一夜のマジック

@asterte

第1話

「ごめんね」の後に続くたった10文字のほどの文章にここまで心を動かされるのはこれが最初で最後だろうな。高校に入学した。まだ桜が咲ききっていない春の中。大してレベルの高くない学校。期待と未知への恐怖を含む私の冷や汗はとても冷たかった。初めて1年5組の前に立つと知らない顔だらけの教室があった。高校では友達を沢山作って部活も勉強も頑張ろうと全人類は1度は立てた事のある目標をかかげ、何気ない4月のHRを駆け抜けていく。学級長に手を挙げた時は心臓がとてもドキドキしたし、新しい友達と初めて話すあの話題の出し方はなんとも言えない2人の共同作業なような気がした。初めて皆でやった事といえばクラスTシャツ作成なんていうありきたりな事があった。絵担当の子と発注というか意見まとめなのかな?とりあえず押し付けられただろう仕事を4人でしていた。3人とも今でも交友があると言っていいかは微妙だが、それなりに仲良くやっているつもりだ。その中の誕生日が1日違いの副学級長や身長の低い女の子は今後の学校生活に大きな影響を与えると知らずに。突然だけど、好きな女の子ができた。同じアーティストが好きで趣味も似通っている身長の低い女の子、ここではみんなに親近感をもってもらえるように水夏ちゃんとでもしておこうか、じゃあ誕生日が1日違いの副学級長は昴とでも名前を付けておこう。昴は元々違う中学校なのだが、この1年5組で仲良くなった。昴は部活は生徒会で音楽が好きでラジオをよく聞くらしい、ラジオなんて野球中継しか聞かないからよく分からないけど。そういえば僕が生徒会と放送部に入っている事も同時に伝えておこう、まぁ途中でやめちゃうんだけどね。生徒会はみんなの思っているような堅苦しい感じじゃなくて、自由だった。生徒会室にある電子レンジは3年間お世話になったし、模擬刀やメガホンのある教室はいつしか居場所となっていった。そんな中で矢のように進んでいく時間は学祭へと近づいていく。やはり学祭は心躍るもので文化祭マジックと呼ばれる、カップルが誕生し別れる季節であることで有名だろう。特に私は先程の女の子にずっと恋をしているから特に何もない。けれど彼女はできた。誰かというとバ先の先輩だ。自分で自称するのはどうかと思うが先輩に愛されるタイプだという自信はある。まぁそんな感じで好意を向けられたからというよく分からない理由で彼女が出来てしまう。でもそんなに悪くはなかった。付き合いたては水族館や遊園地にいった。ちゃんと楽しかったし、今でも心の中にひっそりとあるその記憶を大切に暖めている。生徒会ということもあり、高校生の忙しさというもの肌で感じてその中で生活するのは楽しかった。なにより、3年や2年と遊べるというのはとても新鮮で大人びていて憧れだった。学祭はみんながイメージする通りの学校祭で、うちのクラスは中華料理をやった。まぁあんまり繁盛はしていなかったけれど、記憶の中に楽しかった思い出の1ページとして保存されている。そんな話はどうでも良くて(そんなことないよ)生徒会としての仕事で昴や水夏と一緒になる。昴はもちろん同じ生徒会だから一緒に活動を、するようになっていった。最近流行りのゲームをみんなで一緒にやるようになったり、勉強をしたりなどちゃんと仲が良いと言えるだろう。学祭の時のイベント運営だったり、部活の手伝いをしていた。水夏はチア部で学祭の時にパフォーマンスをやっていてそれの手伝いもしている。いつの間にかチア部に聞きたい事はその子に聞くようになっていたし、仲も良かったと思う好きなアーティストのオンラインライブも見たしそういう所は幸福というか今でも心の中に暖めてある。でも、決して勘違いしないで欲しい。水夏が好きだからこういう事をしていたみたいな風には思わないで欲しい。音響という裏方、得しない立場を誰かのためとかじゃなくてみんなのためだし、こういう裏方の人がいないと物事が成り立たないことを無意識のうちに認識していたと思う。体育大会なんかも同じようにパフォーマンスがあって、そこでまた仲良くなってそういうのが続けばいいなと思っていた。自分のものになってほしいとか、そういうつもりは無く、ただ誰のものでもなく、好きなものを楽しく話す水夏を見ていたいだけだったんだ。(まぁまぁそんなに熱くなるな。)そこからは特に何も無かった、というかこの延長線上にあるだけで、水夏と好きなアーティストのイントロクイズをしたり楽しい時間を過ごしていたと思う。昴とも生徒会の活動を一緒にやる機会は増えていったしゲームをする時間も増えていった。discortというアプリを使って夜な夜な目的もなくゲームをして目的もなく話すうちに夜は明けていくような生活をしていた。その中で失敗もしたし、親に怒られたりなんて事も沢山あった。その中で迎えた3年生は気合いというか、高校最後という気持ちもあり、学祭も定期テストも本気でやろうと。先程の彼女とは相手の浮気で別れてしまった。浮気をされてもさほど悲しく無かったのは僕ももう冷めていた証拠だと思うしそれで良かった。だけど、相変わらず昴と水夏と話す時間はとても楽しくて、自分たちが受験生だという事も忘れてしまう。3回目の一学期はとても短く思えて、あっという間に文化祭よ準備期間になってしまう。2年前と変わらない企画を提案して、その中にチア部のパフォーマンスもあって、光陰矢の如しとはこの事かと身に染みた。ここで見たチア部のパフォーマンスは今でも鮮明に思い出せる。2年前とは立ち位置も真ん中に近づいた水夏を音響控え室の窓から食い入るように見た。パフォーマンスの終わりに来年の引き継ぎの話をしようかなと思って音源の入ったUSBを渡そうと控え室に2人で行く。自分は昔からとても不器用で鈍感でビビりで頼りないと自覚している。大事な時に何かを言い出せるタイプでは無いし、それを上手い方向に動かせる能力も無いことを知っている。だから、考えきた言葉も言えずに、引き継ぎのUSBを渡して、ありきたりな3年間の感謝を言って、解散して、次の部活のパフォーマンスの準備に取り掛かった。この時に次の機会には絶対言おうと決心した。無事に文化祭も終わり。季節は本格的な夏が始まった。勉強もしなければならない季節だけど、夏祭りや文化祭の打ちあげなんかがそれの邪魔をする季節。その時、ふと気になって友達から水夏にメッセを送ってもらう。どう思っているのか聞いてもらった。ちょうど月曜日だったな、と思ったのも記憶に新しい。そこで水夏に好きという事が伝わってしまったらしい。すぐにメッセージが上から顔を出す。

ピロン

「私のこと好き?」

カッカットントン

「うん。そうだよ」

うん。知ってる。水夏は彼氏が出来たことがない。きっと次には、僕も同じ気持ちで待っている、それをそしたら僕は水夏とお色んな場所に行っ ピロン

「ごめんね」

え、

「ごめんね、私昨日彼氏ができて。だからごめんなさい。」

あぁ今日は月曜日か、気付かなかった。昨日は夏祭りだったのか、あぁそうか、その瞬間に雨の音は耳から消え、自分の涙の落ちる音を聞いた。心の太陽を失った気分だな。きっと水夏は幸せになるだろう。そうでならなければならない。それを心から願っている。そうだろう。

「おめでとう。幸せになってください」

「ありがとう」

やめてくれ。その優しさが好きだから、やめてほしい。いっそ嫌いと言ってくれた方が諦めがつくのに、その言い回しにまた期待をしてしまう。いつかを夢見てそれを追ってしまう。それは呪いになってしまう。どうしたらいい。今までの人生で水夏よりも素敵な女の子を見た事がないのに。その彼氏がいなかったらを想像させないでくれ。その言い回しに僕はたらればを期待してしまう。1度僕は機会を逃したんだ。時間を戻せるなら、あの時に戻れるなら、あの時考えていた言葉を君に、でももう遅い。あぁもう全て終わりだろう。2年生の時に東京であのアーティストのライブを見に行こうと約束した事も、卒業式の前にイントロクイズをやると約束した事も、同じブランドの服を一緒に見ようと言ったじゃないか。でもそれを言ってもそれに水夏が謝って悲しい思いをさせてしまう。誰も望んでない。もうこれ以上惨めにしないでくれ。僕は最後まで自分勝手だった。思っている事をそうだと信じてそれを押し付けた全て僕が悪いのだろうか、救いがあるならばこれ以上水夏を悲しませない事だろうか。本当に好きだったんだよ。水夏の言葉も行動も綺麗で力強くて、僕なんかよりかっこよくて、とても素敵だったんだ。語彙の豊富な表現も、推しを見て幸せそうな笑顔も二度と見れないだろうけど、忘れないだろう。人生で1番長い片想いになってしまう。もうこれ以上の愛を僕は持ち合わせていない。ありがとう、僕に夢を見させてくれて。多分これからも水夏を忘れられずにいるのだろうか。雨は止んでいた。淀みのような心を自分で慰めて、また、また泣く。

※このお話がフィクションだったら良かったのに

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