最初で最後の夏の旅

yuyuyui

第1話 日常の終わり

燕山学園 屋上 7月15日 a.m.8:20

「スーーハーー」 大きく深呼吸をする。水瀬汐那はHR前に屋上に来ることが日課になっていた。あることをきっかけに…。不意に空に目をやる。真っ青な広い青空に、真っ白で大きな入道雲が映えており、思わず吸い込まれそうになる。

「このままあの空に向かって行けば楽になれるかなぁ」なんて独り言を呟いて、1歩踏み出そうとした時だった。キーンコーンカーンコーン…予鈴が鳴った。驚き、目をやると時刻は 8:27

「やばい、!HR始まっちゃう!」汐那は慌てて踵を返し、急いで教室へと向かった。

燕山学園 教室 7月15日am 8:29

スマホを起動し、時間を確認する。時刻はHRの始まる1分前。廊下を全力ダッシュしたため、息も髪を乱れまくっていた。とりあえず呼吸を整え、そっと教室の扉を開けた。まだ教室はワチャワチャしていたため、どうやら先生は来てないようだ。

「あ、みなせな〜!!HR5分前には教室居なきゃだから遅刻だぞー!」汐那が自分の席に着くなり、茶化してきた少女の名は天音柚芭。汐那にとっては幼馴染であり、『みなせな』という変なあだ名の名付け親でもある。 「先生居ないからセーフだもーん、残念でしたー」

「いやいやー、アウトなもんはアウトでしょ!先生にチクってやる」

「じゃあ私も柚芭が学校にお菓子持ってきてることチクるか」

「な、なんでそれを!?汐那様!!どうかご慈悲を…」

「お前らーHR始めるぞ〜」担任の久津名が入ってきた。あれだけ賑やかだった教室も一瞬で静まり、全員が自分の席に着いた。 「じゃあとりあえず簡単に連絡事項だけ……」 いつも通り淡々とした話だけでHRが終わると思っていた。だが、

「水瀬、お前今日HRの5分前にこの教室いなかったよな?罰として一限、第一理科室に来い。一限のケビン先生には俺から言っておこう」先生の言葉に耳を疑った。私が教室に戻るまでに久津名とは一度もすれ違ってないはずだ。一体どこで見られてたんだろうか…

「分かりました…」

「じゃあ、水瀬早く来いよ」そう言って、久津名は教室を出ていった。

「みなせな…ドンマイ、とりま早く行ってきな」柚芭は哀れみの表情を浮かべていた。

「…もう最悪…」また、またあれが始まるんだ…

「みなせな…?顔色ヤバいけど、大丈夫?」

柚芭の声でハッとした。この子にだけは気づかれてはいけない。

「大丈夫大丈夫、気にしないで!久津名にちょっと叱られてくるわ!」

「あ、みなせな…」

引き留めようとした柚芭の手を振り解き、第一理科室へと駆けていった。

燕山学園 第一理科室 7月15日 a.m.8:45

扉の前に立つ。あとは教室に入るだけなのに、どうしても足がすくんで動けなかった。

覚悟を決めろ、汐那。

ガラッ

「先生、遅くなりま…した…」目の前に先生はいなかった。いや、正確には視界に入らなかっただけで実際にはいた。けれど先生よりも真っ先に目にとびこんできたのは、鮮血に身を染めた美少女だった。

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