僕のナンパ⑦

崔 梨遙(再)

1話完結:1600字

 僕が二十代後半だった頃のお話。要するに、約20年前のこと。


 その時、僕には恋人がいなかった。土曜日、繁華街へ服を買いに行ったら、背中美人を見つけた。後ろ姿はパーフェクト! 反射的に? 僕は声をかけていた。


「すみません、お時間ありませんか?」


 振り向いた背中美人は、振り向いた。背中美人の顔は(僕の個人的な感想で言うと、ブサイクだった。しかも、超ブサイクだった)全く好みじゃ無かった。僕は声をかけた状態で金縛りにあってしまった。


「はい、なんでしょう?」


自分から声をかけておいて、“すみません、失礼しました”とは言えない。一応、言葉の続きを絞り出した。まあ、断られるだろう。


「お時間、無いですよね?」

「ありますよ、お茶ですか? 食事ですか?」


 “嘘やろ? なんでノリ気なん? 断れや!”


「……お茶でも食事でも、どちらでも」

「じゃあ、まずはお茶から」


 その女性は“真沙子”と名乗った。OL。僕より1つだけ年上だった。僕は、早くコーヒータイムを終わらせることばかり考えていた。


「ジャケットのボタン、とれそうやで」

「あ、ほんまや」

「ジャケット貸してや、裁縫道具がカバンに入ってるから」


 ジャケットを渡すと、真沙子は手慣れた手つきではずれかけていたボタンを直してくれた。ちょっと、キュンとした。“お礼に夕食を奢ろうかな”と思った。


 夕食に誘うと、


「良かったら作ってあげるで、私の住んでるマンションに来たらええねん」


と、真沙子が言い出した。お言葉に甘えて、真沙子のマンションの最寄り駅まで移動した。近かったのでタクシーを使った。駅前のスーパーで食材を買い、真沙子のマンションへ。


 胃袋を掴まれた!


 真沙子の作ったシチューはめちゃくちゃ美味かった。部屋も整理整頓されていてキレイだった。聞けば、料理も掃除も洗濯も好きだとのこと。家庭的だ。僕はその時、既にバツイチ。別れた最初の嫁は殺人的に料理が下手だった。僕は真沙子の内面に引かれ始めていた。やはり、人は外見だけではわからないのだ。そして、真沙子の“膝枕で耳かき攻撃!”これも心に響いた。


 僕は腹を括って言った。


「今夜、ここに泊まってもええかな?」


真沙子はOKしてくれた。夜の営み、驚いた。真沙子の首から下はパーフェクトボディだったのだ。美し過ぎて見とれてしまった。僕と真沙子は、営みの相性も良かったようだ。


「2年ぶりのHやったわ」

「2年ぶり?」

「彼氏と別れて2年も経つから」

「今までの経験人数は?」

「2人。崔君が3人目」


 正直、内面を重視した男が2人いたことにビックリした。まあ、そんなことはどうでもいいことだ。



 楽しい日々が続いた。金曜の夜から真沙子のマンションを訪れるようになった。勿論、昼間は外のデートスポットへ行った。


 ところが、1ヶ月を過ぎると真沙子から結婚というワードを聞かされることが増えていった。だが、僕はまだ離婚した時の心の傷が癒えていなかったので、その時は誰が相手でも2度と結婚なんかしない! と思っていた。だから、早めにその点をハッキリさせておこうと思った。


「もしかして、本気で結婚したいの?」

「うん、結婚したい。今スグにでも結婚したい。子供の頃から花嫁さんになるのが夢やったから」

「僕は結婚に懲りているから、もう誰とも結婚せえへんで」


 しばらく話し合って、


「結婚する可能性がゼロなんやったら、もう別れよう。私は結婚したいから」


真沙子に泣かれてしまった。僕も別れるのはツラかった。真沙子は優しい女性だったから。でも、僕は別れることを選んでしまった。



 その数年後、僕はとんでもない爆弾娘と結婚してしまい、バツ2になった。その時、“どうせバツ2になるなら、真沙子と結婚していたら良かった”と思った。だが、勿論、後の祭りだった。どうも僕は重大な選択を間違ってしまうようだ。悲しい。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕のナンパ⑦ 崔 梨遙(再) @sairiyousai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る