ゲーム世界から飛び出してきたのじゃロリ魔王様は女子大生に恋をする!

羽消しゴム

魔王アスラ、殲滅する

───人類は確信した。必ずかの種族を滅ぼさねばなるまいと。


仮想空間型ダイビングゲーム機───通称、VRDGヴァルドグ


現実に限りなく近付けた仮想の世界に潜りダイブ、一人称視点で自由自在に動くことが出来るゲーム類を指す言葉である。


それは例えばMMORPGであったり、モンスター育成シュミレーションゲームであったり、あるいはガンシューティングゲームであったり・・・その種類は多岐に渡る。


VRDGヴァルドグを用いない時代から早80年。

人類の人口は以前の五倍に増え、地球から脱して他の惑星に移住する人々が増加する中、宇宙に進出し増え続ける人類を厄介に思った宇宙生命体が現れた。


宇宙生命体は人類が移住した惑星に“種”を運ぶ。地に埋め込まれた種は惑星の奥底まで根を張り、星を蝕む大樹として人の住めない環境にしていった。


やがて人類が滅びると、宇宙生命体は真の支配者は自分達であるかのように人類の文明を滅ぼし、独自の環境を作り上げる。


人類には発音出来ない名前の種族だが、そのあまりにも傲慢な行いに“アロガンティア”と呼称され、惑星を蝕む大樹は、星を喰らう蛇と世界樹を文字って星喰樹“ユグドラムガンド”と呼ばれ忌み嫌われている。


高度に発達した文明と、星喰樹による侵略で宇宙に進出した人類は大きく数を減らし、やがてその魔の手は地球にまで及んだ。


「はぁっ!!」


「いけ!いけいけ!押し通れ!」


「光線銃を構え───撃てぇ!」


星喰樹ユグドラムガンドが形成する特殊領域である“ダンジョン”から溢れるモンスターを、当時の人類は全科学力を持って対峙した。


結果は人類側の辛勝。

多大なる犠牲を出して勝つことは出来たものの、大幅な科学力の衰退を引き起こしてしまった上に未だにユグドラムガンドは健在であり、ダンジョンも封鎖という手段をとってちまちまモンスターを倒していくしかない。


そこで政府は戦える者を増やすために、“ゲーム”という手段を通じて兵を集めようとした。


その結果として生まれたのがVRDGヴァルドグであり、未だに没入型MMORPGが人気な理由の一つである。


中でも一際人気なのが、Protect Of Reconquista(プロテクト オブ レコンキスタ) ───通称PORポルと呼ばれるゲーム。


昔ながらのファンタジーモノだが、人間の五感を完全に再現し、まるで本当に自分がそこにいるかのような没入感を味わうことが出来る。

キャラの可愛さや飽きない物語のボリューム、豪華声優陣の吹き替えによってキャラクターの完成度の高さが浮き彫りになり、その人気に拍車をかけていた。


さて、そんなゲーム世界にて。


「退屈じゃのぉ〜」


仰々しい玉座に座り、大きな欠伸をして微睡む少女がいた。


身長は145センチほど。

服装は赤と黒のゴシックドレスを身に纏い、瞳は透き通ったルビーに彩られている。片目は黒の眼帯で、これでもかという程に目立つ格好をしていた。


しかも可愛い、とてつもなく可愛いのである(重要)


「魔王様、はしたないでございます」


「む、よいではないか“メルフェージュ”よ。別に誰が見ているという訳でもなかろうに」


「えぇ、確かにその通りです。しかし魔王城地下のダンジョンから、人間のパーティが数名ほど進撃しております。気を抜くべきではありません」


傍に控えているメイドの装いをした女性───メルフェージュから魔王様と呼ばれた少女は、いかにも面倒くさそうな表情を浮かべて伸びをした。


魔王の根城である城に進撃する人間たちの報告を聞いても尚、彼女は長い欠伸をしながら頬杖を着いた。彼女の実力からして人間が何人いようと変わらないからだ。


だが自分の領土に害虫が入り込んで来ているのもまた事実。ダンジョンを攻略できる程度の実力は持ち合わせているようで、そこそこ長丁場になりそうだと結論づけ、面倒くさそうに眉を歪めた。


魔王は気の抜けた面持ちでくるくると空中に文字を描き始め、害虫人間達が玉座の間まで侵入してくるのを待った。


その数分後───。


「はぁ、はぁ、っまじで長すぎるだろこのダンジョンはよぉ!」


「間違いない。もう回復薬の類がすっからかんだぜ・・・」


扉の外から息も絶え絶えな人間達の声色が聞こえてきた。

人数は八名ほどであり、誰も彼もかなりの実力者であることが装備品から伺える。


ようやっと来たか、と嘆息する魔王。


瞬間、魔王の抑えられていたプレッシャーが爆発した。

人間達も玉座の間から迸る凄まじいプレッシャーを感じたようで、動揺と恐怖が波のように広がる。


「っ、この先にいるぞ・・・!」


「ボスステージのマークがある。どうやらここで間違いなさそうだな」


「え、うそ!?いつの間にかデバフ掛かってんだけど!?」


「流石は世界の大敵ワールドボス、一筋縄じゃいかなそう。折角休憩出来る所まで来たんだし、魔王との対決に備えてここで配信・・の準備でもしようか」


人間達は各々の気を引き締め、見上げるほど巨大な門の前で準備を進めた。あるものは武器を研ぎ、あるものはマジックポーションを飲み、またあるものは配信の準備をテキパキと済ませる。


PORの世界では配信機能が着いているため、ダンジョンやストーリーを進行している様子を映して動画配信サイトに発信することが出来るのだ。

このパーティも動画配信によって生計を立てているうちの一つ。


なお玉座の間で待ち構えていた魔王はゴロゴロしながら、中々入ってこない人間パーティーにイライラを募らせる。

頬っぺを膨らませて尻尾をペシペシとメイドに叩き付けていた。


「・・・なんじゃアイツら、めっちゃ遅くないか?」


「失礼ながら魔王様、人間にも準備というモノがあります」


「むむ、準備しようがしまいが関係なかろう。どうせ妾が───皆殺しにするんじゃから」


そう言ってくつくつと嗤う魔王。

やがて準備が整ったのか、人間たちがゆっくりと扉を開けた。


そして───対峙する両者。


「これが・・・世界の大敵ワールドボス、魔王『アスラーク=トランジェスタ』・・・」


「っはは、やべぇ気配がビンビンするぜ」


「数多のパーティーが挑み、すべからく全滅したっていう・・・どうしよ、勝てるかな私たち」


《コメント欄》

・アスラークちゃんきちゃあー!!!

・うーんこれはロリ

・あの加虐的な笑み堪らんわ

・俺の嫁のアスラしゃまきたな

・↑なら働いて養えるようになれよ

・うっ

・ぐうっ

・クリティカルヒットで死んじゃう・・・

・↑草

・回復薬ないから一気に倒すしかなさそう

・誰も倒せてない唯一のワールドボスだもんな、実質ラスボスだろ

・服装がえっちでとても良いと思いますっ!!!

・↑通報した


配信を開始した結果、コメント欄が数多の視聴者によって流れゆく。

その中には魔王の服装がえっちすぎるという指摘もあるのだが、当の本人はいざ知らず。不敵な笑みを浮かべて、玉座から人間パーティを見下ろしていた。


荘厳な玉座に腰掛け、肘掛に頬杖をついて笑みを浮かべる魔王。その頭上では真っ黒に塗りつぶされたような大剣のような影が、ゆらゆらと蠢いている。


「ふむ、中々に気概のありそう害虫共じゃのう。下がっておれ、メルフェージュよ」


「はい、仰せのままに」


メイドに被害が及ばぬよう退避させたあと、玉座から高々と見下ろす。ルビーのように熱を帯びた目と、眼帯に隠されたもうひとつの目が穴があかんばかりに人間パーティ達を見つめていた。


そして。


「よう来たな、人間ども。しかしまぁ、如何せん数が多すぎると思わんか?じゃからのう───死ね」


突然の魔王からの死刑宣告。

瞬間、彼らが佇む場所へ黒く巨大な剣が振り下ろされた。


「っ!?退避ィ!」


「初っ端から即死技かよ!?」


「やば───あっ」


無事である人数は全体の五分の四。避けきれなかった者たちは例外なく光の粒子となって消え、その存在を散らした。


この行動はPORをしているプレイヤーの中では有名な技だ。何故かと言えば、数年前に最前線を走っていたパーティ達が調子に乗って魔王アスラに挑み、散々ロリだのチビだの煽った結果───三秒で全員が光の粒子になって死んだ。


俗に言う“即落ち二コマ”として使われている、魔王十八番の全体即死技である。彼らも攻略する以上この技が来ることは分かっていたが、それ故の油断が祟ってしまったのだ。


「魔王の行動パターンはA、B、Cのランダムだ!そして全体即死技が放たれるってことは、パターンAとCのどちらか・・・」


「パターンCだったら最悪だっ、なぁっ!」


続く魔王の攻撃を避けながら冷静に分析するパーティ。


《コメント欄》

・この即死ってやっぱり理不尽だよな

・適正レベル99だぞ?こんなラスボス居るかよって話

・↑裏ボスはどんだけ強いんだ?

・次の行動パターンは多分、魔法による砲撃か自分へのバフだけど・・・バフ来たらおしまい

・裏ボスはまだ来てないで、多分アスラしゃまを倒せば解放されるんじゃないかって言われてる

・可愛い顔してすることがえげつないなこの幼女

・アスラしゃま恐ろしい・・・


情け容赦が無さすぎて魔王にドン引きする視聴者達を差し置き、さらに戦闘は加速していく。


「ふむ、二人が消えたか!次はこれじゃ、蝿の如く逃げ回るんじゃぞ害虫共よ」


「漆色の砲台を確認!バラバラに避けろ!」


「ほっとしたぜ。パターンBの自己バフじゃなくて良かった、なぁっ!」


魔王が次に放ったのは、魔法によるプレイヤーへの砲撃だ。

パターンで言えばAにあたるため、只でさえ強い魔王がバフでもっと強くなる、なんていう負け筋は消えた。とはいえ、完全追尾式の防御無視砲撃はそれだけで脅威である。


続々と続く攻撃を避けながらちまちま攻撃し、回復の出来るプレイヤーが受けた味方の被弾を回復しながら進めていく。これが魔王の攻略法だ。


ミスやイレギュラーが起こりえなければ、ボスは倒すことができる。これはあらゆるゲームにおいて当然のことであり、いくら超高性能AIを積んでいるPORだろうと、その法則には逆らえない。


AIの選ぶパターンを事前に予測し、次の攻撃を予測させる。フェイントやブラフに引っかかりやすいという特性を利用して、幾千幾万と築かれたパターンの波を読んでいく。


勿論、到底一人では対処出来ない。

だからこそ先人達が築いた知識と知恵、そして挑むパーティーの装備や連携によって初めて戦うという土俵に立てる。


故に今まで魔王は不敗にして最強“だった”。


しかし今、その魔王の牙城が崩れようとしていた。


「む、お主らなかなかやるのぅ!」


戦闘が開始してから30分ほど経過した。

数人減らしたのにも関わらず、臆さずに自分の体を穿つ魔法と剣の感触に歓喜する魔王。痛みによって顔は歪に歪んでいるが、好戦的な顔がところどころ垣間見える。


対してみるみる減っていくボスゲージにプレイヤー達は、もしや勝てるのでは?という希望に包まれていた。


PORが発売されて早数年。

難攻不落とも呼ばれた魔王は、先人プレイヤー達によって研究されつくし、その甲斐あって討たれる段階にまでHPを減らされていく。


「よし!次は一番ヘイトが高いプレイヤーの集中砲火だ!タンクはアタッカーのカバー、ヒーラー隊は後手に回れ!」


パーティのリーダーである青年の激が飛ぶ。その声色は迫力に満ちていて、着実に削られていく魔王のHPバーに呼応して圧力を増していった。


前人未到のラスボス攻略。

数多の人間が挑み、そして敗北した魔王討伐者という肩書きは非常に重い。


だからこそ配信として世界に発信しながら的確に魔王を追い詰めていく姿に、視聴者は急増していた。

挑む人数も回復も心許ない。それ故に彼らの連携は揺ぎなく、一切の妥協を許さない真剣状態であった。


「ここだぁっ!!!」


「ぐっ、ぬ、ぬかった!」


隙を見つけたリーダーの青年の剣技が、魔王の肩を食い破る。その後ろから飛来する色とりどりの魔法が玉座を破壊し、煙幕や陽動によって味方への被弾を抑える。


見事と言っていい程の連携。魔王討伐のために一体幾ら時間を捧げたのは分からないが、とてつもない時間をかけて練習を重ねたのが分かる。


「今だ!畳み掛けるぞぉ!!!」


「っ、いいなぁお主ら!もっと妾に傷をつけて見よ!」


リーダー格の青年が咆声を上げた。

目眩がするほど早くなっていく戦闘速度に比例して、魔王の顔にも余裕がなくなっていく。


《コメント欄》

・おいおい、これ行けるのでは!?

・ここまで削るの初めて見た

・ふぁっ!?ロリ魔王ちゃんのHPバーミリやんけ!

・やべぇよ・・・俺ドキドキしてきた

・アスラしゃまがやられちゃう・・・

・勝ったな風呂入ってくる

・魔王様ちっこい

・↑それ禁句やぞ

・第二形態とかあったりせんよな?大丈夫だよな?

・さ、流石に第二形態はないだろ・・・ないよな運営ィィィ!?


そして───。


「ぬ、ぅっ!?」


青年が放った剣戟が魔王の腹を穿った。

『聖属性』と呼ばれる魔に連なる物に対して特攻が掛かる剣により、呻きをあげて怯む。


これまで余裕そうな顔を浮かべていた魔王が初めて見せた怯み。

それを見逃す者は今このパーティにはいない。


数ミリ単位になっていた魔王のHPがもはや目視できない程の範囲まで削れ、あと一撃でも決めれば勝てる、そんな雰囲気がパーティ全体を包んだ。


(・・・負けるのか、妾が)


一方で攻撃を受けていた魔王───アスラにも、自分が負けるという確信があった。


魔王とは最強であるという称号だ。

その称号を背負う者は、ただの一回も敗北を許されず、全ての上に立つことの出来る器を持った存在であるという証明になる。


では負けたらどうなるか?


答えは簡単───死、のみ。

正確には幾ら殺されようと魔王程度になると死んでも何処かで復活できるのだが、魔王という称号を剥奪されてしまう。


(“死”は怖くない。じゃが、妾に魔王という称号すらなくなってしまえば・・・そんなのは嫌じゃっ!)


「勝てる!魔王アスラに勝てるぞぉっ!」


「油断すんなよ、まだ終わってねぇ」


「落ち着けお前たち!・・・最期は俺が決める、いくぞ!」


という感情に振り回される魔王アスラ。


生きたい、死にたくない。魔王としての称号を剥奪されたくない。


生き物としては当たり前だが、魔王としては失格な感情。それでも彼女は生きたいという思いに蓋をせず、自らの胸を穿かんと突貫する男に魔法を発動させようとする。


が、発動しない。


(何故じゃ、何故体が思うように動かんッ!何故妾の思う通りに魔法を駆使できんッ!何故じゃ、何故なんじゃッ!)


頭の中で魔法の構造式を思い浮かべても、発動されるのは全く違った魔法。何度も発動したい魔法を放とうとしても、結局は発動しようとすらしていない魔法が勝手に発動しているせいで、放とうとしている魔法が発動できていないのだ。


では避けてはどうか?───否、避けられない。

正確にはこの場から動けないというのが正しいだろう。足元には何も無いはずなのに、まるで凄まじく思い鉄塊を足に乗っけられているように動けないのである。


だから魔王は抵抗した。


(動け)


依然として体は動かない。


(動け!)


・・・小指の先が少しだけ動いた気がする。


(動けッ!)


今度ははっきりと小指が動いた。固まっていた身体も柔らかくなり、足も動かせそうだ。


(動くんじゃあぁぁっ!!!)


そして───がくん。


「んなっ!?」


「ふはっ、動いたぞ」


青年の放った剣技。それを機敏な動作で避けた魔王は、すぐさま青年に向けて鋭い蹴りを叩き込んだ。


その瞬間、凄まじい轟音と共に慣性に従い、弾丸のように玉座の間の壁に青年はめり込んだ。頭上に表示されるHPバーは既にゼロのようで、暫くして光となって青年の体は消えてゆく。


「おーおー、妾の城を傷付けおって。これはやはり、お主らの生命いのちを以て償う他あるまい?にしても、身体が軽くて軽くてしかないのう!もう歳かと諦めておったが、むしろ元気いっぱいじゃわい!」


「な、なんで・・・?こんな行動パターン、今までなかったのに!?」


「はぁ!?い、意味わかんねぇ!アイツ即死耐性持ってんだぜ!?なのに即死って・・・即死無効貫通ってか?おいおい、そんなのありかよ」


《コメント欄》

・は?

・え?

・ワ、ワンパン?

・嘘でしょ?

・えげつないマッチポンプなんですがそれは

・流石15000歳のロリババア

・早すぎて見えなかったぞ・・・?

・いやいや、勝てる流れだったやん!?


弾丸となった青年が消え、クレーターのような大穴が出来た壁を眺めながら、眼下の人間たちを見下すアスラ。

マッチポンプも甚だしい所業だが、例え魔王城を壊されたとしても今のアスラは大変機嫌がいい。


理由は単純。今まで身体を縛っていた感覚が消えたからだ。


普通ならば今の攻撃でアスラは死んでいた。

高性能AIによって管理されている“世界の大敵ワールドボス”、という位置づけのNPC非生命体に過ぎないはずの彼女が、設定されていないはずの行動や技を勝手に繰り出したのだ。


つまり今のアスラは言わばバグ。AIから独立した上に、自立行動しだした完全な“イレギュラー”である。


「さて、だいぶ溜飲を下げられたがまだまだ足りぬ。どれ、まだまだ虫が多いようじゃし、ここらで一掃するのも乙なものじゃ」


そう言って、小さな人差し指の上におどろおどろしいエネルギーを貯め始めたアスラ。


───警告!警告!個体名『アスラーク=トランジェスタ』識別IDーAshura world boss eins,これ以上の命令違反はデバッグ対象です。即座にセルフデバッグ作業を開始致します───


またもや設定していない動きを見せるアスラに、PORを統括する管理AIシステム『マザー』が反応。彼女の動きをバグと判断して、急いでデバッグしようとするが。


「五月蝿いのぅ。いきなり語りかけて来おって、一体何様じゃお主は?」


───警告!警告!個体名『アスラーク=トランジェスタ』識別IDーAshura world boss eins による攻撃を確認。デバッグ作業中止。代わって強制沈黙を開始・・・失敗しました。撤退します───


アスラによる干渉で管理AI『マザー』は呆気なく敗北。

また撤退した影響によって、魔王アスラという個体は管理AIによる統括を外れ、魔王アスラと名付けられた個体に良く似た別種と分類されてしまった。


そのせいか魔王アスラの頭上に浮かぶHPバーが灰色となり、一時的に止まっていたエネルギーの塊も、再度動き始めてしまった。


結果として。


「ふん、阿呆が。エーアイ?がなんじゃか知らんが、妾の行動を止められると思うな・・・さて、それじゃあ準備は良いかの?我が城に蔓延る虫どもよ」


現状の魔王アスラを止められる存在は誰一人として存在しない。


「くそっ!何が何だか分からんが、魔王が貯めてるヤバそうな奴止めろ!」


「アレ即死とか言わないよね!?時間なさそうなんだけど!」


「ここまで来て全滅とかありかよぉ、鬼畜すぎんだろ運営PORさんよぉっ!」


魔王の放つ技を抑えるべく、動けるものが魔法や飛び道具を放つ。が、カキンという何とも軽い音を響かせながら、魔王の手前に貼られた半透明のバリアによって弾かれてしまう。


どうやら詰みのようだ。


それを理解してか、プレイヤー達は絶望的な表情を浮かべて立ち竦む。


《コメント欄》

・え、え、何あのヤバそうな黒い炎

・ここに来て新行動パターンとか心折れるて

・てかリーダーのクロノが一撃で殺られたのやばいだろ

・即死無効貫通?っぽいよな

・アスラしゃま怖い

・ほんとに可愛い顔してえげつなさすぎる・・・でもそこにビクンビクン///

・まーた攻略勢の頭を悩ませる技ガガガ

・攻撃しても弾いてる、だと?もしやこれはA○フィールド!?

・全体即死の即死無効貫通技・・・?攻略させる気ないだろこのラスボス

・腹パンしたくなる顔しやがってぇ!


阿鼻叫喚のコメント欄が滂沱の如く流れ、やばそうな溜め技やアスラの灰色になってしまったHPバーについて考察が進む。


残されたパーティメンバー達もリーダーの死によって動揺が広がるものの、皆が魔王の放つ技を警戒して防御や回避の体制をとっていた。一縷の望みに掛けて、一日に一度だけ即死を無効化できる技を発動させる者もいた。


しかしその総てを。


「じゃあの、分を弁えぬ痴れ者よ───“死溢の方舟レギオアーク”」


───魔王の黒い炎が包み込んだ。

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