One day true love〜二人に綴られるあの日の記憶〜

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One day true love〜二人に綴られるあの日の記憶〜

俺は佐藤将司、自衛隊員として国民のために命をかけてその仕事を全うしている。そんな俺は2年間の交際を経て、恋人の藤原愛と婚姻届を提出し結婚した。そして今日10月21日は結婚初日であり自衛戦争の出兵前日だ。


あれは2年前のこと。俺たちが”今の俺たちとして”初めて出会った。俺が水族館に行った時彼女に一目惚れした。魚を見る彼女のその横顔が神秘的に見え、頭から離れなかった。俺は周りを気にせず彼女を探しに行った。

そして偶然にも彼女と出会った。彼女も俺を探していたのか、俺を見つけた瞬間立ち止まった。

「あのっ。」

「あのっ。」

声が重なる。

「佐藤くんですか?」

彼女はそう言った。

「なぜ俺の名前を?」

「え、高校の時同じクラスだったでしょ。」

「もしかして前田さん?」

「そう!思い出した?」

俺はわずかな記憶からその名前を思い出した。

「忘れてたんだ、でも思い出してくれて嬉しいよ。佐藤くんは知らないでしょ。高校時代、私が佐藤くんを好きだったこと。」

その瞬間、時間が止まる。この場に空白が生まれる。そして俺はその言葉の意味を遅れて理解した。

「えっ、前田さんって俺のこと…」

「好きだよ、昔から佐藤くんは優しくて、気配りができて、次会えたら好きってことを伝えようと思ってたの。」

彼女は周りの視線を気にせずに言う。

それから俺たちは休日にデートを重ね、同棲、そして今に至る。


「将司さん、おはようございます♪」

愛が寝ている俺に乗っかりながら笑顔で話す。

「おはよう、愛」

俺はそう言って唇を合わせる。

その後俺たちは会話とともに支度に行動を移していた。

「じゃあ行くぞ〜。」

「うん!」

俺たちが向かったのは水族館。愛が真っ先に行きたいと言ってた場所だ。思い出が濃く俺たちを繋げた場所でもある。

チケットを店員に渡して中に入ると、昔と何一つ変わらない風景が広がっていた。

小ケースに所狭しと入ったエビやカニ、中央に展示されたチンアナゴ、メインでゆっくりと泳ぐたくさんの魚…。360度どこを見ても色褪せず残っていた風景に目頭が熱くなる。ふと愛の方を見ると気づけば涙が溢れていた。あの時見た愛の横顔と重なっていた。泣いている俺に気づいた愛が、

「将司さんどうしました?」

と少し困惑しながら尋ねる。

「いや、なんでもない。ちょっと懐かしくなっただけ。それより先に進もうよ。」

俺は右袖で涙を拭く。

奥へ進むとアーチ状の展示があった。初めて見る場所だ。最近作られたのかガラスのくすみがなく綺麗な状態だった。上を見上げると普段は見れない魚の一部が目に入る。その魚を目で追っていると愛と目が合う。少し恥じらいながらニコッと笑う愛に目を奪われる。先ほどまで普通に繋いでた手はいつの間にか恋人繋ぎになっていた。一番奥まで行くと記念撮影コーナーがあり、最高の思い出をカメラのフィルムに収めた。

記念撮影が終わり水族館から出ると11時半をまわっていた。

「愛、少し急ぐよ。」

俺は愛を少し急かす。なぜなら次に行くのは少し遠い店だからだ。


予約通りの時間に店に着いた。ここは俺たちが交際1年記念のデートで行ったファミレスだ。当時はあまりお金がなかった。だからそこまで高くなく雰囲気のある店を選んだ。

俺たちが昔の風景に感傷に浸っていると、

「ご注文お伺いします。」

と若い男性が対応してくれる。

「ドリア2つとハンバーグ1つとドリンクバー2人お願いします。」

「かしこまりました。」

そう言って男性は厨房へと向かう。

このメニューは1年前と同じものだ。

「愛はアイスでよかったっけ?」

「うん、ありがとね。」

俺は一応確認を取ってからドリンクバーへと足を運ぶ。

「はい、アイスコーヒーとシュガーね。」

「ありがとう。」

そう言って愛はシュガーの4分の1ほどをコーヒーに入れる。

「久しぶりに来たな〜。いつぶりだろう。」

「1年記念以来じゃないっけ?」

「もうそんな昔か〜、時の流れは早いな。」

俺たちが話していると、

「お待たせいたしました。ご注文のドリアとハンバーグです。伝票はこちらに置いておきます。何かご注文はありますか?」

先ほどと同じ男性が来る。

「チョコレートケーキとチーズケーキで。」

「かしこまりました。」

再び男性は厨房へと向かう。

「愛珍しいね、直接注文するなんて。」

「だって気持ちが先走っちゃて。」

「愛らしいね。」

と、そんな会話をしながら食事を進める。昔と変わらない味。ある意味実家のような安心感が感じられる。

「お待たせいたしました、ご注文のチョコレートケーキとチーズケーキです。失礼します。」

店員が下がると、

「美味しそうだね。」

と愛が笑みをこぼす。

その後ゆっくりと食後のティータイムを送る。

1時間半ほどで店を出た俺たちは予定通り映画館に向かう。最近映画化された「俺も貴女も二人いる」と「側室って何人までですか?」を見るためだ。

俺たちはアニメや漫画、小説が好きで色んな作品を見ていたが故に映画化が嬉しかった。


2作品計4時間が過ぎ時間は18時になった。そして俺たちはタクシーに乗ってラーメン屋に行く。

「映画良かったね。」

俺が小さな声で話すと

「俺あなの最後の展開も側室の胸キュンも最高だったね。」

と愛も返す。

映画の話をしているうちにラーメン屋に着いた。選んだ理由は2人の一番好きな食べ物がラーメンだからだ。

暖簾をくぐると嗅ぎ慣れた出汁の香りが鼻から吸い込まれる。

「いつもの2つで。」

このラーメン屋の常連の俺たちは店主に慣れた口調で注文する。

5分ほど待つとラーメンが出てくる。

「いただきます。」

いつも通り食べ進めていると愛の目から涙がこぼれ落ちる。

「愛どうした?」

「これが将司さんとの最後の食事になるかもしれないと思うと…。」

雰囲気のない個人経営のラーメン屋で1人泣く愛を見ていると俺も目頭が熱くなる。俺たちは涙を拭いながら再び食べ始める。

「ご馳走様でした。」

ラーメンを食べ終え、会計を済ませて店を出る。

「愛、帰るよ。」

「はい♪」

俺たちは長いようで短かった1日を終え帰路に着く。


家に着いて始めに風呂を沸かす。時刻は19時半頃だった。15分ほど経ち、

「将司さんお風呂沸けましたよ〜。」

ベットで明日の予定を再確認していた俺は愛の報告に、

「ありがとう、今から入る。」

と返事をする。

そして俺は風呂に入り20分ほどで出る。

「上がったよ〜。」

と愛に聞こえるくらいの声を出す。

「は〜い。」

と愛も俺に聞こえるくらいの声で返す。

愛が風呂に入ってから数10分ほどゲームをしていると、

「将司さん上がりました。」

愛が長い髪をなびかせながら寝室に入ってくる。そして、

「将司さんは何時くらいに寝ますか?」

と聞く。俺は、

「今21時前だから22時くらいかな。」

と言う。

「そっか、ならいいよね。」

そう言って愛は俺の上に乗り唇を重ねる。

「愛、今日はだめだぞ、明日に疲れを持っていくのは流石に…。」

「分かってるよ、でも…、だからこそ甘えさせてよ。」

愛が上目遣いで言う。

「まいったな。」

と言って愛に抱きつく。

夫婦として最後となるかもしれない戯れはとても濃厚な時間となった。

「愛おやすみ。」

「おやすみなさい、将司さん。」

そう言って俺たちは眠りにつく。


「将司さん、おはようございます♪」

「おはよう愛。」

何気ない会話から日常は始まる。俺は起きてすぐにシャワーを浴びる。そしてリビングに行くと愛が朝食を作ってくれている。

「ありがとうな。」

「いいえ。」

俺は少し早めに朝食を摂り身支度を済ます。

玄関まで2人で行き、

「愛」

俺は愛に抱きつく。少し苦しくなるくらいかもしれないが、今だけは許してほしいと思いながら。すると愛も、

「将司さん」

と言いながら受け入れてくれる。

「愛してる、絶対生きて帰るからそれまで無事でいろよ。」

俺は泣きながら愛に別れの一言を告げる。

「私も愛してます。将司さんのこと待ってますよ。」

お互い感謝は伝えない。伝えると今生の別れのように感じてしまうから。

「愛、行ってくる。」

「いってらっしゃい将司さん。」

そう言って俺は家のドアを開ける。そしてドアが閉まると同時に涙がこぼれ落ちる。別れの時には2人とも泣かなかった。泣きたい気持ちをグッと堪えた。今頃愛も泣いているだろう。そして俺は気持ちを切り替えて自衛隊基地へと歩みを進める。


1年半の時が流れた。自衛隊は無事自衛戦争に勝利した。そして4月、桜並木が自衛隊を出迎えた。この光景は日本全国に放送される。自衛隊としての責務を果たした自衛官は自衛隊基地を19時に解散した。

俺が家から最寄りの駅に着いたのは21時になろうとした頃だ。疲れ切った体を一歩ずつ前に進める。そして家に着いた。

ガチャ、俺は家のドアを開ける。するとそこには愛がいた。

「おかえりなさい将司さん。」

泣きながら出迎えてくれた愛に俺も、

「ただいま愛。」

と返す。そして1年半ぶりに愛を抱きしめる。愛も俺を強く抱きしめる。

「将司さん、ありがとう。」

何を感謝してるかはすぐにわかる。

「愛、ありがとう。」

俺も感謝を伝える。きっと愛にも伝わっているだろう。お互い生きていること、それが何よりも嬉しい。

「将司さん、お風呂沸いてますが、食事とお風呂どちらにしますか?」

「食事にしたい。」

俺は愛の手料理を何よりも楽しみにしていた。

「いただきます!」

テーブルにはこれでもかと並べられた料理がある。どれを食べても一級品に感じる。忘れかけていた感覚を思い出す。

「ご馳走様でした。」

俺は出された料理を完食した。これには流石に愛も驚いた。そして風呂に入る。久しぶりに気を張らずにくつろげる環境に幸せを感じる。その後風呂から上がりベットの倒れ込む。

「将司さん、もう寝ますか。」

「うん、今日はもう寝るよ。」

そう言って久しぶりの長い眠りにつく。


家に帰ってから1年後に俺たちは第一子を授かり、今俺たちは幸せに包まれている。あの日あった出来事は一生、俺と愛の2人だけの胸に刻まれながら。

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