The Continental Wars

広瀬妟子

プロローグ

 最初に招かれた時、『彼女』は言った。


「最初は、些細なミスでした。しかしそのミスが大きな過ちとなっていき、やがては世界そのものを蝕む脅威となってしまった」


 私達の交通手段を模した方法で移動する方が気が楽になると考えたのだろう、電車の中で『彼女』は向かい側の席に座り、血まみれの姿で話しかける。


「貴方はこうして、私達からの求めに応じてくれた。貴方ならばきっと、私の過ちを正し、あるべき未来へと導いてくれるでしょう。重要なのは経験ではなく選択なのだから」


 その言葉に、私は何も応じる事は出来なかった。だが何故か、一体何をすればいいのか理解はしていた。


「だからどうか、貴方なりの選択で、奇跡を…」


・・・


大陸暦1025年4月2日 ユースティア連邦共和国 首都キヴォトスA.D.


 ユースティア連邦共和国は、高度な自治権を持つ14の州と、首都機能を有する1つの特別行政区で構成された共和制国家である。その成立までの歴史は新しく、75年前のヨーシア大陸全土で起きた動乱にて誕生した中小国が、西で勢力を拡大する大国に備えるべく糾合したのが始まりとされている。


 その首都、テルムズ川を西へ遡上した先にある特別行政区キヴォトスA.D.は、遥か昔人々を災禍から救った箱舟キヴォトスが辿り着いた地として伝わる聖地であり、国家三権を成す連邦議会、連邦最高評議会、連邦最高法院が設置されている。


 その街並みは、地球の人々の視点から見ても不思議なものだった。旧市街には洋式建築物と和式建築物が入り乱れ、新市街は近代的なビルディングと古めかしい赤レンガの建物が並んでいる。道路上では数百台もの自動車と数千人の市民が行き交い、上空では少なからずの人々が、箒や背中から伸ばした翼で飛び交っている。


 そしてキヴォトス西部郊外、アスガルズ地区にある連邦軍基地『ヴァルホル』に、一人の青年の姿があった。


「君が、佐々木将悟か。話は評議会から聞いている。私は連邦軍統合参謀本部長の富樫とがしだ。早速だが説明に入ろう」


 連邦軍の最高司令部である統合参謀本部、そのトップである参謀本部長室にて、富樫はそう言いながら、目前に立つ佐々木に対して一冊のレジュメを手渡す。


「元々この世界は、『剣と魔法』が力と知恵の象徴だった。ここに来るまでに見かけた人々ですでに察しているとは思うが、地球では神話やおとぎ話の存在であるものが当たり前の様に存在している。しかし75年前に起きた戦争を経て、大陸の国々は力を求め、『外』から無理やり知恵と力を引き寄せ始めた」


 富樫の言葉に、佐々木はここに来るまでに会った人々を思い返す。確かに、動物の特徴を色濃く有する者達が多数見受けられた。


「結果、人々と共に地球の科学技術と、多量の兵器が無差別的に持ち込まれ、戦火を拡大させていった。『向こう側』がそれに気付いた頃には、この世界は『銃と科学』が力と知恵の象徴になり、長い冷戦の幕が開けたという次第だ。それが今のこの世界だ」


「…だから、私をここに招き入れたと?」


「ああ…君は確か、向こう側では教職員を志望していたそうじゃないか。防衛大を卒業し、自衛官として十分たる条件を得た君の可能性を、『召喚主』は信じたのだろう。さて、挨拶をしなさい」


 富樫に促され、一人の女性士官が前に立つ。水色のショートボブの女性は佐々木に敬礼をしながら名乗る。


「初めまして、佐々木中尉。私は小原おばらアロナ。階級は陸軍少尉、統合参謀本部付き士官を務めております。富樫本部長より佐々木中尉のサポートを仰せつかっています」


「聞いての通り、君には陸軍中尉の階級が与えられている。彼女は間違いなく、君の助けとなるだろう」


 富樫がそう言う中、佐々木は彼女に顔を向け、握手を求める。


「これからよろしく頼むよ、小原少尉」


 佐々木はそう言い、小原と握手を交わすのだった。

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