狼と美しい景色

破村すたむ

狼と美しい景色

今は昔、とある寂れた村にタローという若者がいました。

タローは、素直で他人に優しく謙虚で、少しの自尊心を持つ少年でした。

しかし彼は貧しく、その日を生きるのがやっとでした。

彼には秘密があり、それは食べるものがなくてどうしようもなく腹が空いたときに、住民全員が寝静まるまで待ち、その後裏山の松林の松の皮を剥ぎ取ってよく煮てから食べるというものでした。

ある日彼は松の皮を食べている姿を隣の住人に見られてしまい、恥ずかしさのあまり生きることが嫌になってしまいました。

裏山には、狼が住んでいると言われており、夜に家の扉を開けたままにすると食べられるという言い伝えがありました。

タローがその夜家の扉を開けたままにしていると狼がやってきました。

「俺はもう生きていたくない。さあ、俺を食ってくれ。」

しかし、狼はタローを喰らうことなく、居間に座って彼に話しかけました。

「それはできません。なぜならあなたは人間だからです。私はちょうどあなたに用事があったのです。この手紙を隣の村の方へ届けていただきたい。彼には恩があるのです。」

狼はそう言うとタローの目を舐めました。

「それではよろしくお願いします。」

気づいたときには狼は去っていました。

手紙は文字が汚く、何が書いてあるのかわかりませんでしたが、タローは狼の言うことに従うことにしました。

外に出たとき、タローは驚きました。

村には人間が一人もおらず、その代わりに服を着た動物がたくさんいたのです。

彼は怖くなって、日が登ってすぐに村を飛び出しました。

しかし、彼は村から出たことがないので、隣の村の場所がわかりません。

そこで、そこらに生えていた花たちに聞くことにしました。

「隣の村へ行くにはどの方向へ行けばいい。」

しおれた顔を下に向けたまま花は答えました。

「知らないね。そのくらい自分で考えなさい。お前は他人に頼ってばかりだからだめなんだとわからないのか。こんなことを言わせるな。」

枯れた花は、いつまでもそこに居座り、種たちを困らせていました。

しかし、彼では花をどかせません。

彼は仕方がなく進むことにしました。

昼になり暑くなったので川の水を飲もうとしたところ、五十羽の鳥が水を飲んでいました。

鳥たちは一羽のキジを邪魔して、水を飲ませないようにしていました。

やめろ、とタローが言うと鳥の集団の中から異様に細く、いやらしくて品のなく不気味に白い羽根を持ったサギが現れて言いました。

「お前には関係ないだろう。」

何羽かのペリカンが後に続きます。

「お前、きもちわるいね。」

「お前、太ってるね。」

「お前、頭よくないね。」

「お前、根暗だね。」

「お前、礼儀知らずだね。」

鳥たちはまるで濁流のように押し寄せ、流れに逆らおうとするタローを飲み込もうとします。

タローはすっかり悪者になってしまい、サギ、ペリカンたち、ハトたち、インコたち、そしてキジに追い出されてしまいました。

結局タローは水を飲めず、前に進むしかありませんでした。

日は落ちかけ、空が朱色に染まってきましたが、タローはいまだに村の場所がわかっていませんでした。

次に彼は風に出会いました。

風は息をしていませんでした。

もう少し前までは、強い風が吹いていました。

しかし、風は、風によって砂が舞うことをひどく責められて、だんだんと傷つき、勢いを無くしていきました。

風は擦り切れて、もはや悲しむこともなくなっていました。

ただ無気力で、動かず、静かに、じっとしていました。

このまま風は誰とも関わらず、いつまでも無として過ごすでしょう。

風はタローに村の方向を示すと、どこかへ消えてしまいました。

しばらくすると、タローは村に着きました。

村にはたくさんの動物がおり、もうすぐ夜なのにも関わらず、活気にあふれていました。

手紙の受け取り主というのはすぐにわかりました。

受け取り主はタローの持つ手紙を見ると屋敷へ彼を招きました。

受け取り主はウサギでした。

ウサギの屋敷には大きな檻があり、その檻には何か入れられていました。

それは狼のように見えました。

「そいつか、そいつは私が保護してやってるんだ。」

ウサギは手紙の封を切りながら答えました。

「どうやら夜に家の扉を開けておいてほしいようだ。一体彼はどうしてそんなことを。」

タローは今晩泊まっていかないかと聞かれましたが、断って帰ることにしました。

帰り道、今夜は新月だったはずですが、空には月がありました。

もちろんそれは月ではなく、スッポンでした。

スッポンは本来は月がいるはずの位置に張り付いていました。

スッポンの体は泥まみれで、酒臭い匂いがします。

偽物の月は彼に話しかけました。

「ちょっと、誰のおかげで道に迷わずに帰られていると思ってるの。私が今夜寝たいのを我慢して、せっかく道を照らしてあげているのに、感謝すらないのね。一体私がいくらお金を出したと思ってるの、この恩知らず。」

月明かりがなくても自分なりに迷いながらも進んでいくだろう、とタローが言いました。

「あなたが思うよりこの世の中は厳しいのよ。あなた一人じゃあ何もできない。あなたを心配しているの。」

それは心配しているのではなく信用していないのだろう、とタローが唸ります。

「ああ、そう、全て私が悪いのね。あなたのためを思って行動してあげたのに。私がいなくなればいいんでしょう。そうすれば全て解決するのでしょう。」

タローは疲れていたのかスッポンとの対話に苛立っていました。

やるせなさが暗い憎しみへと変わり、不信感がどろっとした敵意へと変化します。

タローは怒りのあまりスッポンを引きずり下ろしました。

地を這るスッポンは今も何かを喚いてどこかへ行こうとしています。

タローは狼へと姿を変え、スッポンを食べました。

血を這う狼は今は何かを呻いてどこかへ行ってしまいました。

その日の深夜、裕福なウサギの屋敷に狼が一頭いました。

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