あとがき

あとがき

   今回は文庫版「蓮が咲いたら」をお買い上げし、また読んでくださりありがとうございました。本編はいかがでしたでしょうか。二〇二〇年の秋に原案となったイラストを投稿し、そのキャラに名前をつけ、設定を練ってその都度公開していくうちに、本編を期待するリプライをいただき、なんとなく書いてみようかな、となって書き始めたのが当創作の始まりです。

 初期のころはあの時代の千葉に対して殆ど無知だったこともあり、ストーリーはあまり浮かんできませんでした。しかし調べ物を進めていくうちに、少しずつ解像度が上がり、プロットを練って執筆を始められるほどになりました。一話投降後しばらくは実生活が忙しかったこともあり、進捗状況も芳しく無かったのですが、二〇二二年の初夏ごろから少しずつ執筆を再開していき、九月の初めに完結となりました。このころは、同じく自創作本編を執筆しているツイッターのフォロワー様方が公開のたびに読んで感想をくださった、というのも大きな励みになったなと感じます。呼んでくださったフォロワーの皆様、本当にありがとうございました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

 完結してから半年ほど置くといい、というフォロワー様からのアドバイスをもとに今まで特に内容をいじることなく置いていたのですが、時折読み返すことも実はしていました。書いた当初は ストーリーが微妙なんじゃないか、不自然ではないか、などと考えていたこともありましたが、好意的な反応を多くいただいたこともあり、少々自分に自信が出てきました。ありがたい。

さて、そろそろストーリーそのものの振り返りもしようと思います。実は「蓮が咲いたら」に出てくる登場人物の中には立場上のモデルがいるキャラクターがいます。サキに優しくしてくれた上級生である丘部敏子と、女学校の校長先生、青海修太郎です。この二名には先述した通り立場上のモデルが存在します。まず敏子のモデルになった女学生の方について、蓮咲高女のモデルとなった高等女学校では作品内同様、学校工場での作業が行われていました。六月十日、日曜日で本来作業は行われないはずでしたが、前日に急遽、その方が入っていた四人班のみ出勤が言い渡されたそうです。そして十日の空襲で作業が行われていた雨天体操場は爆弾による被害を受け、四人のうち二人が亡くなり、もう二人も大怪我をしています。最初、千葉県で一番有名な女学校(と当時の私は考えていた)という理由でモデル校を決めましたが、この事実を知りこの学校のことを書くならこの出来事に関しても入れるべきなのではないか、と考え、すでにキャラクターの概形が出来上がっていた敏子とこの話を組み合わせることに決めたのです。次に校長先生について、名前は伏せますが、当時のモデル校の校長先生も、作品内の青海先生同様、七月七日の空襲で焼夷弾の直撃を受け亡くなっています。彼は生徒たちに慕われていたようで、当時の女学生たちによる手記を読むと、その死を悼む記述が出てきます。この出来事もやはり前述の出来事と同じように加え入れねばならぬと思い書いたのです。しかしただ亡くなった、だけでは読者に印象付けることができないと一話をあの展開にしました。

ただ、このように実在のモデルを立場のみとはいえ自身の拙い小説に入れてよいものか、という葛藤もありました。多くの人に読んでもらえないであろう小説に、このような要素を入れていいものか?そんな葛藤もありました。しかし少しでも多くの人にあの人たちのことを知ってもらいたい、という一心で書き上げることにしたのです。さらに、特定のモデルこそいませんが、主人公たちが遭遇した七夕空襲に関しても様々な人の手記をもとに書き上げています。これも同じ理由です。

今、ウィキペディアで千葉の空襲に関して調べると、少しずつ風化している、という記述が見受けられます。ウィキペディアは本当のことが書いてあるとは限らない、と言います。しかし今残る千葉市の戦跡の碑はあまり有名ではなく、そもそもなぜそこに碑やモニュメントがあるのか、戦時中の千葉市、地元で何が起こったのか、知っている人は少なくなってきているように感じます。そういう私も、出来事こそぼんやり知っていても、モニュメント等の本当の意味を理解したのは作品執筆と調べ物を開始してからでした。これらの事象に対して私が、私の作品ができることは本当に些細なことでしかありません。しかし、この本を読んでくださったあなたが、先の大戦について、また千葉市だけでなくあなたの地元で戦時中何が起こっていたのか。それらのことにこの作品を通して少しでも興味を持ってくださったのなら、作者としてとても嬉しく思います。

春風蘭子

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