引きこもりの皇女、旅の錬金術師に才能を見出されて城を飛び出し幸せになる

月野 観空

第1話 プロローグ:錬金術師とわがまま皇女

「錬金術師アンジェリカ! 皇女たるあたしが命ずるわ。このあたしを誘拐しなさい!」

「いや無理っスね」


 大上段から放たれた命令に、アンジェリカは即答していた。


 場所は、エルダーク王国の首都にあるエルダーク城。

 その一室、エルダーク第三皇女である、ライゼ姫の私室であった。


「なんでよ! ふざけないで! 全然話が違うじゃない!」


 ひざまずくアンジェリカに向けられるのは、拗ねた子どものような……いいや、ような・・・ではなくそのもの・・・・の、ライゼ姫の声である。

 そこから次いで放たれるのは、


「あたしの命令が聞けないなんて不敬よ不敬! 死刑にするわよ!」


 なんていう、物騒なセリフ。

 さらには脇に控えるメイドにまでこう告げた。


「なにをしてるのよ貴女たち! あたしのために、なんでそこの錬金術師を一緒に説得しようとしてくれないの!?」

「ひ、姫様、その、困ります……そんなワガママを仰せられては……」

「どこの誰がワガママですってぇ!?」

「どこの誰も、テメーがだよ……」


 思わず横から突っ込むアンジェリカ。

 そんなアンジェリカに向かって、ライゼは再び「ムキー!」と怒ると、


「何よその口の利き方ぁ! 姫たるあたしに失礼よ失礼! むっかぁぁぁぁぁつくんだからぁ!」


 などとヒステリックな声を上げた。


 それから何を思ったのか。

 ライゼは、彼女のために誂えられた特製の椅子の上・・・・・・・から、彼女を指さしこう告げる。


「もぉぉぉぉぉ決めたわ! 錬金術師アンジェリカ! 絶対に貴女には、あたしをこの城から連れ出してもらうんだから!」

「はぁ……えぇー……」

「覚悟しておきなさいよ! これは命令、命令、命令よっ! 命令違反は不敬罪で死刑なんだからぁ!」


 喚き立てるライゼの言葉をとりあえず適当に聞き流しながら、アンジェリカはこんなことを思っていた。


 ――なんだこのメスガキめんどくせぇな、と。

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