第2話 通勤電車
マンションをあとにした
「う……」
席に座って少し経つと、腹部が猛烈に痛み出してきた。
(な、なんだよ、これ……)
腹の中をかき回されているかのような激痛だ。
(ヤバいって、このままじゃ……)
彼は患部を手で押さえ、背中を丸めている。
「にょこちゃんフーズのたっぷりキノコセット! さまざまなキノコをまとめてパックしました! おいしいキノコを召し上がれ!」
誰かの端末から食品会社のCMの音声が聞こえる。
しかし片瀬が腹が痛くてそれどころではなかった。
(もうすぐ駅につく……そしたらトイレにダッシュだな……)
そんなことを考えているうちに、電車は駅にとまった。
彼は急いでプラットフォームへ降りると、足早に改札前のトイレに駆け込んだ。
「ふう、やばかった。なんとか間に合ってよかったよ……」
片瀬はふと、さきほどの出来事を思い出した。
テレビが告げた謎の単語、キノコ注意報――
もしかして朝ごはんのキノコが当たったのか?
そんなことを考えた。
「まさかな……」
彼はトイレを出ると、改札を通った。
大型モニターでは朝のニュースをやっている。
片瀬は何の気なしにそちらへ目をやった。
「〇〇区内の一部のスーパーに、毒性を持つキノコが誤って混入された食品が陳列されたとのことです。製品名は『たっぷりキノコセット』で、幸いにも事実を確認した販売元のにょこちゃんフーズが、すぐに回収を指示したとのことですが、当該スーパーの情報によると、該当する商品を購入されてしまった方が、一名だけいらっしゃるようです。もし心当たりのある方がいらっしゃいましたら、決して該当する商品は開封せず、すぐに廃棄したうえ、メーカー側に問い合わせてほしいとのことです」
女性アナウンサーの言葉に、彼はゾッとした。
「たっぷりキノコセット……そういえば、そんな名前だったような……」
片瀬はなんだか背筋が寒くなって、腹痛もすっかり忘れてしまった。
「キノコ注意報、キノコ注意報……」
彼はぶつぶつとつぶやきながら、幽鬼のように会社へと足を進めた。
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