第5話 栗毛聖女、聖職者になる。

 初期職業の無職ノージョブから聖職者になるために訪れた町の小さな教会で、入ってすぐのところにいる爽やかな男の神父さんを見つけたのでさっそく話しかけます。


「あの、すみません。聖職者になりたいのですが」

「転職希望者ですか。聖職者についての説明は必要ですか?」


 UIユーザーインターフェースを触った感じ装備画面とかスキル画面も同じですけど、スキル引き継ぎもできるシステムなんだから大体は同じで多分大丈夫だと思うけど……一応聞いておこうかなと思い「はい」と答えます。


「わかりました。では聖職者という職業からですが、この世界を見守って下さる神の力を借りて神聖魔法が使用出来るようになります」


 聖職者は神の信仰心を高めることで神聖魔法と呼ばれる魔法を使用可能になります。信仰心なので、転職後にスキルを使い込むことでも信仰心が加算されていくのでずっと祈り続けないと新しいスキルが使えないというわけではないのは助かります。


「そして神聖魔法は主に回復魔法、補助魔法、対魔対不死魔法、極大消滅魔法の四つに分類されます。回復魔法の新しいスキルを習得したい場合、同系統の魔法を使い込むことで新たなスキルを習得することが出来ます。一般的に使用される下位スキルの効果と習得条件の詳細についてはそちらの書庫にて後ほどご確認下さい」


 思った通り、大体同じのようです。対魔対不死魔法はMSOにはありませんでしたけど。ちなみに、回復魔法はHP《体力》回復の他に、状態異常回復も行えます。回復魔法を伸ばしたヒールを主体とする聖職者のことをヒール使いヒーラーと呼びます。ちなみにMSOでのプレイスタイルは回復魔法を主体に補助魔法を伸ばした支援系ヒーラーでした。


「続いてスキルの引継ぎについて説明します。別の世界から転移されてきた方の中には前の世界で習得された技能・魔法といったスキルを封印状態で習得されている方がいます。これは1つ前の世界のスキルに限りますが、この照光世界にて同職業に就かれた場合に封印が解除されます」


 神父さんの説明を聞いて、転職さえできればこちらの世界での同一魔法は解除されるとわかりました。そして、やはりというか聖女スキルのような上位職のスキルは上位転職しない限り使えないこともわかりました。


「なお、一部のスキルの仕様はこの世界に準じて変更されます。スキルの引き継ぎは強制ではありませんし、そのまま別の職業へ就くことも出来ます。それに思ったスキルや職と違った場合は転職という形をとることも可能ですので気楽に考えてくださって構いませんよ」

「ありがとうございます。聖職者へと転職したいのでこのまま手続きをお願いします。それと、スキルは引き継ぎます」


 おおよその概要は理解できました。スキルの引き継ぎも問題なくできそうで、そのまま聖職者への転職を進めます。


「わかりました。ではこちらの書類にご記入をお願いします」


 神父から一枚の紙が差し出され、それを頷いて受け取るとウィンドウが表示されます。


【1.前の世界で習得したスキルの引き継ぎを希望しますか?】

[〉はい ・  いいえ


【2.引き継ぐ系統魔法を制限しますか?】

[〉全部引き継ぐ ・  指定して引き継ぐ


【3.選択された情報を確定しますがよろしいでしょうか?】

[〉はい ・  いいえ


 全ての回答し、最後にサインを入れると紙が消えて神様と思われるシルエットが私の前に現れました。


『夜天の子よ、この照光世界はそなたを歓迎しよう。我は陽光神ライティオ、命の輝きと成長を司る。神とは信仰、故に信仰心ある者に神聖魔法を授ける。信徒となりて世界を照らせ⋯⋯』


 言うだけで言って満足したのか神様のシルエットは消え去ってしまいました。なので、神父に説明を求めるように目を向けると、NPCの彼は地面に片膝をついて手を眼前で組んで祈りを捧げていました。


「え、コレって恒常イベントじゃないの?」

「陽光神様が権現されることは滅多にありません。高位の聖職者、大司祭や聖女と言われる方が転移就職された場合にのみ権限なさるのです。ただ、それほどの位階まで登り詰めた方が装備の一部以外を捨てて転移されるケースは極めて稀です」


 ついNPCにメタ発言をしてしまいましたが、こんな展開は私だって困惑します。しかし、説明を聞いてなるほどとも思いました。聖職者の最高位の一つである聖女だったプレイヤーが前にいた世界の大部分を捨てて新たに同職業でプレイすることは普通ならまずないでしょう。ネットゲームに費やした時間は人生そのもので、そこで築いた関係や地位、ステータスにアイテム類はかけがえの無い宝物なのですから。


「私もみんなとのお別れ辛かったし、最後のアイテム整理は泣いちゃったけ」


 不用品として仕舞っていたアイテム一つ一つにも思い出があって、捨てることなんてできなくて渡せるものは友人たちに配って来て、それでも残ったものは私のコンバートと一緒にあの世界から消すことを選んだのを思い出してしまいました。


「聖職者への転職おめでとうございます。陽光神様が現れるなんて貴女はきっと凄い聖女だったんですね」


 感傷に浸っていると背後から声がし、振り向くと入り口にはさきほどの男性が立っていました。

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