異世界転生した瞬間絶対絶命の大魔獣から姫様助けたが人類弱々なので巨人騎士(非人型)作ったる
RAMネコ
第1話「事故そして転生」
給料日。
普段であれば気にもしない日。
だが、今日は特別だったのだ。
30年程昔、まだ俺が幼稚園に入るかどうかの頃に熱中したロボットアニメの玩具が復刻されて発売される。
賓合金DX限定版ブラックモデル。
その『ビッグロボ・ヴェタラムンダ』──末期のセル画アニメで部分的にCGが導入された頃のロボットアニメだ。
今ではもう古い作品だ。
俺は“それ”が欲しかった。
クレジットカードは持っていない。
昼間にこっそりと下ろし続けた現金20万円を封筒に入れて鞄に忍ばせている。
何年ぶりだろう?
オートバイにまたがり、フルフェイスヘルメット越しでも風を感じられるようなワクワク感というものは。オタクな趣味に大金を使うのはいつぶりだろうか?
10年……いや、もっとかな。
ビッグロボのアニメは、1年半程しか放送されていない。VHSビデオで1巻だけ買ったことがある。DVDやブルーレイでは発売されなかった。
詳しくは思い出せない。
あやふやな記憶だ。
50話以上あるのにほとんど思い出せない。
だけど……俺の人生の一部、そんな気分だ。
里山の田舎道だ。
削られた小さな山にはワイヤーやコンクリで補強されていて、それに沿うように大きく緩いカーブが続く。
いきなりヘッドライトのハイビームで真っ白になった。エンジンが激しく荒ぶる音を響かせスキール音も聞こえてくる。
そして衝撃だ。
数百キログラムはあるオートバイが、前のめりに飛んだ。俺はオートバイと一緒に浮かび、地上へ帰る。
舗装路で火花をあげるオートバイよりも前に出る。壁が近づいてきて、ヘルメットが割れるほどぶつかったがまだ生きてる!
助かった。
束の間の安堵。
瞬間、オートバイが送れてやってきて、俺は……俺は自分が昔のOVAのグロ表現みたいにスプラッタになるのがわかった。
走馬灯なんてものはなかった。
◇
「おい! 死ぬな!」
誰かが俺を呼ぶ。
暗くて見えない。
手足が動きそうにない。
それに頭がカチ割れだ。
髪が湿っていて、頭から熱い物がドクドクと心臓の音に合わせながら流れてきたせいで目を開けられない。
鉄臭く、鉄の味がした。
硝子が割れる音が響く。
光が……。
「バカヤロウ、僕との決闘に勝った奴なんだぞ、こんなところで死ぬなバカヤロー!」
なんだ?
……呆けている場合じゃない!
クラーケンはまだ生きてる!
学友が『フォースアーマー』に魔力を流す。黒曜石の靭帯を引き絞れ、立たせろ、立ち向かえ、死んじまうんだぞ!!
「くそッ!」
木々を薙ぎ払いながら山のようなサイズのクラーケンが触手を叩き、落としてくる。フォースアーマーが俺を突き飛ばした。
怪力で、俺は小石のように飛ばされる。
いや……いや!
クラーケン?
フォースアーマー?
なんだってんだこれ。
「しっかりしろ!」
学友のフォースアーマーがくぐもった声を上げる。黒曜石の駆動鎧、魔力で伸び縮みする黒曜石がエンジンも兼ねている、いや、人工筋肉?
俺の魔力が弱いことを思い出す。
俺は生身でフォースアーマーを着ていない。だが中身が空っぽのフォースアーマー、抜け殻になっているそれへ逃げ込むように滑り込んだ。魔力……魔力を流して動かそうとする。
「ダメだ動かない!」
俺はフォースアーマーを動かそうとするがびくともしない。完全に大破してしまったのか?
そうじゃない。
俺の『魔力』が低すぎるんだ。
黒曜石を流体化させて動かす最低魔力を満たしていないのにフォースアーマーを着ても意味がない。
そうだ。
だから俺はこいつと決闘したんだ。
無能だと、バカにされていたから。
「お前はそこにいろ!」
学友のフォースアーマーが剣を腕に1本ずつ持ち、爆発的な初速で走り始める。大魔獣クラーケンを仕留める為の決死だ。
勝てるわけがない。
学友の、他のクラスメイトだったものが周囲に転がっている。叩き潰され、隙間から肉とも脂ともわからないものが溢れていた。
「うぷっ」
胃袋が裏返りかけたのを飲み込む。
クラーケンはまだ動く。
大魔獣は、満身創痍だ。
全身のあらゆる場所は、槍や剣でズタボロにされて青い血をドクドクと流し続けている。血を吸い続ける大地でさえ飲み干せず青い溜まり場だ。
俺以外の全員が、傷を負わせていた。
学友が叫び声と共に、今にもバラバラになりそうなフォースアーマー“ラーミア”の持つ剣が折られた。それでも折れた剣で突撃する。
「ヘイディアス! 姫様を連れて逃げろ!」
俺は弾かれたように思い出す。
姫……カーリアのリアー姫とクラスメイトなのだ。彼女はクラーケンにやられて……。
「見つけた!」
ひしゃげたフォースアーマーを慎重に外す。何度も繰り返した作業だ。歪んだフレームのぶんは力技だ。
「……リアー姫?
黒い髪。黒すぎるショートヘア、闇のように黒い肌は影が立体になったかのように女性──リアー姫で間違いなかった。
俺はリアー姫をフォースアーマーから引き出し、両手で抱えて走る。羽根のように軽いとは言わないが漬物石くらい持って走れる筈だ。
学友とクラーケンは?
俺は振り返っていた。
フォースアーマーが盾として使おうとした剣ごと残像しか見えない触手に薙ぎ払われた。触手は鉤爪だらけの吸盤があり、フォースアーマーの横腹に噛み付くと、そのまま真っ二つに、粉々の黒曜石の破片に砕いた。
学友ワドルが死んだのは明らかだ。
「わ、わァー!!」
俺の叫びに、クラーケンの四角い瞳が回る。俺を見て、俺に近づいてくる。醜い巨体を揺らし、這いつくばったまま、触手で這う。
「動けよ、動けよ!」
俺の体は反応しない。
バラバラにされたワドルのフォースアーマーほどの傷を負っているわけではないのにだ。俺の心だけが問題だった。
クラーケンが『動けない獲物』へ近づく。
「動け動け!」
クラーケンが近づいてくる。
致命の傷で、生きようとしている。
クラーケンは目前にいる。
死に損ないは、しかし、迫力だ。
もうダメだ。死んだ。そう思った。
クラーケンに巨体で叩き潰されるか、触手で串刺しか、生きたままクラーケンの嘴に喰われると思った。
しかし、そうはならなかった。
クラーケンの目から光は消えていた。
死んでいた。最後の死力だったのだ。
「……」
クラーケンも死んだのだ。
俺は地獄をやっと見渡した。
クラーケンの周囲には何十機というフォースアーマーが倒れていた。生存者を探す。どのフォースアーマーからも、うめきの1つも聞こえてこない。
倒れたクラーケンを見て、勝利の歓声をあげるものも、倒れた仲間に涙を流すものもいない。
ただ、役立たずの俺だけがいた。
「うぅ……」
リアー姫が唸る。彼女の意識はまだ回復していないが生きていた。しかし息が止まる。
「ダメだダメだダメだ!!」
ひとりぼっちにしないでくれ。
俺はリアー姫の分厚い服を剥がし、心臓マッサージを繰り返した。胸骨が折れているような感触だがやらないと。どうしようもない。彼女の口に唇を当てて塞ぐ。肺から肺へ空気を移した。たしかに、リアー姫の胸が膨らむ。
「生き返れ! 生き返れ!」
数回繰り返すうちに、痙攣するリアー姫の心臓が戻ってきた。か細いが、彼女が生きようと戻ってきた。傷の応急処置。幸い、出血はないように見える。逆に手の施しようがないとも。
リアー姫の体が冷えないよう死体から綺麗な服を集める。少しでも温かく、清潔を保たないと。少しでもやれることを……。
俺は、前世をポツポツと思い出す。
賓合金DXを買いに行って事故だ。
「誰か他に生きていないのかー!?」
フォースアーマーの墓場で、俺の声だけが響いていた。ここにはもう誰もいない。倒れた敵と倒れた味方がいるばかりだ。思い出なんて無い……無い筈なのに、前世を思い出したのに俺は……涙が止まらなかった。
きっと誰にもわからない。
アニメの主人公みたいに、犠牲は多少出たが、大勝利で喜ぶ、そう言うことは俺にできなかった。敵も味方もいない巨大人型兵器の中で、たった独りで泣いていた。
「!」
森から遠吠えが響く。
大魔獣の死体がある。
死臭で獣が来るのか!
俺はフォースアーマーの中にリアー姫を隠した。学友らの死体を漁り、せめて何か武器を集める。短剣しかない。
リアー姫が唸る。
この子だけは守るんだ。
何もできなかった俺が。
◇
「こんな地獄に生存者なぞ……」
「ここにいるぞ! 1人生きてる!」
「いや、もう1人……リアー姫だ!」
救助が来たのは半日後だ。
俺は止まらない涙も止まっていた。
狼擬きと半日間、殺しあった。
返り血、削がれた肉で限界だ。
悲しみが心に残っているのに、どうすることもできないことを学んで、俺は騎士団のフォースアーマーに助けられた。
異世界の洗礼は……痛かった。
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