俺は伝説の剣。

きん斗

勇者まだかなー


 人が集中している地方からは大きく離れた、巨大な森。


 そこを深く進んでいくごとに魔物も増え、良い樹齢してそうなジジイ樹木も辺りにいっぱいだ。


 だけど、森の最奥部はなぜか魔物が全くいなくて、木も不自然に生えていない。そして、どこか神秘的な雰囲気を放っている。


 そんな最奥部に、この俺、伝説の剣ケンゾー様はいるのだよ。


 地面に突き刺さってるだけなんだけど、選ばれし者にしか引き抜けないらしいんだ。現に盗賊が金目当てで俺を手にかけたんだけど、ビクともしなかった。ざまぁないな。


 俺は今日も待つんだ。この伝説の剣を思い切り引き抜いてくれる、そんな、勇者を。


 毎日退屈だし、自分で体を動かせないからずっと景色が同じで、もううんざりだ。 


 お前ら想像できるか?ソファーにだらしない格好で座って、スナックばりぼり音立てて食いながらこれ見てるかもしれないけど、一回ピーンと立ってみて。


 それを一生続けんの。どう?嫌でしょ?


 しかもこっちは今んとこ千年生きてんの。千年。年功序列制の企業勤めてたら無双できてたんだがなぁ……


 ……千年経っても、俺は諦めねぇ。


 勇者の剣となって、魔王をズバーッと倒して世界を救う。それが俺の夢だ——





「おっはよー。ケンゾー」


 カッコ良さそうなことを言っておきながら、内心諦めモードに入っている伝説の剣に、宙を舞う小人のような者が声をかける。


 ケンゾーはその高い声ですぐに誰か気づく。


「あぁ、おはよう。ヨウ」


「えいっ」


 ザクっ


「俺でリンゴ切るのやめろ。伝説の剣だぞ」


 ヨウはほとんどが歳下であるケンゾーの唯一の同い年であり、妖精の女の子なのだ。


 ヨウは急にかしこまった表情をして口を開く。


「私は伝説の剣を管理する妖精。勇者様がここに辿り着くのを、約千年、この剣と待ち続けておりました」


「……どした?急に」


「練習よ。もし勇者が来た時のためのねー」


「あぁ、ヨウがナレーションするんだもんな。まあどうせ来ないと思うけど」


「明日来るかもしれないよー?さて、ライトアップの練習もしなきゃ」


 バゴゴゴゴーーーーン!!


 そう言って小柄な妖精ヨウは、その体に似つかない強大な魔力で剣の辺りに巨大な雷と火花を発生させた。


「いつ見てもすげえ魔法だな。魔王倒せるだろそれ。……たぶん勇者より強いし」


「私はあなたを管理するために天から命を授かったのよ。争いごととかには参加できない中立の立場なのー」


「うん。知ってる。もう499回聞いたし」


「じゃあ聞くなタコ」


 バリリリッ!


 ヨウは指先でひょいと作り出した電撃をケンゾーに浴びせた。


「痛っ、ごめんって。でも俺剣だよ」


 人間が浴びたら即死の電撃だが、伝説の剣からしたら静電気のようなものなのだろう。


「もう千年かぁー。私もこの森を離れることはできないから、世界が今どうなってるのかも分からないのよねえ」


 ヨウは窮屈そうに辺りを飛び回る。


「まあ俺がここにいる時点でまだ魔王はいるんだろうな」


「いや、勇者はケンゾー無しで魔王倒してるかもよ?武闘家の勇者様だったりしてー」


「……仮にそうだったとしたら俺らこれからどうなるの?」


「…………」


 二人はこれ以上考えるのをやめた——


 


 そんな時だった。


 ザッザッザッ


 足音。人間の足音がしたのだ。


 ここに人間が来ること自体珍しいため、ヨウは思わず足音のする方向へ振り返る。ケンゾーは自分の視点の真正面に人間が来てくれそうなため、見えそうで良かったと、ホッとした。


 が、その人間の姿を見て、更に驚くことになる。


 二人の前に現れたのは、歴戦のキズが味を出していて、着衣の上からでも分かるくらい屈強な肉体をした、顔立ちの整っている、なにかと要素がもりもりな男。


 そして、二人が今まで見たことがある、いわゆる普通の人間とはまるでオーラが違った。


 ——勇者だ。


 二人は確信した。そして同時に、運命とは落ち着く暇も無くやってくるものなのだと理解した。


「これが伝説の剣か、言い伝えは本当だったのだな」


 そう言って勇者はケンゾーに近づく。そこで宙に浮いた小さな者の存在に気づいた。


「貴方は……」


「私は伝説の剣を管理する妖精。勇者様がここに辿り着くのを、約千年、この剣と待ち続けておりました」

 

「妖精……本当に存在したとは」


「さぁ、剣を引き抜いてください。そしてこの世界に災害をもたらす魔王をどうか、勇者様の手で——」


「はい。任せてください」


 勇者はケンゾーを掴み、思い切り力を入れた。ヨウは勇者の視界に入らないところでライトアップの準備をする。


 ズズズズ……


 ゆっくりと、確実に伝説の剣は引き抜かれていく。


(ついに、この時が……!)


 ケンゾーの頭に、変わらない景色を前にただくっちゃべるだけのクソみたいな千年間が、走馬灯のように一瞬で駆け巡る。


 千年が駆け巡るには早すぎるくらいだったが、それくらい退屈な日々だったのだなぁと、ケンゾーは痛感した。


 そして遂に——


 シャキン!


 勇者は引き抜いた剣を天に掲げる。


 それと同時に、ヨウが溜めた魔力を一気に解放した。


 バゴゴゴゴ!バチバチバチ!ドガガーーン!


(……いつもより魔法がだいぶ強えな。緊張してんのか)


 


 そう感じたケンゾーの身に、次の瞬間、不思議なことが起こった。


 ガシャーン


「え?」


 ケンゾーの目の前が真っ暗になった。地面に突っ伏してるのだと、少し遅れて気がつく。


「おーい……?」


 いつまで経っても勇者が拾ってくれないし、ヨウも何も言わないので、とりあえず声を出したが、誰も反応しない。


 視界が真っ暗なのも相まって、ケンゾーの不安を加速させる。


「……嘘でしょ」


「ヨウ?どうした?おい!」


 ヨウの声がしたのでケンゾーは思わず声をあげる。


「いやー、これは、ちょ……」


「今どうなってんの?勇者は?おい!」


「んん……まず、落ち着いてほしいんだけどー……」


 ヨウはケンゾーを魔法で浮かして、ゆっくりと台座に戻した。


「もう何なんだよ………………え——」




 ケンゾーの目には、ボロボロになって倒れて動かない勇者の姿が映っていた。いわゆる瀕死の状態だ。


 千年もの間、まともに使われることのなかったケンゾーの脳は、このあまりに不可解な状況に付いて来れてはいなかった。


「どういう……ことだ?何があったんだよ!」


「いやぁ、なんと言ったらいいか……」


「なんだよ、言えよ!」


「……私の……で……」


「ハッキリ言えって——」


「私が間違って勇者倒しちゃった」


「…………は?」


「ライトアップの魔法、強くしすぎちゃって……えへへ」


「……」


 


 最悪の日から3日後。


「いやぁ、ようやく機嫌直してくれてよかったよー」


「許してねぇよまだ。俺の夢が……」


「勇者は……棺桶にでも入れとく?」


「どの世界の話してんだお前」


「じゃあ新しい勇者待つしかないねー。何年後か分からないけど」


「……クソが」


「ツンツンしないでよー」


「お前の魔法強すぎなんだよ。もうお前が魔王倒してこいよ……」


「それは無理だって言ってるでしょー。これで500回目」





 伝説の剣と妖精は、世界を救う勇者を、今日も待ち続ける……。


 例え、嵐が起きようと。


 例え、間違えて勇者を倒しちゃおうと。


「えいっ」


 ザクっ


「だから俺でリンゴ切るのやめろ!」

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俺は伝説の剣。 きん斗 @bassyo-se2741

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