこには――。
「マジカルパワーで幸せ守る! 魔法少女マジカルブリス!!」
ひひ、出た、でたでたでたでたでた!
あたしの変態的衣装とは全然違うザ・魔法少女というような可愛らしいコスチューム、キラキラと輝くオーラ、ポーズを決めて名乗りを上げる堂々たるその雄姿!
なりたかった……あたしはあんたに……なりたかったのよ……!
「ブリスぅぅ!! ようやく現れたわね!!」
ギリギリギリギリと奥歯が砕け散りそうなほどに歯ぎしりしながらあたしは叫ぶ。
「マギーオプファー! 前回で懲りなかったの!?」
「ほ、ほっほっほ、ほーっほっほっほっほっ! 懲りるわけないでしょ! あたしはあんたを叩きのめすまで何度だってやってきてやるわ!」
「なんて奴なの……もしかしたら、改心してくれるかもなんて思ったわたしが馬鹿だったわ! わたしを誘き出すために無関係の女の子まで巻き込んで……! わたしは絶対にあなたを許さない!」
それよそれ! あたしもそれがやりたかったんだ! 悪い奴に指突きつけて「許さない!」って!
羨望と嫉妬、憧れと憎悪、様々な感情がぐるぐるとあたしの中で渦巻く。
「許さないのは……こっちの方よ!! ネコネッコー、行きなさい!!」
あたしは大人しく事の成り行きを見守っていたネコネッコーに指示を与えると、
「みんなは離れてて!」
などと、迎え撃ちながら正義の魔法少女っぷりを存分に発揮しているブリスを残し、その場から少し離れた場所へとジャンプで移動し頭を巡らせながら呼びかける。
「クリッター、どこに行ったの!? ブリスが出たわ、E作戦を発動よ!」
「んあ……? あ、ほんとだクリ」
このクソ妖精! 建物の影で寝息を立ててやがった! 目を擦るバカタレを蹴りつけると、あたしは魔法で収納しておいたとあるものを取り出し地面へと置く。
「痛いクリね全く……まあ、やる気に満ち満ちてるのはいい事クリけど……」
ぶつぶつと呟きながらごそごそと例の物を取り出すクリッター。上手くやってよね?
さあてブリス、準備は完了したわよ……。今からあなたの顔は絶望と恐怖、羞恥に歪むことになるのよ……!
ちょうどその時、ブリスがマジカルバニッシュシュートでネコネッコーを元の姿へと戻していた。
あらら、あっさりとまあ。でもあれは所詮急造のモンスター。本来あんなの作る予定じゃなかったし負けたところで計画に影響はなしよ。
いや、むしろ油断を誘うという意味ではこのあっさりとした負けは逆に効果的かもしれないわ……。
ふふんと自慢げにこちらに視線を送ってくるブリスに、あたしはニヤリと笑う。
「うふふ、何を得意げになってるのブリス? それで勝ったつもり? 今日の本命はこちらよ!」
ジャジャーンとまるで通販番組の商品紹介のようなノリであたしはさっき地面に置いた二つのガラス瓶を指し示す。
「なに……? う……ひぃぃっ!?」
訝し気な顔で瓶の中を覗き込んだブリスの顔が引きつる。
まあ当然ね、何しろ片方の瓶の中では大量のナメクジがうじょうじょと蠢き、もう片方の瓶の中ではでっかい蜘蛛がカサコソと動き回っているんだから。
「な、なによこれは……! こんなの出してきてどうするつもり!?」
「さあ、どうするつもりでしょう?」
あたしはどこかイタズラっぽく言う。
「ブリス! マギーオプファーはオドモンスターを生成できるピティ! つまり……」
あらいたのね、ブリスの可愛い相棒ピティーちゃん、どっかのクソ妖精と同じ種族のくせにいい子で、聡明で、ほんと、憎らしい……。
「こいつらにわたしを襲わせるつもり!? そ、それはちょっと……いや、かなり嫌かも……」
おほほ、効いてる効いてる……。そうよね、絶対ブリスはこういうの嫌いだと思ってたわ。
どう見てもこの子美幸と同じタイプだもん。きっとあの子が好きそうなものは好きで、嫌いそうなものは嫌いなんだろう。
以前美幸がこの手の生き物に対して大げさすぎるほどの悲鳴を上げていたのを思い出したことで試しに持って来たのだけど、見事にハマってくれたわね!
「ひっ……な、なに? なんかこっち見てる?」
ナメクジと蜘蛛に見つめられてブリスが後ずさる。ふふん、いい気味ね!
ちなみにあたしはこういうのは案外平気なのだ、仮にもJCとしてどうかと思うのだけど、今はそれがありがたい。
「さてブリス、恐怖するのはこれからよ……」
「ブリス! その瓶を奪うか何か、とにかくこの場から離すピティ!」
「だ、ダメぇ……わたしあれに近寄れない……」
残念だったわねピティー、もう遅いのよ、防ぐことは不可能!!
「オドエネルギー照射! 覚醒せよ! オドモンスター!!」
ダークスティックを振りかざし、あたしは瓶に向けてオドエネルギーを照射する。
ピシッ……パキンッ!
巨大化していく蜘蛛とナメクジの圧力にガラス瓶が割れ、中からオドモンスターと化した彼らが這い出してくる。
蜘蛛の方はかなり大きく自動車並み。ナメクジの方はそれより小さい片手で掴める――そう丁度スマホぐらいのサイズだけど、通常のナメクジと比較すれば十分巨大だ。それに何よりこっちは数が多い。
数十匹のぬらぬらと光る巨大ナメクジが動き始めるその様は悪夢にも等しい光景だった。
「う、ひぃぃ……きもいぃ……」
ナメクジと蜘蛛のダブルパンチにブリスが涙目になっている。ああ、気持ちいい! これよ、あたしの見たかった光景!!
あたしはさらに追い打ちをかけるように指示を出す。
「さあ、行きなさい『グモモーン』そして、『ナメジックー』たち!!」
「だから、そのネーミングセンス……」
クリッターがボソッと呟くが、無視だ無視!
「きゃあああああああ!!」
その間にも、ナメクジオドモンスター『ナメジックー』と蜘蛛のオドモンスター『グモモーン』はブリスに襲い掛かる。
「いや、いやあ! 来ないでぇ!」
恐怖のあまり動けなくなっているのか、その場に立ち尽くし悲鳴を上げるブリス。
ああ……いいわぁ……! これが見たかったのよ!! もうあたしの中の暗黒魔女魂がビンビンよ!! いや~んもう最高ね!!! あたしは思わず顔を手で覆いながら身もだえする。
ああ、神様ありがとう……こんな素晴らしい光景を見せてくれるなんて……!!
でもまだまだこれから! 目的の一つ、恐怖は達成した! 次は……羞恥! これはかなり強烈よ?
ギャラリーのみなさんには、ふふ。楽しんでいただけるかもね。――特に男性諸氏には。
「ブリス、動きを止めちゃダメピティ!」
ピティーの言葉にハッと我に返ったブリスは、慌てて後ろに飛び退く。
しかし……。
「は、速いっ!?」
ブリスも驚く素早さでグモモーンが彼女との距離を詰める。
「こいつ、今までのオドモンスターと、違う!!」
ふふ、そうよ。気づいてなかったみたいね、あたしがパワーアップしてたことに。
オドモンスターの強さは創造主の強さによって変動するのよ!
ピピッ……。
あたしはこっそり計測器のスイッチを入れる。弾き出されたブリスのレベルは……14……。
勝った……! 想定より高かったのは流石だけど、頑張って15まで上げた甲斐があったというものね……!
ブシュアアア!!
ほくそ笑むあたしの目の前で、グモモーンが口から糸を吐き出す。
「な、なにこれ!?」
ブリスは咄嗟に避けようとするが……遅い! あっという両手両足を拘束され、建物の壁に貼り付けにされてしまう。
「う、動けない……!?」
ブリスが完全に拘束されたのを確認すると、あたしはグモモーンを手で制しつつ、ゆっくりとブリスに歩み寄る。
その途中でナメジックーを一匹拾う(あらかじめ手袋を装着しておいたのだ)とそれを手でもてあそびながらブリスに向けて言った。
「どんな気分かしら、完全に拘束された気分は?」
「く、くぅ……卑怯者! 正々堂々と戦いなさいよ!」
ブリスは拘束から逃れようともがくが、グモモーンの糸から抜け出すことは出来ない。
そんな彼女にあたしはさらに言葉を投げかける。
「あら? あたしは正々堂々と戦ったわ。この子たちはあたしの魔力で生成したオドモンスター、つまりあたしの魔法よ。だから卑怯者でもなんでもないわ」
「うぐ……そ、それは……」
言葉に詰まるブリスにあたしはさらに続ける。
「あなたにもう少し勇気があれば、こんな連中恐れることもなかったんじゃないかしら? 覚悟が足りないわよ、えぇ、正義の味方の魔法少女さん」
まるで教え諭すかのようにあたしは言った、魔法少女好きとしてつい一言言いたくなってしまうのだ。
「く、うう……」
ブリスは悔し気に唇を噛みしめる。おそらく彼女自身も自分の未熟さを痛感しているのだろう。
「魔法少女になんてなるべきじゃなかったわね……そうすれば、こんな目にも遭わなかったのに……」
あたしはねちっこく言うと、左手でさっと彼女の短いスカートを払い上げる。ふわっと捲れたスカートはその中の純白の下着を一瞬だけ晒し、すぐに元に戻る。
「おおおおっ!」
ギャラリーの中の男どもの声と、
「きゃあああっ!」
ブリスの悲鳴。
「な、なにするの!」
ふふ、いいわねこの反応! 怒りと羞恥で顔を真っ赤にしてこちらを睨みつけながら怒鳴りつけてくるブリスに気を良くしつつ、あたしはさらに続ける。
「ふふ、ブリス、よかったわね、みなさんにもご満足いただけたみたいよ? あなたの恥ずかしいところ、しっかり見てもらえたわね」
「く、うっ……」
あたしの指摘にブリスは真っ赤な顔のままに俯く。
あくまで一瞬、1秒にも満たない程度の短い時間であったがそれでもこれだけ大勢の人間に自分の下着を見られたのだ、彼女のメンタルにどれほどのダメージを与えたのかは想像に難くない。
あーもうさいっこう!! たまりにたまってたあたしの中のうっぷんが一気に浄化されていくのを感じるわ!
だけど、こんなもんじゃすまないわよ! 何しろあたしは下着より恥ずかしい格好をさせられてるのだ、パンチラを見られた程度の恥を与えたところであたしの気が済むわけないじゃない!
「これで終わりなんて思ったら大間違いよ?
あたしがこの作戦のために参考にした資料、それこそプチピュアのエロ同人だ。
魔法少女の心を砕くにはやはりエッチな目に遭わせるのが一番に決まってる!
まあ、流石にどっかに何かを突っ込んだりとかはしないけどね、それはいくらなんでも可哀想だし。
だけどブリス、あんたはエロ同人よりは幸運なのよ? 相手が魔法少女をあっさり屈服させる力を持った謎のキモいおっさんやら世界観に合わないオークじゃなくて、あたしのような若くて可愛い女の子の悪の幹部なんだから。
「エ、エロどーじんって何!? な、何するつもりなの!?」
しかし、ブリスが見せたのは困惑の表情だ、どうやら彼女はエロ同人を知らないらしい。
あら、この子想像以上にピュアなのね、やっぱり美幸を思い出しちゃうわ。
まあ、本来ああいうのって18歳未満が買ったりするの禁止されてたりするし、知ってるあたしのがおかしいともいえるけど……。
それはともかくとして、それならそれで面白い、じーっくりと教えてあげるわ、実践形式でね……。
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