第四章 放送すべきか(3)

 11月28日(土) 都立高等学校文化祭


 平均13.8度、最高気温17.7度、天気は快晴。「ハンナ」と「仁雄」の学校で開催される「都立高等学校文化祭」。「ハンナ」の保護者「母」と弟「シモン」はもちろん、バロック...樋串武学園の主要人物「アトラス兄妹」と従者「ハイペリオン」、「雅史」とその幼馴染2人「杏璃」「健太」のほか、フォルテ中学校の生徒5人「ミュゼット」「和子」「カルウ」「チイア」「ブチョ」が来てくれた。現在地はこの高校の体育館である。


「(ミュゼット:)雅史、こうやって皆揃うの久しぶりでしょう?」

「(雅史:)そうみたいね。4人とも久しぶりだね。」

「(カルウ:)ひ、久しぶり...。師匠のライブ、楽しみよ。」

「(ブチョ:)カルウったら、ハンナ師匠のライブが待ちきれなくてよ。」

「(和子:)委員長さんの演劇がどんなものか見たくてたまらないです!!」

「(チイア:)あはは、僕の影が薄いせいかもう...。」

「(清子:)フォルテ中学校の皆さん、久しぶりに会えてうれしいですわ。とはいえ夏休み前まで、わたくしと和子さんはあなたたちとは違うクラスなので、全然お話しできなくって...。」

「(ミュゼット:)清子が風紀委員だからって親しく話しかけなくて、ごめんな...。和子もね。ほら、私の発言思い出してよ。『私の学校でよく見かける風紀委員ってことだよ。ぜんっぜん声をかけてないし。』ってな。」

「(カルウ:)風紀委員に関心がなく、ただ師匠しか頭にないの。ごめんね清子と和子...。」

「(雅史:)開会式は9時からだよ。もうすぐ始まるころかな?」

「(清子:)...そうですね。皆さん、もうすぐ始まりますわ。」


 開会式が執り行われ、前回同様この高校の校長および生徒会長の挨拶を適当に聞き流す「雅史」。本命は「ハンナ」と「仁雄」の学年である高2の演劇だ。と言いたいところだがまずは下記のプログラムを見るといい。


***文化祭 - プログラム***

9:00 開会式

9:15 高1合唱とダンス

9:45 高2演劇「レベッカ勇者伝説」

10:15 幕間

10:30 高3クライミックス・パフォーマンス(Climix Performance)

11:00 カーテンコール

11:10 休憩(来客だけ)、昼食(生徒だけ。その後、出し物スタンバイ)

12:00 出し物タイム(クラス個別の模擬店・アトラクション、部活動パフォーマンス)

12:45 ミスコン

13:00 演劇部+文芸部共同タイトル

13:20 合唱部

13:40 ハンナの軽音楽部ライブ

14:10 吹奏楽部

14:45-15:00 フィナーレ・閉会式


 開会式の次は高1合唱とダンスなので、30分間見続ける羽目に。あくび6回出る「雅史」、姐さん以外なんてどうでもいいっぽい顔をしている。退屈なダンスの次は、待ちに待った「ハンナ」と「仁雄」の学年が活躍する高2演劇。タイトルは「レベッカ勇者伝説」で、「ハンナ」がこの題の脚本を手掛けたという。


「(ラファエル:)!!レベッカだと...!?」

「(雅史:)これっ、スィー...!」

「(清子:)静粛に...お願いしますわ、ラファエルさん。」

「(ラファエル:)...悪い。」


 語り手は「ハンナ」自身。その内容は、鋼鉄のイサム...いや、伝説の勇者「レベッカ」が巨悪を討つ冒険活劇だ。鋼鉄の勇役は「仁雄」で、伝説の勇者役はどういうわけか「レベッカ」に憧れていて背丈が一緒である女子の「遠藤麗下」、魔王役は「大塚丈夫」がそれぞれ担当する。準備が整い次第、舞台の幕を上げ開演した。


「(ハンナ:)語り手ハンナがお送りする。それほど遠くなく一個オールド、鋼鉄の勇は魔王を討つ冒険に出た。でも、パーティーが彼1人なので心細い。せめて1人でも仲間を増やす必要あるので、次の街のパブで仲間を募集することになった。」

「(増田:)いい人材はいないか...。誰でもいいので、魔王討伐に力を貸すやついないか!!」

「(麗下:)なにかお探し?私でよければご一緒にいかが?」

「(増田:)なんだよ君は、ジョアン・オブ・アークじゃあるまい。」

「(麗下:)ジャンヌの真似...皆からそう言われるし。」

「(ラファエル:)レベッカが英雄...ふむ。」

「(増田:)ま、そう言われるのも無理もない。冒険を共にしてくれ。」

「(麗下:)うん、それならお安い御用。」

「(雅史:)姐さん、会話イベントが真っ直ぐすぎてもう...。」

「(ハンナ:)鋼鉄の勇はレベッカをパーティーに入れて、魔王討伐への道のりを歩いていく。ところが、道端で男女ダンサーが鋼鉄の勇達の前に立ちはだかり、唐突に彼らがダンスを踊りだす。」


 男性陣はブレイクダンスか何かで、女性陣は「ロザリオとバンパイア」と良い勝負できるくらいの踊りを披露する。


「(清子:)な、何ですこれ...ぶっ!!!」

「(雅史:)尺稼ぎのつもりのダンスパートwwwwwww」

「(ミュゼット:)...変なの......!!」

「(ラファエル:)......ンンッ!!」

「(シモン:)姉さん...。」


 奇抜なダンスパートに困惑する弟「シモン」。大爆笑する「雅史」とその友達。さすがの「仁雄」も笑いをこらえるのが精いっぱいである。


「(仁雄:)ぐ、魔王討伐を目指す俺らパーティーを声援するのはわかる...。頑張るよ..んっぐぐ...。」

「(麗下:)応援ありがとう。頑張って魔王を討つから楽しみにしてね。」

「(ハンナ:)声援を送ったダンサーは少し踊り続けながら鋼鉄の勇パーティー見届ける。パーティーはそのまま魔王城に直行する。城の中に魔王が待ち構えていた。ただの戦士に過ぎないレベッカの戦力はいかに?」

「(丈夫:)待っていたぞ勇者ども。我に勝てると思うなよ。」

「(仁雄:)こう言ってられるのもイマノウチだ。魔牛バウザー!!」

「(丈夫:)...われが魔牛だと!?牛の魔王...しかも名前がバウザーだぁ!?ガハハッ、グハハハハ...笑わせてくれる!!」

「(雅史:)ちょwwwwwなにこれwwwwwwwwww」

「(ミュゼット:)バ、バウザーって...!!」

「(清子:)...ハンナさんが手掛けたとはいえど、こんなおかしな演劇初めて見ましたわ...!!」

「(ラファエル:)ゲームキャラクターの名前から取った妙な魔王...だと...!!」

「(シモン:)台本にないアドリブ...。」


 ちなみに自宅で見た話だが、シモンの知っているこの演劇の脚本はプロトタイプなので...。


「(麗下:)私のマトリクスが...輝いている...!!」

「(ハンナ:)この場で伝説の勇者として覚醒したレベッカは、魔牛バウザーを浄化すべくマトリクスの力を解放する。」

「(雅史:)もうめちゃくちゃだよ姐さんwwwwwこのへんにしてよwwwwwwwwww」

「(清子:)あーあ、演劇の方向性が...これのどこが伝説の勇者ですの???」

「(ハンナ:)光り輝くマトリクスによって、魔牛バウザーの心は浄化されつつある。浄化...というか悪のエネルギーを分離させたと言ったほうが正しいかも。」

「(ミュゼット:)は、はぁあああ???」

「(ラファエル:)くくっ...ふ?」


 正確には魔牛「バウザー」の身体と悪のエネルギーを分離させたということである。見ての通り、魔牛の周りに色付き煙幕を発している。「ラファエル」が今感づいたのはそういうのじゃない。「麗下」の背後に「怪しげな黒ローブの人」の事で舞台に煙幕を張っている間を見計らい、どさくさに紛れて伝説の勇者を刺そうとナイフを片手に...。これはピンチだ!!「雅史」達は今起こそうとする事件に全然気づいていない。「ラファエル」は大声で「ハンナ」に緊急事態を呼びかけようとする...が、彼の異変に気付いた「ハンナ」は舞台のどこかに「怪しげな黒ローブの人」を見つける。


「(ハンナ:)見てごらん、煙の中の黒ローブが悪のエネルギーの正体よ。伝説の勇者が危ない。どうするの鋼鉄の勇?」

「(増田:)あ、あれか?魔牛を影で操ったという黒幕は。ならば、討ち取ってくれる!!」

「(ハンナ:)黒ローブはナイフ一本手に持っている。このままでは鋼鉄の勇が不利になるだけ。どう戦うの?」

「(ラファエル:)俺がフォローする!!カオスコントロール!!」


 時間停止能力で時を止め、3.5秒以内でステージに上がる。はい、時間切れで時は動き出す。


「(増田:)ら、ラファエル!?」

「(ラファエル:)話は後だ、奴を押さえるぞ!!」

「(ハンナ:)なんということ!!いつの頃からか知らない男がこの場に現れた。2人は黒ローブをどう討つ?」

「(ダイアナ:)ラファ兄!?...いつの間に!?」

「(ハイペリオン:)ご、御主人様がまさかの乱入!?」

「(清子:)なんでラファエルさんが舞台に立っているのです!?」

「(ミュゼット:)あちゃぁあ~もう...。」

「(雅史:)舞台に立ってどうするのよwwwwwwwwww」


 いきなり「ラファエル」の登壇に観客は困惑する中、なんとかアドリブでごまかす「ハンナ」。


「(ラファエル:)ザ・ワールド!!時よ止まれ!!」

「(増田:)めち」


 再び能力を使い停止し、「怪しげな黒ローブの人」の背後に回り込み取り押さえる。


「(ラファエル:)そしてトキは動き出す。」

「(増田:)ゃくぅ、いつの間に取り押さえてくれたのか。」

「(ハンナ:)おっと、黒ローブを取り押さえたのは異界の人よ!!」

「(ラファエル:)皆よ、よく聞け。俺は時を司る賢者だ!!これよりやつを、邪悪なる闇の化身を冥府の彼方へ葬る。賢者の使命を、しかと見届けよ!!」


 3度目の能力を使い、自分を含め「怪しげな黒ローブの人」を退場させる。


「(ハンナ:)こうして、魔牛バウザーを影で操った邪悪なる闇の化身を葬り、この世界に平和が訪れた。自分もろとも真の黒幕を葬った今、時の賢者はどこにいるのかはわからないままだった。めでタイ...というべきかな?」

「(清子:)物語が破綻していて、ぜんっぜん伝わりませんでしたわ。」

「(ミュゼット:)ラファエルの登壇でどうなるかと思ったが、ハンナ姐さんのアドリブでなんとか乗り切ったとはね。後で聞くとしよう。」

「(シモン:)台本にない展開のこと?」

「(ミュゼット:)んふふ、気になるでしょう。まぁ後でね。」


 予期せぬハプニングが起きたが「ハンナ」が手がけた高2演劇は盛り上がるくらいなかなかのものであった。幕間の次は高3生徒達がお披露目する「クライミックス・パフォーマンス」。すなわちリミックスのようなものだ。3チーム(合唱、ダンス、演劇)の持てる力をもって演出する。「雅史」は無関心の顔をしている一方、「ミュゼット」は「これはおったまげた」ような反応を示す。全学年の出演者が舞台に立つカーテンコールの後、休憩時間に入る。「ラファエル」の姿がないままだ。


「(ダイアナ:)ラファ兄、どこいったの...。」

「(ハイペリオン:)でも御主人様のいうことは絶対なので、探したくてもできないし...。」

「(清子:)そんなにラファエルさんがご心配なら、わたくしが探しにいってきます。」

「(ミュゼット:)じゃあ私も。例の黒ローブがどんなやつなのか気になるし。」

「(カルウ:)師匠のライブは13時40分だし、暇つぶしにちょうどいいから私もいく。」

「(雅史:)姐さんが運営する模擬店のメニュー『ボルシチ』も捨てがたいので遠慮しとくよ。」

「(ミュゼット:)よし決まりね。ラファエルを探すとするか。」

「(シモン:)気をつけて。姉さんの台本にないものだから、それと黒ローブの持っているナイフは本物だよ。」

「(ミュゼット:)そんなに心配しなくても、私たちがなんとかするからよ。」


 「ミュゼット」と「清子」、「カルウ」3人で「ラファエル」探しに学校全体を巡ることになった。模擬店を準備している「ハンナ」は、今日の演劇の結果に疑問を抱いている。


「(ハンナ:)それに黒ローブ...台本にないけど中の人は誰かな。」

「(丈夫:)黄組のやつのことじゃねえのか?青組の麗下に恨みがあるとか。」

「(増田:)...急用思い出した。正午までに戻って来る。」


 「黒ローブ」の正体を知るべく「仁雄」は模擬店の準備を放り出し、調査に向かった。


【Phase-3】

 ここはこの学校の裏庭。前回の体育祭と同じ場所だ。今回は「ラファエル」があらかじめ呼び出した帰宅部(えた☆そな部)3人と生徒会3人とともに「黒ローブ」の正体である高2黄組の生徒「小野斤(フキン)」を1時間かけて尋問していた。


「(ラファエル:)くだらない理由で演劇を盛り上がっただけで、それほど深刻ではないようだ。礼を言う。」

「(家坂:)僕の手にかかりゃあ、自白させるなんてことは朝飯前ですよ。」


 「クリミナルアナリシス」で相手の愚行を読み取ったうえで、相手にその愚行を自白させる。それが「家坂コダック」の能力だ。


「(ランス:)帰宅部のくせにここまでやるとは、たいしたものよ。」

「(家坂:)生徒会副会長のアナタに褒められる筋合いはありませんねぇ。」

「(ラファエル:)事件は既に解決したんだ。ここでいがみ合ってもしかたがないだろう。文化祭の模擬店見ていくか?」

「(家坂:)それもそうですね。黄組の生徒はどうします?」

「(ラファエル:)本人は反省したようだから、自由にしてやってもいい。」

「(北村:)そんなことしたら、ふいうち食らっちゃうよ。」

「(ラファエル:)かまわん。その時は俺が止めてやる。」


 ここにいる8人は文化祭の続きを見るために校内に向かっていくのだが昇降口に「仁雄」が待ち構えていた。


「(増田:)フキン...。」

「(フキン:)...増田か。」

「(ラファエル:)風紀委員長か。なら話が早い。...バロック学園の君らは先に入ってもいい。」

「(ランス:)あ、ああ。」


 生徒会と帰宅部(えた☆そな部)一同はお先にということで「雅史」がいる場所に向かっていく。


「(増田:)俺でよければ話してくれ。」

「(ラファエル:)立ち話もなんだ、どこかで話さないか?」

「(フキン:)...赤組の廊下で話したい。どうしてもハンナに謝りたい。」

「(増田:)ならあそこで話そう。」


 「ハンナ」がいる赤組の教室前で話すことにした。


「(増田:)本来は色付き煙幕を発して浄化というより分離させた時点で完結したはずだったが、リハーサルおよび1日目とは違う展開になるとは思わなかった。どういうことかね。」

「(フキン:)一般公開で派手に盛り上がりたかっただけ。」

「(増田:)じゃあ、そのナイフはなんだ?麗下を刺そうとしか考えられん。」

「(フキン:)それはその、彼女が演じるその姿がレベッカに見えて、つい魔が差してしまった。」

「(ラファエル:)すなわち、レベッカ絡みの犯行ってことだ。ハンナの弟分である雅史の学園にも同じことが起きた。風紀委員長よ、それだけは言わせてもらう。レベッカに細心の注意を払うことだ。」

「(増田:)...心得た。」


 現在地は赤組の教室前なので扉越しで「ハンナ」に声をかけてみる。


「(増田:)ハンナよ、フキンが君に言いたいことがあるらしい。」


 「ハンナ」が扉を開けて出てくる。


「(ハンナ:)誰かと思えば、黄組のフキンくんじゃない。あなたが黒ローブの?...ということは、私が気づかないうちに黒ローブを着たあなたが干渉してリハーサルや1日目とは違う結果になったのね。」

「(フキン:)台無しにするつもりはなかったんだ。ハンナが思い描いた演劇をこんなになって申し訳ないと思ってる。」

「(ハンナ:)過ぎたことだから、もういいの。」

「(フキン:)謝罪のつもりがそんなにあっさり許してくれるとは...。」

「(ハンナ:)予期できない展開になったけれど、好評いただいたのは確か。終わりよければ全て良し。さ、模擬店はもうすぐよ。ラファエルくん、手伝って。」

「(ラファエル:)なぜ俺まで...。止めねばとつい乱入してしまったのも無理ないか。ハンナの頼みならば手伝おう。」


 正午12時...この学校の各クラスに模擬店が開かれる。未だに「ラファエル」が見つからず途方に暮れる「清子」達は仕方なく赤組模擬店に入る。そこにはウェイターをしている「ラファエル」の姿が目に入る。


「(清子:)ら、ラファエルさん!?なんで赤組の手伝いを?」

「(ミュゼット:)ウェイターをしているラファエル、どういう経緯でやってるの?」

「(ラファエル:)...それは、その...いわゆる迷惑料ってわけだ。」

「(清子:)それは災難でしたの。雪郎先生に負けじと粋がって舞台に乱入さえしなければこんなことにならなかったでしょうに...。」

「(ラファエル:)...それは悪かったな。」

「(カルウ:)それより、師匠の手料理食べたい!!」

「(ミュゼット:)とりあえず、ハンナ姐さんの手料理3人分よろしく。料理は確か...トマ」

「(清子:)ボルシチですの。ラファエルさん、よろしくて?」

「(ラファエル:)あ、ああ。」


 ウェイターの仕事は接客のほか、注文を取り、料理を運ぶことである。彼に限らず、同様の理由でウェイターの仕事をやらされている黄組の「フキン」。


「(ラファエル:)磯の香り漂うボルシチだ。」

「(清子:)一見するとハンナさんのボルシチに見えますが、おでんの具材を使った前回の時とは違い、磯の香り...というより昆布風味が強いだけですの。」

「(ミュゼット:)衛生上、肉や魚といったナマモノが使えないからね。」

「(カルウ:)これが...師匠の手料理...!!」


 3人だけではもったいない。「雅史」とその幼馴染2人、「ダイアナ」と「ハイペリオン」、「ブチョ」と「チイア」ならびに「和子」、弟「シモン」と母が彼女の手料理を食べるべくこの模擬店に入ってきた。


「(雅史:)姐さんのボルシチ食べに来たよ。...お??清子食べてるね。ラファエル何やってるの??」

「(ラファエル:)...いろいろあってな。」

「(ダイアナ:)ラファ兄...。」

「(ハイペリオン:)御主人様...舞台に上がった結果が模擬店のお手伝いだなんて...。」

「(ラファエル:)...こんな形で面目ない。ボルシチ運んでくるからゆっくりしていきなさい。」

「(ダイアナ:)あ、うん...。」

「(シモン:)早いうちに姉さんの手料理食べとかないと。40分後にミスコンやるらしいの。」

「(ブチョ:)...カルウってば、ボルシチの味はいかに?」

「(カルウ:)...隠し味の昆布ダシ。師匠ったらよくわかってるね。私が来ることを見越して。」

「(清子:)...どうりで不思議な味ですの。」

「(ミュゼット:)だって海産物おいしいもんよ。」

「(ダイアナ:)...ま、ま、まいうー。」

「(和子:)委員長さん忙しそうですね。」

「(雅史:)姐さんの手料理は最高においしいよ。『ミスコン頑張ってね』と姐さんに伝えてよラファエル。」

「(ラファエル:)な、何て!?聞こえん!!」

「(雅史:)だから姐さんに『ミスコン頑張ってね』と伝えてって言ってるの!!」

「(ラファエル:)ああ!!ハンナよ、ミスコン頑張れるか?」

「(ハンナ:)Nie ma problemu.問題ない。昨年で1位だから今年もきっと。」


 時間が近づくと「ハンナ」がミスコンに出場するために模擬店を出る。12時45分に始まるミスコンの結果は...。3位は緑組の女子で2位は青組の「遠藤麗下」、1位に輝いたのは赤組の「藤田ハンナ」であった。ここから「雅史」にとって退屈な他の部活の出し物「演劇部+文芸部共同タイトル」を見せられ我慢ならぬと「清子」を連れて「仁雄」の案内で「和子」を含めて4人で黄組の出し物「お化け屋敷」を体験する。やけになって時間の限りまわって「県立北高」や「桜が丘高校」といった2009年以前の学校文化祭に出てくるような出し物を遊びつくして時間をつぶしまくって13時40分。ついに待ちに待った「ハンナ」の軽音楽部ライブが始まる。振り回されてへとへとになった「清子」は夏休みの海水浴場で持ち歩いていたコンパクトデジタルカメラ(IXY DIGITAL 95 IS)を手に、その瞬間をカメラに収めると構える。


 「ハンナ」の軽音楽部ライブ、約30分。オカリナ(あるいはボーカル)、ギター担当は「ハンナ」で、ベース、ドラム、キーボードはもちろん他の部員が担当する。1曲目はカバー「ヌマノマ・オブ・ラブ」(約5分)。カバー曲は基本的には歌わず、歌の部分は「ハンナ」のオカリナで吹く。2曲目カバー「私たちを気にかけず轢死れきし」(約5分)、曲の最後のとこで車のホーンを鳴らし、そしてまた鳴らし、気づいたときは轢死していて終わりという内容。3曲目「F・ショパン レボリューショナリー・エチュード」(約3分)と4曲目「F・ショパン リトルドッグ・ワルツ」(2分30秒)は歌詞のない曲であるためか、ギターを使う。「ハンナ」達軽音楽部が演奏する4曲のカバーは基本的に2009年10月以前の洋楽である。最後の1曲はオリジナル「Her name is Rebecca」(約5分)。


***歌詞(Deeplish DeepL翻訳)***

Meadows swaying like crescent moons.

I rush here.

At the speed of light

They come towards us.


Run! Our hero.

Her name is Rebecca and she's on the side of good.

She boasts the fastest running speed.

Wow, she's incredibly quick.


Someone calls for help.

I hear it and run to it.

Exercise for the good of others.

Righteous power.


Run! Our hero.

Her name is Rebecca and she's the best in the world.

She has both strength in her arms and legs.

Numbly strong.


When a great evil appears.

She rushes to the scene.

Hanging from her necklace

the gleaming Lustrous Gem.


Run! Our hero.

Her name is Rebecca, the legendary one.

Unleash the holy light.

Her heart shines from her chest.


Run! Our hero.

Her name is Rebecca, Guardian of the Earth.

She protects for this world.

A legendary hero.


***和訳***

三日月のごとく揺れる草原

ここに駆けつける。

光の速さで

こちらに向かって来る。


走れ!私たちのヒーロー。

彼女の名前はレベッカ、善の味方だ。

最高の走行スピードが自慢さ。

Wow!信じられないほど素早い子だ。


誰かが助けを求めてる。

それを聞き駆けつける。

人のために行使する

正しき力。


走れ!私たちのヒーロー。

彼女の名前はレベッカ、世界一の善人さ。

腕力と脚力を併せ持っている。

痺れるほど強いさ。


巨悪が現れたとき

彼女が駆けつける。

頸飾にぶら下がる

煌めく宝石


走れ!私たちのヒーロー。

彼女の名前はレベッカ、伝説になる者。

聖なる光を解き放せ。

胸から光り輝く彼女の心。


走れ!私たちのヒーロー。

彼女の名前はレベッカ、地球の守護者。

この世界の為に護ってくれる

伝説の勇者。


「(カルウ:)師匠...最高よ...!!」

「(雅史:)...最高の演奏だよ、姐さん...!!」


 「雅史」と「カルウ」が絶賛するくらい「ハンナ」の軽音楽部ライブは大成功を収めた。


 その後、吹奏楽部の演奏を25分間聞き流して、文化祭のフィナーレを迎えたのち、都立高等学校文化祭のすべてのプログラムを終了。閉会後...。


「(雅史:)いやー楽しかったよ。特に姐さんの演劇と手料理、バンド演奏。」

「(カルウ:)師匠の演奏、最高によかったよ。」

「(ミュゼット:)よかったなカルウ。ハンナ姐さんの生演奏が聞けて、為になったね。『K-ON』のベース担当としてこの体験を胸にして精進しなされよ。」

「(カルウ:)あ、もちろんとも精進するよ。私とサトミ以外の『K-ON』のメンバーは遠い場所にいて、なかなか揃わなくってよ。てへぺろ。」

「(清子:)まーた『てへぺろ』使ってきましたわ。そうやって持ちギャグを披露して流行るのかしら?」

「(和子:)そのうち流行るでしょうよ。委員長さんは今、文化祭の片付けで忙しいから私たちだけで帰りましょうよ。」

「(ラファエル:)色々振り回されてひどい目にあったが、それはそれで十分楽しめた。小腹がすいた、雅史の行きつけの拉麺軒ラミアンテイでラーメンを食べに行こうではないか。君らよ、俺に続け!!今日は俺のおごりだ!!」

「(シモン:)姉さんのボルシチ食べて、他のクラスの焼きそば食べて、その次はラーメン!?さすがに食べきれないよ。」

「(ラファエル:)せめて餃子だけ食べときなさい、少年よ。」

「(雅史:)相変わらず小食だねシモン。今日も大将代理いるかな?見てみよう。」


 文化祭を終えたみんなは、夕飯を食べるべく「雅史」の行きつけの拉麺軒ラミアンテイへと向かった...のだが......。


「(雅史:)やっほー、食べに来たよ...?」


 店内に「七面緋音」の姿がなかった。いるのは店を畳む大将だけ。


「(大将:)シチメンならもう来ない。先日、しばらくの間休むって彼女からの申し出が出てさ。俺一人では営業できんから臨時休業に入るしか何もできん。」

「(ラファエル:)...んだと!?」

「(清子:)あの赤毛さんの身に何があったというのでしょうか...。」

「(ラファエル:)君らは帰っていい。風紀委員もだ。」

「(清子:)お言葉ですがあの赤毛さんの事を知りたいのでここに留まらせますわ。」

「(ミュゼット:)じゃあ私も。カルウ達は帰ってもいいよ。」

「(カルウ:)あ、うん。」


 「ラファエル」「清子」「ミュゼット」3人は「シチメン」を知るためにこの店に留まる。


「(ラファエル:)あの赤毛の...コンブリオの知人の、あの姉ことシチメンの身に何があったのか聞かせてほしい。」

「(大将:)彼女の事情なぞ、俺は何も知らん。ただ、一人暮らしの彼女は生活費を稼ぐために働くとしか...。」

「(ラファエル:)...シチメンのやつ、叩き直すとはいえコンブリオの元に来るなり帰国するなり、何らかの理由で音信不通になり、パートで生計を立てるなり、忙しいな。」

「(ミュゼット:)アネさん...いったい何があったの...。」

「(清子:)おそらく雅史さんの旧友と同じようなものでしょうか?ラファエルさんの言う、ネット上に蔓延る悪意や絶望によって堕ちたとか?」

「(ラファエル:)シチメンに限って、それはありえんだろう。視点を変えるくらいできんのか風紀委員よ。例えばシチメンの今の友人...とかだ。」

「(清子:)あの赤毛さんの友人とはどんな人なのか、ぜんっぜん知らないですわ。」

「(大将:)...そうだ。彼女の友人が2人いたな。前者が筋骨隆々の大女で後者がウェーブがかった黒髪の赤目女。」

「(清子:)...誰ですの?こんなところで立ち話しても仕方がありませんの。わたくしはこれでおいとまさせていただきます。」

「(ミュゼット:)同感。立ち話をしても疲れるだけだし、私も出る。」

「(ラファエル:)俺1人で十分だ。進展があり次第、改めて君らに伝えておく。さ、帰った帰った。」


 拉麺軒ラミアンテイを後にする「清子」と「ミュゼット」。ここに留まった「ラファエル」はそのまま「シチメン」の友人の話を続けて聞くことになった。近頃「雅史」達の周囲に不穏な動き...この先いつかやってくる不穏や試練、そして避けられない運命が待ち受けていることを、その時の「雅史」達はまだ知らない。

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