第4話 適応能力

草木も眠る丑三つ時。楓とルナが寝たのを確認したヨルは近くを散策していた。

もちろん、2人には結界を張っているため襲われる心配はない。ヨルの結界を壊せるということはつまり、あり得ないほどの攻撃力を有しているか、結界の法則すら変える力を持つモンスターということだ。だがこの近くにはそんな気配は感じないため、割と安心して散歩している。


「わふ〜わふ〜♪」


久しぶりに楓に頼られたことと、再び楓と一緒に居られること。この2つの原因で、ヨルはかなりご機嫌だった。家を出てからずっと鼻唄を歌いながら歩いている。

ちなみに現在、ヨルは全力で気配を消しており、寝ているであろうモンスター達には全く気づかれずに移動出来ている。



──数分後

ヨルは街の中心辺りにある廃ビルに来ていた。数ある気配の内、一番強いであろうモンスターがこの廃ビルに居るからだ。

ヨルはビル内の気配を探り、敵の情報を探る


「わふぅ…」(強いのが1匹、そこそこが24匹、雑魚が35匹居るな…)


ヨルは敵の数を確認すると、廃ビルを覆うように結界を発動する。


【封結界 夜】


以前楓達と戦ったときに使った【強化結界 夜】は、自身へのバフに特化した結界だった。しかし今回使った【封結界 夜】は、相手へのデバフに特化している。デバフの内容は、攻撃力低下、移動速度低下、魔力吸収である。しかもこの結界は閉じ込める能力もかなり強く、本来は強力な相手を封印するために使うのだ。しかし、ヨル自身がかなり強く、ヨルに勝てる相手が少ないため、ほとんどヨルのストレス発散用になっている。


「わふ〜♪」(て〜き!いっぱい!)


ヨルは結界が張れているのを確認すると、堂々と入口から入って行った。


─中はあちこちに穴が空いていた。元々はどこかのオフィスだったのだろうか。そこら中に椅子や机が散乱している。

ヨルが興味深そうに周りを見ていると、横から気配を感じた。そちらを見ると、ゴブリンが10体ほど、装備を持って立っていた。

ヨルは直に興味を失い、魔力を込めて爪を振るった。直後、壁が抉れ、壊れる音とともに、ゴブリン達はバラバラにされていた。

殺したゴブリン達を見ることすらなく、ヨルはまた鼻唄を歌いながら次の気配の元に向かった。


ヨルは一際大きい気配のある部屋の前まで来ていた。道中でそこそこのやつと雑魚は全て殺してきた。それでも、返り血を浴びることなく、綺麗な毛並みのままである。

少し休憩したヨルは、その部屋の扉を開けた。その瞬間、ぶわっと、ヨルほどではないにしろ強力な威圧が襲った。

威圧してきた者を見ると、そこには月明りに照らされるがいた。部屋の中は乱雑しており、破壊された壁や使う人が居なくなった椅子などがあった。

虎は封結界のせいかかなり苛立っており、ヨルのことを射殺さんと睨みつけていた。ヨルは冷静に、相手の実力を推し量る。


「ぐるる…」(実力的には僕の方が上、だけどさっきまでの雑魚達とは格が違うな。かなり戦い慣れてる。)


恐らくこのモンスターは、かなり始めの方から生きているのだろうと考える。

そうするとかなりの戦闘経験があり、このビルを拠点にしていたところにあの雑魚達が住み着いたのだろう。目的は恐らく寄生。白い虎が倒した得物の残りにありつこうとしていたのだ。

ヨルほそこそこ面倒くさそうな相手を前にうんざりしつつ、虎を睨み返す。



──じりじりと両者睨み合う。ヨルが仕掛けようとした瞬間、虎が魔法を使用する。使ったのは土魔法で、そこら中に落ちている粉砕された壁の一部や小石を飛ばしてくる。

ヨルはそれをバックステップで避け、柱の近くまで行く。避け始めた瞬間、虎は一直線に突っ込んでくる。そのまま噛みつこうとしてきたので、ヨルは魔力を固め、それを飛ばした。

突然飛んできた未知の物に、喰らうか、避けるかの択を迫られた虎は、一度冷静に避けることを選択した。虎はそのまま右にジャンプして避ける。しかし、ヨルはそれを読み、既に次の魔法を用意していた。空中に居る間を狙い、ヨルは準備していた魔法を発動する。


【魔爪 空斬】


使用したのは楓達との戦いでも何度か使用した不可視の斬撃。虎は斬撃を視認できず、避けるタイミングを外した結果、首を真っ二つに裂いて一瞬にして絶命した。


「わふっ!」(ふぃ〜!結構動いたな〜!)


本当に散歩のつもりで来ており、ここまで動くと思わなかったヨルは、今し方倒した虎の方を見る。首を真っ二つ。もう動くことはない。

途中、ヨルが魔力の塊を投げた時にはもう勝利への道が見えていた。かなりのスピードで走ってきていたため、急に止まることも出来ない。ヨルから見て柱の右には、使われなくなった椅子やガラクタが大量に積まれており、そもそも虎は左に避ける選択肢しかなかったのだ。あとは着地を狙って魔法を使えば勝利。もし仮に虎が攻撃を喰らってでも突っ込んできた場合には、魔力の塊が当たった瞬間強力なデバフが掛るようになっていた。

恐らくヨルはモンスターの中ではかなり狡猾な部類だ。一瞬で作戦を立て、それを実行に移す。その際相手がされて嫌なことを入れるのも忘れない。こんなことは並のモンスターに出来ることではない。


作戦がハマってご機嫌なヨルは死体を横目に廃ビルを去った。時刻はもう4時過ぎ。ヨルは2人が起きる時間まで散歩しながら、家までの道を辿った。



「──わふ〜♪わふ〜♪」(ご主人〜♪ご主人〜♪)


また鼻唄を歌いながら家に帰ってきたヨルは、結界をすり抜けて中に入る。

家の中を覗くと、まだすやすやと眠る2人の姿が見えた。後ろから腰に手を回し頭をぐりぐりと押し付け寝ているルナの手の中で、楓が幸せそうな顔で寝ている。

ヨルは庭に丸まり、2人が起きるのを待つことにした。



──3時間後

楓が起きて家から出てきた。


「ふぁ〜…あ、おはようヨル。警備お疲れ様。後は私がやっとくから、ルナちゃんの抱き枕になってあげて?」

「わふぅ…」


楓はルナの拘束からどうやって抜け出して来たのだろうか。そんな疑問を感じながら、ルナが起きるまでの1時間、ヨルは抱き枕になることが決定した。



「ヨルぅ〜…えへへ、おはようございます。今日は良い天気ですねぇ。あなたももふもふです。」

「わふっ!」


ヨルはルナが起きた瞬間に撫で回されていた。ちなむまでも無いと思うが、寝起きのルナはとても可愛い。どこかの勇者の心臓が爆発する音が聞こえるくらいには、破壊力抜群だ。ヨルが数分程度ルナと戯れていると、心臓爆発から復活したのであろう某勇者が家に入ってきた。


「ぐふっ…かなり重症だけどまだ死ぬわけには行かん。てことでおはようルナちゃん。」

「えっと…はい。おはようございます楓ちゃん。」

「今日はどうしようか。まず食料と水の問題を解決しなきゃなんだけど…」

「狩りに行って、その後大きめの川に行けば良いんじゃないですか?川の水くらいの綺麗さなら私が【浄化】を使えば浄水に出来るとと思うので。」

「良し、それで行こう。後、とりあえず安定するまではここに留まることにしようか。」

「はい。分かりました!」


2人は今日の予定を決めて準備を始めた。

ヨルは楓に話しかける


「わふ?」(僕は?)

「ヨルは〜…夜中警備してくれてたしいったん戻って休んでて。また夕方辺りになったら呼ぶから。」

「わふ〜」(分かった〜)


そう言ってヨルはぬるりと空気に溶けて消えた。これはちなむと、楓はヨルと心が繋がっているため何となく言いたいことが分かる。テイマーとしてはかなり重宝するものだが、これは上級の人でないと出来ないらしい。

と言っても楓は始めから出来た訳だが。



──はい!どうも!ヨルが消えたので視点を貰った空神楓です!ヨルが夜中警備してくれて助かった〜!ルナちゃんから抱きついて貰ったしうへへへへへ。っと危ない。また心臓爆発するところだった。

─ということで今日は狩りだーー!!!!

いや〜狩りなんて久々にするな〜…魔王討伐直前はずっと携帯食の干し肉だったし…うん、別に不味くはなかったよ。日本の料理に比べたら当たり前に劣るから物足りなかっただけで。

じゃ、早速準備していきますか。と言っても別に準備するものなんて無いんだよね。寝癖とか、直したところで見られる相手すらこの世界には居ないし。あ、でもルナちゃんに見られるか。ちゃんとするしかねぇ!

てことで準備するか〜



──はい。準備終わって、今近くの草原まで行ってるところです。確か草原の奥に森があったはずなんだよね。あわよくば野菜とか、果物とかもあると良いな〜。

っと、草原はすぐそこだけどモンスターがいるな。あれは…スライム?


「ルナちゃん、あそこスライムがいる。」

「あ、ほんとですね。どうしますか?」

「う〜ん戦っても良いんだけど、懸念点が一つだけ…」

「懸念点?なんですか?」

「うぐぅ…これをルナちゃんに教えてしまっても良いのか…」

「なんです?!私には教えられない内容なんですか?」


これは…言ってしまっても良いのだろうか。

これを言ってしまったら、ルナちゃんが穢れてしまうのでは…………いや、言うべきだ。

もし私が教えなかったせいでルナちゃんがひどい目に合うよりましだ。


「ルナちゃん。懸念点を話すにはまず、今私達がいる日本について話さないといけない。」

「楓ちゃんが元々いたところですよね…ごくり…」

「日本という国はね…………超が付くほどの変態大国なの。」

「………へっ?ど、どういうことです?その話とスライムに何の関係が???」

「良いかいルナちゃん。日本人という恐ろしい種族は、"擬人化"という技術を用いて色々なものを性欲の対象とするほどの、ある意味化け物なんだよ……ねぇルナちゃん。あっちのスライムはどんな感じだった?」

「え?えっと、ぶにぶにで顔に張り付いて来るから呼吸困難で亡くなる人もたまにいて、後…適応能力が高い?」

「そう!スライムって色々能力があるけど、代表的なのは"適応能力"だよね?」

「そうですね。炎の魔力とか、氷の魔力とか、色々な物に適応してました。」

「ルナちゃん…そんな適応能力の化け物が、日本なんて言う変態大国に適応してしまったら…どうなると思う?」

「そ、それって…///」

「つまり結論を言うと、スライムが日本のスライム像に適応して、とんでもないエロモンスターになってる可能性がある…」

「えっと…それ、やばいですよね?」

「うん、超やばい。」


冗談っぽく喋ってるけどこれはガチ目にやばいと思う。日本のスライム像と言えば?極端に雑魚か、最強か。それともエロか。

もしエロに適応していた場合、触手で絡みついてきたり、服だけ溶かす酸とか飛ばして来かねない!酸は誰も見る人居ないし、まだましだとして、リアル触手プレイとか…女の子として終わりだよ!終わり!


「ど、どうするんです?」

「気づかれる前に殺るしかない。多分、相手の感知射程よりこっちの目視の方が距離があるから、遠くから魔法で攻撃しよう。」

「分かりました。とりあえずバフかけます」


【攻撃力上昇】


スライムはあっちの世界では割と脅威だった。打撃は効かないし、攻撃手段が顔に張り付きってちょっと姑息だし。適応して色々な魔法放ってくるし。

でもこの世界なら、攻撃に関しては打撃ですら問題は無いと思う。だってこの世界、スライムの一般的なイメージが"雑魚"だもん。多分攻撃を当てさえすれば倒せる。

落ち着いて狙え。当たれば勝ち当たれば勝ち


「ここだっ!」

火矢ファイアーアロー


弓を引く様に魔法を放つ。放った火の矢は軌道を変えることなく、真っ直ぐとスライムに飛んでいく。そして、スライムの核部分に着弾する。着弾した瞬間、スライムの身体がぶわっと燃え、完全に消滅した。


「ふぅ、当たってよかt「きゃぁぁぁ!」っ!ルナちゃん!?」


スライムに当たったと安堵した瞬間、背後からルナちゃんの叫び声が聞こえ、振り返る。

そこには─


「楓ちゃん!助けてっ!!…んっ、いやっ!来ないでよっっ!!やめて!ぁっ」


路地裏から伸びる触手と、その触手に囚われ、恐らく服の中までスライムが入り込んでいるであろうルナちゃんの姿があった。

思わず思考が止まりそうにエッッッ

─っは!一瞬エロに脳内を支配されていた。やばい、ルナちゃんの貞操が危ない!多分…というか十中八九原因はスライムのせい!

路地裏!…いたっ!


「ルナちゃんの身体を好き勝手して良いのは私だけじゃこのクソド変態モンスターがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

炎矢フレイムアロー


全力で放った炎の矢はスライムを焼き尽くさんと飛翔する。スライムの身体に矢が衝突する。その瞬間。空気を焦がすほどの大爆発が起こる。


「ふっ、クソモンスター風情が。ルナちゃんのエッッなところを見せてくれたことは感謝するが、触ったことは絶対許さん。地獄でもう一回死ね」

「はぁ、はぁ…」

「ルナちゃん大丈夫!?何もされなかった?」

「……うん、私は大丈夫。助けてくれてありがとう楓ちゃん。…でもちょっと近づかないで欲しいかな…」

「な、なんで!?」

「いやだって…『ルナちゃんの身体を好き勝手して良いのは私だけじゃ』とか『ルナちゃんのエッッなところを見せてくれたことは感謝する』とか。ちょっと…いや、大分キモいから」

「う、うぐぅ……す、すいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!接近禁止だけはどうかご容赦を!何とぞ!何とぞぉ!」


接近禁止!?そんなのルナトニウムを摂取出来なくて私が死んでしまう!全力の土下座で乗り切れ!限界を超えろ!確か昔ルナちゃんに土下座は誠意を見せる謝罪方法だって教えてたはずっ!!


「…はぁ、まぁ助けてくれましたし、今回は聞かなかったことにしましょう。でも今日一日は近づかないでね」

「えっ……うぅ…はい。ごめんなさい…」


怒られた。しょんぼり。

うん。早く狩りに行こう。楽しいことしてこの絶望を忘れるんだ。そう考えたら元気出てきた。…でも一日お触り禁止…はぁ……



────────────────────

ども!ちょっとエッッな回入れてみました。

好評だったら今後も何かしらの形で入るかもしれません。

ルナちゃんエッッ!!!

すいません発作が。


それではまた

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