ep3-2 ついに出た! あの子が噂の魔法少女マジカルブリス!!

 えっ!? まさか、このシチュエーション、このタイミング、もしかして、もしかして、この子が例の……!


 あたしやクリッター、住民の視線が集まる中、少女は腕を高々と上げると、まるで踊るかのように華麗にポーズを決める!


「マジカルパワーで幸せ守る! 魔法少女マジカルブリス!!」


 キラキラーンと効果音まで聞こえてきそうなバッチリ決まった名乗り口上だった。


 でででででで、出たーーーーーー!!! 出ちゃったよついに、これが噂のマジカルブリス……。


 本当に実在するのかまだ半信半疑だったけど、こうして目の当たりにすると確かに凄い迫力だわ……。


 思わずあたしはその子をまじまじと観察してしまう。


 金色の髪を靡かせ、白を基調としところどころに金の刺繍が施されたドレスのようなミニスカ衣装を纏ったその姿は、まさにアニメから飛び出して来たかのような可愛さだった。


 だけど、顔そのものは何というかよくわからない。この感覚を説明するのは難しいけど、顔を見てもそれが記憶できないというか……。見たそばから忘れてしまうのだ。


 美少女であるという事とあたしと同年代という事だけは認識できるのだけど……。


 しかし、この子、顔の基本構造――特にそのくりくりっとした瞳とか、よーく知ってる誰かにそっくりな気がするなぁ、それに左手首に巻かれたピンク色のリストバンドも見覚えがあるような……?


 うーんダメだ、何故か頭の中に霞が掛かってるみたいで思い出せない……。


 もしかしたら魔法の力で正体がバレないようにしてるのかも……? あたしが言えた義理じゃないけど思いっきり顔が露出してるしね……ってそう言えばあたしはどうなんだろう!?


 正体バレたら身の破滅は確定だしぃ!! あんだけ堂々と名乗り上げちゃった後だし後悔しても遅いけど、今さらながらに怖くなってきたぞ……。


 出来れば彼女と同じような魔法の力が働いてますように!! 大丈夫だよね? あたしは魔法少女ではないけど暗黒魔女だし……。


 そんなことを思いながらも、なおも観察するあたしの視線に気づいたのか、マジカルブリスは顔を真っ赤にして怒り出す。


「あ、あなた! さっきからわたしを舐め回すように見てるけど、いったいどういうつもり!?」


 あちゃー、気づかれちゃったかぁ〜。いやだって魔法少女好きとしてはどーしても気になって……。


 などと言えるはずもなく、慌てて弁明することにする。


「ご、ごめんなさい、つい見惚れちゃって……」


 ……弁明になってない気もするけど……。


 すると彼女はますます顔を赤くしながら捲し立ててきた。


「は、はぁ!? あなたわたしを馬鹿にしてるの!? 悪の女幹部にそんな事言われても全く嬉しくないどころか気持ち悪いだけよっ!」


 そこまで言わなくてもいいのに……。結構傷つくなぁ……。


 とはいえ仕方がない、あたしは今は悪の女……暗黒魔女マギーオプファーなのだから……。


「ブリス、あいつ今までの敵とは違うピティ。気をつけるピティ」


「う、うん、確かに違うね……初めての人間タイプだし……でも、あれ本当に警戒するような相手なのかなぁ……?」


「油断しないピティ! 変態みたいな格好してるけど、凄い魔力を感じるピティ!」


 えっ!? クリッター?


 ブリスにふよふよと近づき彼女と会話するもふもふの生き物にあたしは目を見開く。


 そいつの姿は、今あたしの隣にいるクソ妖精と瓜二つだったから……。


 しいて違いを挙げるとするなら、クリッターは薄汚れた灰色で体の要所に黒い線のような模様が入ってるのに対して、あっちは完全な純白。


 瞳の色がクリッターは血のような赤なのに対して、向こうは金色というところぐらいだろうか。


 マジカルブリスにも妖精がいる可能性は考えてたけど、これには驚かされてしまった。


「あいつは僕の宿敵、<ピティー>クリ。あいつが正義の魔法少女を生み出し僕たちの邪魔をしてるんだクリ」


 あたしの様子を見て取ったのか、クリッターがそう説明してくる。


「なんか……あんたと姿がそっくりなんだけど?」


 そっくりの見た目をしていても向こうより邪悪な妖精感が出てるのは流石クソ妖精の面目躍如というところだけど、偶然と言うにはあまりにも似すぎている、まるで双子のようだ。


「そりゃそうクリ。あいつと僕は同じ星で生まれた同じ種族クリ。もうちょっと言うと、僕たちは一つの生命体から分化した存在だから、きょうだいみたいな物クリ」


 あっさりと言ってくれたその言葉にあたしは目を見開く、まさか、本当に双子みたいなもんだったなんて……。


 思わず大きな声を出しそうになるが口を押え、ブリスたちには会話が聞こえないよう小声で詰問する。


「どういうことよ? あんたたち同じ種族、きょうだい同士で正義と悪に分かれて争ってるわけ?」


 そんなあたしの言葉に、しかしクリッターはきょとんとした表情を見せる。くっそ、クソ妖精のくせに見た目だけは可愛いなこいつ!


「それの何がおかしいクリ? キミたちだって同じ種族で争うことはよくあることクリ? 主義主張が違えばきょうだいだって殺し合うクリ」


「い、いやそれは……」


 確かに人類の歴史は争いの歴史ともいうし、それを言われたら何も言い返せないんだけど、どうも釈然としないというか……。


「ブリス、あいつらこそこそ何か話してるピティ! アナタを倒す相談をしてるのかもしれないピティ」


「そ、そうだね、気を付けないと……でもなんかあの子調子狂うのよね……」


 あたしの耳に、アドバイスを送るピティーと戸惑うように返すブリスの声が聞こえてくる。


 同じ種族でもあの子はクリッターと違っていい子そうだなぁ……。ちゃんとパートナーに気を使えるし……。


 しかし、口はちょっと悪いのかもしれないけどね……。


 何しろ敵とは言えあたしを変態呼ばわりだもの……いくら何でも酷すぎる……。全てこのコスチュームがいけないんだろうけど。


 ああ、あたしもあの子と出会いたかったなぁ……そうすればこんな悪の女幹部じゃなくて正義の魔法少女に……。


 思いながら、あたしの視線は自然とマジカルブリスのほうに向いてしまう。


「な、なによ、またジロジロ見て……。わたしにおかしなところでもあるっていうの!? そ、それとももしかして、自分の方が勝ってるとか思っちゃってる!? 何よ、ちょっと胸が大きくてスタイルがいいくらいで勝ち誇っちゃって……。そのふざけた衣装もわたしを挑発するため!?」


 どうやら誤解させてしまったらしい。うう、そんなつもりじゃなかったんだけどな……。


 今は悪に身をやつしているとはいえ、彼女の姿こそあたしの理想なのだ。それを否定できるはずがない。


 まあ、現れた彼女の姿を見た瞬間、服の上からでもわかるその小ささにどっかの親友と初めて会った時と同じように「勝ったな(ニヤリ)」とか一瞬思ってしまったのは事実だけど……。


 って改めてあたしって、性格悪~。けど、これは数少ない、あたしが同年代の子に対してマウントを取れるポイントだから譲れないのですよ。


 でもアニメの魔法少女って総じてちっぱいタイプが多いし、正義の魔法少女としてはマジカルブリスぐらいがちょうどいいのかもしれないよねー。


 セクシーな衣装で胸を強調しながらちっぱいタイプの子相手に勝ち誇るって、どう考えても悪の女幹部ムーブそのものだし。


 だから、こんなことで勝ってても何の意味もないのだ、むしろそれが余計に自分は魔法少女ではなくそれと対比させられる悪の女幹部だということを再認識させられて悲しくなってくる……。


 この際胸なんて全部あげてもいいから立場を交換してもらいたいくらいだわ。


 そう、立場を……。


 そんな事を想いながら彼女を見ていると、こう、あたしの中から何かどす黒いものが湧き上がってくるのを感じる。


 あたしはなりたかった魔法少女になれずに、暗黒魔女なんぞにされて、変態衣装で振りまきたくもない色気を振りまき、悪事を強要させられているというに、あの子は夢の魔法少女になって、可愛い衣装に身を包んで、正義の味方を気取っている……。


 あたしの理想を実現しているあの子が羨ましい……妬ましい……恨めしい……。そして何よりも許せない……!!


 そう思った瞬間、あたしは叫んでいた。


「オドモンスター! あの子をぶっ潰しちゃいなさい!!」


 次の瞬間、巨大ネズミが猛然とダッシュして彼女に襲いかかっていくのが見えた。


「なっ!?」


 唐突な襲撃に驚く彼女を嘲笑うように巨大ネズミが飛びかかると、あっという間にマウントポジションを取ることに成功する。


 そしてそのまま彼女の顔面にパンチを浴びせ始めたではないか!


「ブリスーー!」


 ピティーの叫び声が響く。


 周囲の人たちもその様子を見てパニックに陥っているようだ。


 よし、このままいけば勝てるかもしれない……! あたしは口元に邪悪な笑みを浮かべる。もはやどこからどう見ても悪役の姿であった。

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