父の詩集「自画像 あるいは針金細工の心象」

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蒼びかりの空に沈む

あれは なに 

あれは なにか


今朝

町なみを焦がす光と

とぎれたサイレンの音に日は昇り

吹きよせられたスラムの上

青いドームのはじからはじへ


とびかい 荒れくるう

気団は

どんな国境を越えてきたのか


みちばたに

とけわすれた氷塊

空をうつし

窓枠に切りとられた

氷塊 蒼く

すでに脈うたぬ氷塊

切りとられて

救いをもとめる

ひとさしゆびのように

みちばたに林立し


とおい朝

美しい朝には

むすうの太陽たちうたい

むすうのハムレットやオフィーリア

手をとりあい

むすうの氷の指から

ルージュよりも紅く血をしたたらせ

だが

俺の朝

おまえの朝

そして

俺たちの朝は

白く崩れた土塀に沿って

石くればかりの道を転がり


蒼びかりの空に沈みこむ

あれは なにか

あれは


刺しつらぬく痛みや

*苦がい砂粒に支えられ

くろい血を呑んで

頭かかえこむ氷塊

胃の腑こみあげる凍りついた指


今朝

ビーダマのようにころがる朝の

電柱にはためく求人広告や

ちぎれとぶ包装紙の空に

うたおうとして沈む

あの

ひざまづく人のかたちした雲や

あの

くいしばった唇のかたちした

あおじろい月や

うたうな!

月よりも重々しく

*うたよりも鋭どく

ひとつぶひとつぶの汗よりも加熱された

あの弾道のまえに


この朝

つぶやくことばは奪われて

またしても

荒れくるう白い気団

扁平なゆび

扁平な光

烈しくきしるバイオリン


蒼びかりの空に沈もうとする

あれはなにか

あれは

あれ


吹きすさぶ大腿骨

二頭筋大腿骨

ちぎれとぶ蒼空

溶けそこなった氷の塔

きしりごえたてるバイオリン

この朝

降りかかる宇宙塵に

額 射ぬかれて

まわりながら


うたうたう

砂どけい

まわりながら

祈る斜塔

炎の影走らせながら

目をまわしながら

堕ちながら


蒼びかりの空に沈みこむ

さかしまな塔

*衝激波ほとばしらせる塔

おまえは なに

おまえはなにか


眠られぬ朝

寒い朝

ようやく見えはじめた朝の

あの

憎悪の形して煮えたぎる

バイオリンの声のうず潮に

沈みこむ

あれは なに

あれは なにか



*原文ママです

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