序章 学園の始まり(2)

 【昇降口(樋串武学園昇降口)】

 校内に「鍋小路マチ」が「生徒会長」と対峙していた。


「(マチ:)ここで会ったが百年目。生徒会長、覚悟!!」

「(ヤミ:)マチ、この学園の実効支配者は俺であることを、まだわからんのか。」

「(マチ:)...校庭に邪魔がいるみたいだ。」

「(ヤミ:)噂のキャプテン一味のことか?邪魔が入らぬよう、我々生徒会が封鎖しよう。」

「(マチ:)こっちこそ、帰宅部の総力をもってキャプテンとやらの一味と貴様ら生徒会を封じてやる。」

 校庭に「帰宅部」や「生徒会」の大群が展開される。

「(雅史:)わぁ!!帰宅部と生徒会が湧いてきた!!...どうしよう。」

「(エドガー:)生徒会長...。それは大変ですね。昇降口から湧いてきた生徒会相手には私とラファエルさんにお任せください。いきましょう、私の友ラファエルさん。」


 「エドガー」と「ラファエル」が生徒会の皆を説得すべく向かっていく。「サッカー部」と「風紀委員」は...。


「(雅史:)これからどうするの?風紀委員さん。」

「(清子:)...とりあえず、帰宅部の鎮圧を。」

「(ミュゼット:)部外者の私たちも手伝う。目的は帰宅部とやらの鎮圧でいいよな?」

「(清子:)今の騒ぎで校庭しか移動できません。昇降口から湧いて出てくる帰宅部を無力化なさい。」

「(雅史:)健太なら昇降口を塞げる...んふふ、そんな簡単な発想は朝飯前だね。お願いできるかな?」

「(健太:)僕に任せてどすこい。」

「(雅史:)頼んだおすもうさん。どすこいどすこい、ごっつぁんです。」

「(清子:)相撲が好きだかなんだか...。サッカー好きなのでは?」

「(杏璃:)雅史くんはこう見えて、サッカーだけじゃなく相撲が好きなんです。」

「(雅史:)どすこーい!!ゴッドハンド!!ごっつぁんです!!」


 「雅史」の意外な趣味に呆れる「清子」であった。そうと決まれば昇降口封鎖作戦を実行すべく動き出す。その考えは甘かったようだ...。


「(健太:)塞ぎようも塞げないよ!!」

「(清子:)そう簡単にうまくいきませんの。簡単なだけに。まずは目前の通せん坊を押さえてください。」

「(雅史:)ってか、なぜかお嬢さん口調じゃなくなってるし...。よし、押さえよう。MFミッドフィルダーの僕がGKゴールキーパーとはいかに?」


 「雅史」はGKゴールキーパーモードに切り替え、鎮圧に向う。お相撲さんのごとく取り押さえていく。


「(雅史:)どすこい、ごっつぁんです。よーし、取り押さえたよ。これからどうするの風紀委員さん。」

「(清子:)わたくしは、おふたりさんとともに鍋小路さんを止めます。部外者おふたりさんはキャプテンさんの助けになってください。」

「(ミュゼット:)わかった、雅史のサポートは私とハンナということでいいよな?見学したかったけど。」

「(ハンナ:)雅史くんを守るのが保護者の務め。鍋小路とやらの帰宅部ヘッドは風紀委員に任せ、ミュゼットと私は雅史の助けになろう。」


 「雅史チーム」は昇降口の守備、「清子チーム」は鍋小路の阻止を担う。二手に分かれ行動を開始した。


 【Phase-2】

 帰宅部一人も外に出さないよう昇降口を塞ぐ「雅史」は、「ハンナ」や「ミュゼット」のおかげで順調だ。風紀委員「清子」は「杏璃」や「健太」とともにグラウンドフロア・放送室を目指していた。


「(清子:)帰宅部の拠点といえば放送室、たやすいですわ。」


 放送室に伏兵が複数人、その中に「鍋小路」の姿がない、「鍋小路」の罠だった。


「(清子:)わたくしとしたことが...。」

「(杏璃:)生徒会長との因縁があるとしたら、鍋小路さんは生徒会室にいるはずです。フロア4の階段をのぼりましょう。」

「(清子:)健太さん、一人も放送室の外に出さないようにしてくださる?」

「(健太:)どすこい、お任せあれ。」

「(清子:)あとは任せましたわ。さぁ、いきますわ。」


 清子と杏璃は生徒会室に向かうべく階段を上っていく。昇降口のほかに、もう一つの出入口がある。生徒が職員玄関から出てくる可能性はない。


「(エドガー:)職員玄関は職員だけ利用できるものです。生徒では利用できませんので悪しからず。」

「(雅史:)当たり前でしょ。職員室と直結してるんで、容易に立ち入りできないもん。」


 そのことは全生徒が理解している。どんな理由でも、職員室経由で出入りできない。「清子」と「杏璃」はそのまま生徒会室へと向かった。生徒会室には鍋小路の不良グレたちが立っていた。


「(清子:)学校の許可もなく、こんな場所で立っていられますわ。ッたく、それだから他校の不良グレの皆さんは。」


 その中に「ハイペリオン」というインキュバスが紛れ込んでいた。


「(ハイペリオン:)おっと勘違いしないでくれるかな。風紀委員よ。」

「(清子:)呆れましたわ、帰宅部の一人が他校の不良を率いているなんて...。これも鍋小路さんの指示ですの?」

「(ハイペリオン:)俺は御主人様に忠実だ。それだけは譲れない。」

「(清子:)...話になりませんわ。杏璃さん、封鎖してくださる?」

「(ダイアナ:)待て。ここはあたしがやる。」


 清子たちのうしろに現れたのは、ラファエルの妹「ダイアナ」であった。


「(清子:)あなたがたは確か、生徒会のダイアナさんですの?なら話が早い、あとは任せましたわ。」


 「清子」たちは生徒会室をあとにした。


「(ダイアナ:)ハイペリオン、ラファ兄の命令でしょ。」

「(ハイペリオン:)ええ、御主人様のだよ。ただの帰宅部にすぎない俺が生徒会のポチだなんて鍋小路は思っちゃいないよなぁ。さて、まとめて拘束しよっか。」


 「鍋小路」が生徒会室にはいない。心当たりのある場所といえば...。


「(清子:)屋上ですの。鍵が開いてることがなによりの証拠ですわ。」


 屋上に到着した「清子」たち。目に映る光景とは...。異能を繰り出し戦っているリーダー同士、驚きを隠すもなにもこの学園では当たり前のことであると実感する「清子」であった。


「(清子:)おふたりさん、もうこれくらいにしてください。...おとなげない。」

「(マチ:)...風紀委員か。それに噂のサッカー部のスタッフ。」

「(杏璃:)何があったかは知りませんが、喧嘩はよくないです。生徒会長とはどんな関係ですか?」

「(マチ:)...昔馴染みかつ腐れ縁だ。己に驕り、エコノミーの俺達に威張る、尊大かつ傲慢なヤツだよ。」

「(ヤミ:)それだけの理由で、俺達生徒会に喧嘩をふっかけてきおった。風紀委員の清子よ、わかるか?」

「(清子:)...ったくもう、あきれました。鍋小路さんがそこまでの男とはいかにです?わたくしも手伝います生徒会長。」

「(ヤミ:)これは俺の問題だ。手出しは無用。」

「(杏璃:)それにしても、超能力みたいなの何です?」

「(ヤミ:)気づかないのか?俺達学園の生徒が異能者であること、そして異能青少年が集まる学園であることに。」

「(清子:)杏璃さん、式で聞いてなかったのですか?ラザール夢ノ橋学園長の口からそう言ったのですの。」

「(杏璃:)...ああ、そういうことでしたか。雅史くんの能力は『イマジナリームーブ』といって、繰り出した技がアニメやゲームの必殺技のように具現化するのです。あたしは大した能力を持たない帰宅部級クラスエコノミーなので...。鍋小路さんの場合は大した富を持たない一般生徒、ですが雅史くんは普通の生徒だけどこう見えて一戸建てを持つほど裕福ですよ。彼を除くあたしたちエコノミーは集合住宅アパートメントで暮らしている、といって格差をつけるのはよくな」

「(マチ:)それだからよ!!裕福かつ贅沢な生徒会はズルいんだ!!」

「(清子:)...鍋小路さんの個人的な事情についていけませんわ。[受信メール確認]...昇降口は超官に任せ、キャプテンさんが駆けつけてくれるそうです。覚悟なさい。」


 光の速さで「雅史」が屋上まで駆けつけてきた。


「(雅史:)超官とラファエル先輩が説得してくれたみたいでね、今頃ガッチガチ陣を固めてるよ。」

「(ヤミ:)...だそうだ。マチよ、観念するんだな。」

「(マチ:)...くっ!!帰宅部の下部の分際で...!!」

「(雅史:)やっぱ固める必要なさそうだし、来るよ???マッスル超官がwwwwww」


 既に押さえつけており、まもなく「エドガー」がここに来る。お、噂をすれば...。


「(エドガー:)私が来たからには、大喧嘩はここまでです。」


 立て続けて「健太」「ラファエル」「ダイアナ」「ハイペリオン」が登場する。


「(ラファエル:)このラファエルが来たからには、貴様の好きにはさせんぞ!!」

「(ダイアナ:)ラファ兄はこう見えて実力派なんで、覚悟しとけよ。」

「(ハイペリオン:)お前なんか御主人様じゃなくってよ。俺にとっての御主人様はアトラス家なんだよ。ざまぁwww」


 みるみる追い討ちを受ける「鍋小路マチ」、決着がついたも同然。これ以上の騒ぎにならぬためか「ラザール学園長」がこの屋上に現れた。


「(ラザール:)ここを見物できて、先生面白かったよ。」

「(清子:)学園長!?いつから見てきたのです?」

「(ラザール:)学園の隅から隅へとね。これ以上の騒ぎになると困るんで先生出てきちゃった。今回の騒動を憂慮すべきかな、鍋小路くん?超官、超官の能力を使うときだね。」

「(清子:)超官の能力ってまさか...?」

「(ラファエル:)北極星服従ポーラスターオベイ、自身より格下の相手には有効で、無条件で服従させる超強力な能力だ。」

「(清子:)そんな恐ろしい能力より、学園長の能力を使えばいいのでは?」

「(ラザール:)先生の能力はね、黄色いイタチに湯を注いで5分待ちきれても、簡単に猛り狂うたけりくるう生徒を沈黙させると思う?いくら先生の力でも押さえきれないこともあるのよ。」

「(雅史:)異議あり!!やっぱ超官のが怖いし、僕と風紀委員さんに任せて。なーにー、心配いらないよ。僕の『イマジナリームーブ』で事足りるし、それにしても風紀委員さんの能力はなんだろうね...。みんなも気になる?」

「(エドガー:)...ここはキャプテンと風紀委員に任せましょう。私達は二人の健闘を見守るとしましょう。」


 決着は「雅史」と「清子」に任せ、二人の健闘を見守る一同であった。「マチ」はひよっこ二人を相手にどう対処するのか。


「(マチ:)いいか二人とも、いちばん大事なのは平等と公平だ。生徒会長のしていることは、権力の濫用だ。その力を使い、俺達エコノミーを脅かそうとしているんだ。キャプテンよ、考え直せ。風紀委員よ、汚職まがいの道を踏み外すな。」

「(雅史:)トラブルなく平和でいるなら僕は構わないけどね。」

「(清子:)鍋小路さんこそ、他校の不良グレを連れて、しかもこの学園に入れた時点でアウトですの。なぁに、心配には及びませんの。あなたがたのその独りよがりの思想、叩き直してあげますわ。」


 「清子」の能力「Psychicサイキック-Toolsツールズ」は、超能力由来の攻撃魔法、補助魔法が扱える万能ツールだ。念力(デフォルト)、炎、雷、氷、シールド、エトセトラ。拘束にも使えそうだ。


「(清子:)キャプテンさん、わたくしの動きに合わせて鍋工事さんを拘束するのです。」

「(雅史:)要するに『シンクロ技』だね。よし、いくか。」


 「雅史」の「イマジナリームーブ」、「清子」の「Psychic-Tools」のシンクロ技「フリーズハンド」が、「鍋小路マチ」の拘束を試みた。彼の能力「ライトニング」は生徒会長の能力「影を制する者/Shadow Master」を相殺するためのものであるためか、シンクロ技を防ぐ術はなく固まった。


「(雅史:)ごっつぁんです。」

「(清子:)鍋小路さんの能力を見て判断した、当然の結果ですの。」

「(ラザール:)まぁさか鍋小路くんを氷漬けにするとは、よく判断したものだね風紀委員さん。先生、感激したよ。」

「(清子:)それはどうも...。」

「(ラザール:)さて、鍋小路くん。馬鹿な真似はもうしないって誓えば、今回の件は水に流してあげよう。」

「(マチ:)[氷の中]モウシナイ。ウウ、コゴエル。」

「(ラザール:)あっさり反省を示したようだし、解凍してもいいじゃない?」

「(清子:)...今日の天気は曇ですが気温は25.5度なので、数時間立たずに溶け出しますの。そのまま放っておきましょう。」

「(雅史:)そういえばそうかも...ぅぁ、あぢぃ!!」


 16時30分、「鍋小路マチ」騒動は収束した。サッカー部と風紀委員の活躍による練りに練った彼の計画は玉砕した。30分後、蒸し暑い中で彼は解凍された。皆に放置され氷の中に閉じ込められどう感じたのか、「計画を実行した結果が、それほどの災いが降りかかるとは思わなかった。これはもう人様に迷惑をかけた自分に非がある。」として深く反省していた。


 この学園の部外者二人「ミュゼット」と「ハンナ」は校門前で待っていた。昇降口から出てきた「雅史」と「清子」は二人に「今日は遅いから解散。」と告げ、一日の終わりを迎えた。今は夏休みの最中なので当分の間、この学園は休校となる。次の日、そのまた次の日も、どんな夏休みになるのだろうか?

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