"発光仮面"参上!!

真狩海斗

ビギンズ

 1

 俺は高校生童貞・鬼頭きとうタツオ。

 幼馴染で同級生の"エロ"の江口から借りたAVを見るのに夢中になっていた俺は、股間に起こった恐るべき変化に気付かなかった。時間停止中なのに動き回る犬の映像にツッコミを入れつつ、左手を添えようと下を向くと、なんと、股間が真っ赤に発光していた!!

 あわわわわ!!と叫び、股間に保冷剤やカイロをミルフィーユ状に貼りまくる自作の応急処置整う〜を施していると、騒ぎを心配した祖父じいちゃんが「どうしたどうした」と部屋に上がってきたわけなのだが、赤い火花は微笑む相手を選ばない。無情にも、赤き閃光は祖父ちゃんの目を狙い撃つ。

「ああ……あああああ〜〜っ!目がぁぁ〜!目がぁぁぁぁあっ!!」。部屋中に祖父ちゃんの断末魔の叫びがこだまし、机の上のコップがガタガタガタリと震えて割れた。

 そんなわけで、俺は40秒で支度を済ませると、三途の川が見え始めて「タツオ……いるか?」と尋ねる祖父ちゃんに「はいな、いますとも」と声をかけて安心させつつ、眼科と泌尿器科へとヒュンヒュンヒューイとマッハで向かう。スッパラパ〜〜。


 2

「赤ですね。"遠隔系"になります」

 不安と緊張のためか、「勃起」「発光」「異形の陰茎」とクソ雑魚の詠唱のようになりながらも症状をなんとか伝え、勃起状態からの発光状態(普段の勃起が超チンコなら、発光時は超チンコ2ってとこかな?)を確認してもらい、さあどんな性病が発表されるものやらとビクンビクンしている俺の耳に、"遠隔系"なる病名の欠片もない単語が医者から飛び込んできたものだから、はてはてなんぞと聞き返してしまう。


「"遠隔系"とは?」


「はい。"遠隔系"ですね。

 稀にいるんですよ。チンコが発光する方。

 で、皆さん、思春期の溢れる性欲を昇華させて特殊な能力を手に入れるんです。大体がAVみたいでね。

 色によって能力系統が違うんですけど、赤は"遠隔系"ですね。ほら、バイブを股間に入れて遠隔で操作するやつあるじゃないですか。あんなイメージ。詳しくは、お祖父さんにお尋ねいただければいいんじゃないかな。

 他だと、青は"催眠系"、緑は"結界系"、黄は"感覚系"、そして特に希少な紫が〜〜」


 医者の荒唐無稽な説明はその後も続いたが、現実感を喪失していた俺の頭には全く入ってこず、「はて?」「ひゃ〜」「ふぅ…」「へー」「ほほう!」とその場しのぎの間抜けな相槌「は・ひ・ふ・へ・ほ」を返しているうちに、あれやこれやと診察は終了し、窓口でお釣りと領収書を手渡されては「お大事に〜」と笑顔で大きく手を振られていた。

 なんのことやら、アッパラパ〜〜。

 どうにも怪しい病院だったんじゃなかろうか。祖父ちゃんに指示され慌てて飛び込んだわけなのだが、不思議なことに、この病院を検索しても一切ヒットしないのである。やはり別の病院にセカオピセカンドオピニオンすべきかしらん。

 あれれ?そういや、ヤブ医者変なこと言ってたな?

『お祖父さんにお尋ねいただければ』?

 なんで祖父ちゃん?


 肩を叩かれ振り向くと、祖父ちゃんが静かにスッと立っている。すっかり正気を取り戻した様子で、眼光は猛禽類のように鋭く研ぎ澄まされ、鉄の芯が入っているかのように背筋はピンと伸びていた。皺が誇り高く刻まれた表情は精悍で、瞳の奥では青い炎が揺らめいている。あれれ?何なのこれ?と普段とのギャップに俺は慄き、問いかける。


「祖父ちゃん……だよね?」


「そうか、タツオ。お前にも発現しおったか。

 これから修行に入るぞ、着いてこい。

 能力スタンディングを使いこなせ」


 3

 祖父ちゃんが、かくかくしかじかこしたんたんと語ったところによれば、祖父ちゃんも若かりし頃にこの能力を持っていたらしい。そして、能力スタンディングを武器に、仮面のヒーローとして街を守っていた。ヤブ医者はそんときの仲間だそうな。

 しかし、俺からすれば、そんなことは知ったこっちゃあない。華の高2の若人から青春を取り上げるなんて許されていないんだよ。何人たりともね。そうやってブー垂れる俺に、祖父ちゃんはボソリと言う。

「ヒーローはモテるぞ」

 止めてくれ祖父ちゃん。その言葉は童貞オレに効く。そんなんなるしかないじゃんね。判断の早い俺は恋愛アプリを速攻消去「1...2の...ポカン!」し、祖父ちゃん、いや、師匠と固く握手を交わす。俺たち師弟の誕生を祝福するかのように、夕陽が空を真っ赤に染め上げていた。


 そこからは、ひたすらに修行の日々だった。

能力スタンディングは勃起時に発動される」と祖父ちゃん。まずは、いつでもどこでも勃起できる瞬発力神速のインパルスが必須だった。それを身につけようと決めてからは、まずはイメージ修行だな。俺は、AV→グラビア→保健体育の教科書→コンセントの抜き差し、と徐々に段階レベルを下げ、最終的にはコンセントだけで"パブロフの犬"的に勃起できるようになった。なんなら、パブロフの犬を見ても勃起可能だぜ。

「次は勃起持続時間を伸ばすぞ」と再び祖父ちゃん。祖父ちゃんと毎日欠かさず、腕立て伏せ100回、腹筋100回、スクワット100回、10kmのランニング、あとは感謝と正拳突きに励む。日本人の平均勃起持続時間は、数分から30分程らしいのだが、厳しいトレーニングの甲斐もあり、万全の状態エンペラー ・タイムでの俺の勃起持続時間は3時間を優に超えるようになった。

能力スタンディングを扱う基礎体力が出来上がったな。いよいよ能力の開発じゃ」と最後に上機嫌な祖父ちゃん。とりあえずは江口から「くぅーっ。遠隔系でござるか。お目が高い」と謎の絶賛とともに借りた遠隔操作ものAVを観たり抜いたりしながらピューダララと"遠隔系"能力スタンディングのイメージを構築していく。

 こうして完成した能力スタンディングが、"童貞夢イノセンツ"。

『一定の範囲内で、対象に、を与えることができる』のだ。思い返してみると、能力スタンディング初日にコップが割れたのも、無意識のうちに不完全な"童貞夢イノセンツ"が発動していたからなのかもね。

 

 俺が"童貞夢イノセンツ"で巨大岩を割ると、祖父ちゃんは腕組みしたまま、一言「成ったな」と呟き、半年に渡る壮絶な修行がようやく終了。俺は祖父ちゃんから受け継いだ鬼の仮面を被り、ヒーローとして街へと繰り出すこととなる。パンパカパ〜〜ン!

 西に強盗あればナイフを"童貞夢"イノセンツで振り落とし、東に飛び降り自殺あれば自殺者を"童貞夢"イノセンツで高速振動させて無傷で着地させる。

 トレンチコートに身を包み、鬼の仮面がギョロリと睨む。ピカピカ輝く股間から真っ赤な閃光、悪・即・斬。

 人呼んで、"発光仮面はっこうかめん"。

 あゝ、発光仮面。あゝ発光仮面。発光仮面は今日も征く。街の平和を守るため。皆んなの笑顔を守るため。ってな感じでね。

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