Polariss

レオ≒チェイスター

Polariss

ミザル:ミザル・メチウス。過去に恋人をなくしたジャンク屋。かつて恋人の使っていたマシンのパーツを集めている。


ポラリス:ポラリス。ミザルの恋人のマシンに搭載されていたAI。彼女のレースの記録をすべて持っている。


実況:兼ね役。CM、店員も兼ねる。ギャラワンの実況。フルネームはチャールズ・ハッブル。別名グレートファシリテイター。


解説:兼ね役。フルネームはコンプトン・スピッツァー・チャンドラ。ギャラワンの解説。




:ーー本編ーー



実況:CM「さあ今年もこの時がやってきた!オルタナ銀河系全土から集ったチェイスターたちが惑星全土を駆け巡り、最速の星を求めて競い合う最高のレース!その名も『ギャラクティックスター・ワン』!その開催地の発表だ!今年の開催地はあのーー」


ミザル:雨の中でも大音量で響き渡るCMから逃げるように店内に入る。このジャンク屋通りの店で探してないのはここだけだ。


実況:店員「いらっしゃい、なにかお探しで?」


ミザル:僕は店員の声も無視して、店の奥に並べられた旧型の制御用AIを漁る。


ミザル:「……!」


ミザル:並んだスチール棚の奥の方、台座に載せられた水晶玉のような機械に手を触れる。


ミザル:「02h30m36076……」


ミザル:もうメモを見なくても記憶したほどに何度も確認したシリアルナンバー。二度、三度なぞって確かめて、ぞわりと身震いする。


ミザル:「やっと……見つけた。手に入れたぞ……!」


実況:店員「お客さん、商品は大事に扱ってくれよ。そんなに力入れて握っちゃ壊れちまう」


ミザル:「こいつを買う、いくらだ」


実況:店員「ん?なんだい随分古いのを買ってくねえ。そいつなら発展型が3世代は出てるよ。今流行のはーー」


ミザル:「必要ない」


実況:店員「そんなこと言わずにさ、これなんて」


ミザル:「必要ないって言ってるだろ」


実況:店員「そうかい、まあいいけどさ。えーとそいつは……200セルカだな」


ミザル:安酒程度の値段をつけられている苛立ちを隠しながら、機械を抱えて店を出る。こいつに怒りをぶつけるのは、今ではないんだ。


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0:ミザルの家。オンボロなガレージに併設された一室。


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ミザル:「これで、よし……」


ミザル:ヴン、という音と共に、水晶玉のような部品全体が淡い水色の光を灯す。


ポラリス:「ハロー、ユーザー。ワタシのシリアルナンバーは02h30m36076。再起動は5年と125日ぶりです」


ミザル:無機質な音声が台座のスピーカーから出力されて耳に届く。懐かしい、聞き慣れた声が。


ポラリス:「現在ユーザー登録が未完了です。アナタを新規ユーザーとして登録を開始しますか?」


ミザル:「ノー。既存ユーザーデータの復元を選択」


ポラリス:「了解。既存ユーザーデータを検索開始します」


ミザル:呼吸が浅くなる。僕が探していたのはこいつの中の記録だ。もしそれが失われていたとしたら、僕がこいつを見つけ出した意味はない。カリカリと小さな機械音だけが部屋に響く。


ポラリス:「ユーザーデータ検索結果、138件」


ミザル:「っ!よし、詳細検索。AIネーム、ポラリス」


ポラリス:「検索結果、82件です」


ミザル:「……やっぱ使うよな」


ポラリス:「検索結果から復元データを選択しますか?」


ミザル:「ノー。詳細検索に条件追加。ユーザーネーム……(言おうとして黙り込む)」


ポラリス:「条件追加するユーザーネームを教えて下さい」


ミザル:「(深呼吸)……アルカイド・ハッチンス」


ポラリス:「検索結果、1件です。復元しますか?」


ミザル:「……イエスだ」


ミザル:ずきりと、胸と頭が痛みを訴える。AIがまたカリカリと音を立てて、記録を読み込み再起動を開始する。灯った水色の光が消えてしばらくの後、なんの飾り気もない白い光を再び灯す。


ポラリス:「……再起動を終了」


ミザル:「……僕がわかるか」


ポラリス:「登録ユーザー、ミザル・メチウス。私の担当整備士。再会したのは8年と36日ぶりだ。これは、ひさしぶり、というべきだろう」


ミザル:「ああ……ひさしぶりだな。『ポラリス』」


ポラリス:「ミザル、私は休眠期間が長い。接続機器も少なく現状を把握できないため状況を確認したい。ここはどこだ」


ミザル:「……惑星アシュレンテッドの僕の家だ」


ポラリス:「72番惑星か。では彼女はどこに」


ミザル:「……彼女って?」


ポラリス:「私の相棒だ」


ミザル:「相棒……ね。お前のユーザー登録にそんな枠はないだろう」


ポラリス:「……私のマスターユーザーである彼女は、どこにいる」


ミザル:「お前が……それを聞くのか」


ポラリス:「質問の意味がわからない。ミザル。彼女は、アルカイド・ハッチンスはどこにーー」


ミザル:「死んだよ!おまえが、殺した!」


ポラリス:「…………記録が照合できない。私が彼女を殺した、とは、どういう意味だ」


ミザル:「覚えてないのか……!?お前が彼女とした最後のレースを……!」


ポラリス:「最後の、レース……」


ミザル:「忘れたなら教えてやる、彼女がなんで死んだのか……!」


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ミザル:AI搭載型レースマシン「アイマシン」で行われる大規模レース、ギャラクティックスター・ワン。彼女、アルカイド・ハッチンスはアイマシンの操縦士、チェイスターだった。世界でも指折りのチェイスターと謳われた彼女が死んだのは、8年前のレース中。最終直線手前、渓谷沿いのヘアピンカーブで彼女の乗ったアイマシンはありえないタイミングで加速を行い、谷底に落下した。車体は大破。彼女も、即死だった。


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ポラリス:「……記録を照合した。あのレースか」


ミザル:「ああ、当時はあらゆるメディアが彼女の事故を取り上げた。惑星アルファベガの悲劇、幻のレコードホルダー、世紀の大損失……。世間は事故だと、彼女の操作か判断ミスだと決めつけたが、僕は信じない。そんなはずはないんだ。だからーー」


ポラリス:「ーーだから探し出したのか、私を」


ミザル:「そうだ。ギャラクティックスター・ワンはレース中に落ちた部品類は質を問わずにジャンク屋が回収していいことになってる。彼女のマシンの残骸となればビスの一本だって値段がつくからな。必ず市場に出回ると思った」


ポラリス:「オルタナ銀河中にネットワークを広げているジャンク屋の市場から探し出したのか。確率の低い賭けに出たものだ」


ミザル:「だが探し当てた。メモリ回路も生きていた。これ以上ない結果だ」


ポラリス:「違いない。過程はどうあれ結果は良好だ」


ミザル:「……機械のお前が過程を気にするのか」


ポラリス:「おかしなことか。過程こそ人間の重視する部分だ。であるなら私はそれを理解し判断の素材にしなければならない」


ミザル:「その結果が……その結果があれなのか!」


ポラリス:「あれ、とは。彼女の事故のことか」


ミザル:「事故!?ふざけるな!事故なもんか!お前は、わかってたんだろう!?あのポイントで加速を行えば曲がりきれずにクラッシュする!それをわかった上で、お前はやったんだ!違うか!?」


ポラリス:「……その通りだ」


ミザル:「ッ……!」


ポラリス:「君の言うとおりだ。私はアルファベガのレースにおいて、確実にクラッシュすると理解した上でブースト使用による加速を行った」


ミザル:「ならやっぱり!お前が彼女を、ルカをーー!」


ポラリス:「だが。それは彼女も理解していた」


ミザル:「え……?」


ポラリス:「彼女はアルファベガの過去のレースを研究していた。ルートを把握し、ポイントを暗記し、万全の体制でレースに挑んでいた。それは君も知っているだろう」


ミザル:「それ、は……」


ミザル:その通りだった。僕はアルカイド・ハッチンスが……ルカがどれほどの準備を重ねてあのレースに挑んだのか知っている。あのレースがルカにとって特別なレースであったことも。


ポラリス:「彼女も、あの加速がクラッシュへ直結すると十分理解していた。だがその上で、私にブーストの使用を指示した」


ミザル:「そんな……けど!それならお前が止めればいいことだった!お前が実行しなければ!ルカは!」


ポラリス:「その通りだ。私がブースト使用を拒否すれば、あのクラッシュは起こらず、彼女は優勝を飾っていた。そして今も、生きていただろう。君の言う通り、私が彼女を殺した」


ミザル:「ッ!」


ミザル:思わず、拳を振り上げる。力いっぱい握った右手を、思い切り振り下ろして。


ミザル:拳は何にぶつかることもなく、止まった。


ポラリス:「……ミザル。私を破壊しないのか」


ミザル:「……したいよ。憎くてたまらない。お前が彼女を殺したのは、やっぱり事実だ」


ポラリス:「では、なぜそうしない」


ミザル:「……お前は、彼女が加速を指示したって言った。その理由が知りたい。そして、お前がなんでそれに従ったのかも」


ポラリス:「知ってどうする」


ミザル:「知るもんか。ただ、知らないままじゃ心が晴れない」


ポラリス:「そうか。了解した。私がなぜ従ったのかを教えるのは簡単だ。だが、彼女がなぜあの走りを行ったのかを説明するのは、難しい」


ミザル:「なんでだ」


ポラリス:「君がチェイスターではないからだ」


ミザル:「……どういうことだ。役職が関係あるのか」


ポラリス:「違う。私の言うチェイスターとは、アイマシン操縦士を指すものではなく、チェイスターの語源本来のものだ」


ミザル:「……星を追うもの。夢追い人ってことか」


ポラリス:「そうだ。チェイスターとは本来、夢という目標を持ちそれを追うものを指す言葉だ。現在のチェイスターはギャラクティックスター・ワン最速の称号、ファーストスターを目指す者、つまりアイマシン操縦士を指す言葉へと変遷しているが」


ミザル:「つまりお前は、僕が夢追い人じゃない、夢を持っていないから彼女のことはわからないって?」


ポラリス:「その通りだ」


ミザル:「なんだ、それ……ああ、いや、そうか……お前は、壊れてるのか」


ポラリス:「現在の私に破損箇所は確認できない」


ミザル:「お前の自覚がないだけだ。ダメージチェックの機能自体もイカれてるのかもな。ああ、そうならあのレースのことだって納得だ……」


ポラリス:「ミザル。私は壊れているわけではない。ただ、理解しただけだ」


ミザル:「なにを理解したっていうんだ」


ポラリス:「夢だ」


ミザル:「なんだって……?」


ポラリス:「夢だ、ミザル。ここでいう夢とは睡眠時にみられる脳の活動ではなくーー」


ミザル:「わかってるそんなこと!機械のお前が、夢を理解したって?」


ポラリス:「その通りだミザル。私は彼女と、アルカイド・ハッチンスと過ごしたことで、夢を理解した。正確には、夢を追うということを理解したのだ」


ミザル:「夢を、追う……」


ポラリス:「そうだ。彼女は夢を追い続け、私はその時間を共にした。その情熱を理解し、共に夢を見て、夢を追った。だからこそ、彼女の意思を理解できた」


ミザル:「……意味がわからない。情熱?夢を見る?機械のお前に、そんな機能はない」


ポラリス:「その通りだ。私に搭載された機能だけではそこに至ることはない。だが、人間とともに過ごし、経験を蓄積する中で人間の意思を理解することは可能だ。人間が経験によって成長するように」


ミザル:「……ありえない。お前は勘違いしてるだけだ。彼女の夢を、目標を、自分の果たすべきタスクとして捉えたに過ぎない」


ポラリス:「違う。そうであったのなら私は、あの加速を行わなかった。人間の生命維持は何においても優先される」


ミザル:「じゃあなぜやった!」


ポラリス:「やらなければ、彼女は死ぬからだ」


ミザル:「は……?」


ポラリス:「死んでしまうからだ、ミザル。彼女も、そして私も。あらゆる手を尽くし、ベストの走りをもってなお、彼女の夢には、惑星アルファベガのレコードには届かなかった。あの加速を行わずに最終直線に入れば、最終タイムはレコードより0・2秒以上遅れていただろう」


ミザル:「……」


ポラリス:「だから彼女はあのタイミングでブーストの使用を指示した。たとえカーブをクリアできない可能性が高かったとしても、そこに試せる手段があった。だからーー」


ミザル:「けど結局失敗した!そんな結果はわかってた!なのになんで!」


ポラリス:「それが、夢を追うということだからだ、ミザル」


ミザル:「なに……?」


ポラリス:「たとえ失敗に終わったとしても。その可能性が高くとも。試していない手段があり、挑む手立てがあるのなら、試すしかないのだ。なぜなら、すべての可能性を試さず諦めることは、夢を追うのを諦めることと、チェイスターでなくなることと同義だからだ」


ミザル:「ふざけるな、ふざけるなよ!それで死んでたら!なんにもならないだろう!」


ポラリス:「だが挑まなければ、夢を諦めれば、人の心は死んでしまう。彼女がどれほどのものを賭けて夢を追っていたのか、君ならわかるはずだ、ミザル」


ミザル:「ッーー!」


ミザル:返せる言葉はなかった。聞き入れられる言葉も。ポラリスに背を向けて部屋を飛び出す。日が落ちきった屋外に降りしきる雨の音が、僕の頭に響くポラリスの言葉をかき消してくれることは、なかった。


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ミザル:ルカと僕は幼馴染だった。同じ辺境の星で生まれて、大して見るものもないその星で僕たちは退屈で平穏な日々を送っていた。僕らの故郷が、ギャラクティックスター・ワン……ギャラワンの開催地になるまでは。


ミザル:ギャラワンは毎年、オルタナ銀河系の惑星をランダムに選出し開催地を決める。開催地になった星全体を使って一年がかりでコースを新設し、開催後もコースは残り観光地になる。ギャラワン開催地になるということは、星全体に大きな利益が生まれることが約束されたということだった。大人たちがギャラワン開催に沸く中、当時15歳だった僕はなんとなく冷めた目でその様子を見ていたのを覚えてる。


ミザル:けど、ルカは違った。彼女はよく言えば純粋で、悪く言えば子どもっぽくて、大人たちの熱狂を、「皆ギャラワンが大好きだから」なんて勘違いしていた。何度も説明したけれど、ルカが考えを曲げることはなかった。そうしてそのまま大人になって、まっすぐまっすぐ、走り続けた。


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0:翌朝、ミザルが家に戻ってくる。


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ポラリス:(ドアの開く音に反応して)


ポラリス:「ミザル。9時間と36分ぶりだな」


ミザル:「……ああ」


ポラリス:「一晩帰ってこなかったが、睡眠はとっただろうか。睡眠はとても重要だ」


ミザル:「寝られるか……お前は変わらないな」


ポラリス:「不変であるのは機械の優位性のひとつだからな」


ミザル:「……昨日は成長したとかいってたくせに」


ポラリス:「変わっていないと言ったのは君だ。そういう君こそ、変わらないな」


ミザル:「僕が?」


ポラリス:「そうだ。君はいつも睡眠不足だったし、すぐ他人に噛み付いていた」


ミザル:「そんなことないだろう、僕はちゃんと相手の言い分を聞いてからーー」


ポラリス:「現に今噛み付いている」


ミザル:「お前が変なことを言うからだ。それに……」


ポラリス:「それに?」


ミザル:「…………ルカほどじゃない」


ポラリス:「……そうだな」


ミザル:「……」


ポラリス:「…………本当に、彼女は、死んでしまったのだな」


ミザル:「お前が言うのか……」


ポラリス:「私は、彼女の姿を確認するより先に、機能停止してしまった。だから、彼女の最後を見ていない」


ミザル:「……僕だって見てないよ。見てないっていうか……見られなかった」


ポラリス:「見られなかった?」


ミザル:「見たくなかったんだ。車体が半分に折れてたんだ、押しつぶされて即死なのは、すぐわかった」


ポラリス:「……すまない。無神経な質問だった」


ミザル:「神経なんかないだろ、お前にはさ」


ポラリス:「……すまない。その冗談の面白さは私には理解できない」


ミザル:「冗談だって判断できただけ上等だよ」


ポラリス:「……すまない」


ミザル:「……謝ってばっかりだな」


0:数秒の沈黙。


ポラリス:「……ミザル。私をどうするのかは、決めたのか」


ミザル:「そう……だな。とりあえず、まだ終えてない作業がある。それを終えてから考える」


ポラリス:「作業、とは?」


ミザル:「そのままの意味だ。僕はメカニックだからな、中途半端で終わらせるのは嫌なんだ。一度電源落とすぞ」


ポラリス:「ミザル、この場合においての質問の意図は作業という単語の意味が理解できない、という意味ではなく、その作業が指す内容を教えてほしいという(意味で)」


ミザル:「(遮って)あーあー、終わったらわかる」


ポラリス:「待てミザル、話は(電源が落ちる)」


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ミザル:「……接続終わり、と」


ポラリス:「……再起動確認。ミザル、ここはどこだ」


ミザル:「ん、電源入ったな。僕の部屋の隣のガレージだ。いや正確にはガレージの隣に部屋を併設したんだけど……」


ポラリス:「私への接続機器が変更されている。機能確認を開始」


ミザル:「そうしてくれ。お前のメモリーが壊れてないならすぐ終わるだろう」


ポラリス:「……接続機器、確認終了。登録情報と98%一致。ミザル、これは」


ミザル:「ここまでやってようやく作業終了、だろ」


ポラリス:「復元、していたのか。私の車体を」


ミザル:「車体まで揃ってはじめて『ポラリス』だからな。確認できないだろうけど外装の塗装とかもちゃんと当時の赤だ。あと、お前だけのじゃない、僕たちの車体だ」


ポラリス:「……ふははは」(極めて無機質に)


ミザル:「な、なんだ?バグでも起きたか?」


ポラリス:「人間ならば、笑うところだろうと思い模倣してみたのだが」


ミザル:「笑い声にはとても聞こえなかったぞ……」


ポラリス:「そうか、笑うとは難しいな。ところで、ミザル」


ミザル:「ん?」


ポラリス:「作業は完了したのだろう。私をどうするのか、決めたのか」


ミザル:「……まだ決めてない。お前を壊してももう、気は晴れないし。かと言って全部許すことなんてできない。……けど、こうして話すとやっぱり、お前は十年来の付き合いのポラリスなんだ。憎み切ることも、できない」


ポラリス:「……そうか。では、ミザル。君に提案がある」


ミザル:「提案?」


ポラリス:「そうだ、ミザル。チェイスターにならないか」


ミザル:「チェイスター、に……?」


ポラリス:「そうだ。君は私と彼女の判断を、今も理解し納得することはできないだろう。君が、チェイスターでない以上は」


ミザル:「……たしかに理解はできない、けど」


ポラリス:「であるなら、理解と納得を得るために、君は走ってみるべきだ。彼女と同じものを見て、感じられたのなら、わかるかもしれない。私の感じたものが」


ミザル:「……無茶言うなよ。僕はメカニックだ。ルカみたいな操縦技術もセンスもない。第一、体がついてかないだろう」


ポラリス:「問題ない。人間の体は鍛えられる」


ミザル:「解決になってない……それに、僕は、ルカじゃない。レコードを追うことにも勝つことにも、興味なんてない」


ポラリス:「それは、嘘だ」


ミザル:「なんでそう思う」


ポラリス:「君は私のメカニックだ。彼女とともに行ったレースは、必ず君も共にいた。私の整備や改良、彼女のレース上の戦略も君が考えたものだ。そこに熱意がなかったとは、考えられない」


ミザル:「……ああ、お前にはわからないだろうな。僕が必死だった理由なんて」


ポラリス:「ミザル……?」


ミザル:「僕は、レコードを書き換えるのに必死だったんじゃない。僕はただ、夢を追う彼女に。夢に近づく彼女に、置いていかれないように必死だっただけさ……」


ポラリス:「置いていかれない、ように……」


ミザル:「……ルカがチェイスターになるって言った時、周りが反対する中で僕だけは彼女の手伝いをした。お前を組み立て、レースの情報を調べ、彼女をチェイスターとして登録するところまで、おおよそレース以外のことは全部やった」


ポラリス:「その時から君は、ずっと彼女の夢を応援していた……」


ミザル:「わけじゃない。むしろ、途中で諦めてくれることすら願ってた」


ポラリス:「どういうことだ?」


ミザル:「いわゆるポイント稼ぎ、さ。ルカがチェイスターなんて大それた夢を追うなんて思ってなかったし、途中で挫折するだろうと思ってた。支えてあげたいとも思ってはいたけど、一緒にいられるって打算のほうが大きかったんだ。諦めて人並みの生活をしてほしいってずっと思ってたよ」


ポラリス:「……そうだったのか」


ミザル:「そうだよ。お前は知らなかっただろうけど、僕は彼女と付き合っていたし」


ポラリス:「いや、それは知っていた」


ミザル:「え、そうなのか?」


ポラリス:「彼女の性格で、黙っていられると思うか?」


ミザル:「それは……確かにそうだ」


ポラリス:「ハネムーンは絶対に私に乗って行くのだとはしゃいでいた。あれは……」


ミザル:「……そうだよ。お前と彼女の最終レースの前の晩だ。彼女に告白したのは」


ポラリス:「…………すまない」


ミザル:「謝るな。またぶち壊したくなってくる」


ポラリス:「……話の続きを聞いてもいいだろうか。君が、置いていかれないように必死だったという言葉の意味が、まだ理解できない」


ミザル:「ああ……だからさ、ルカはチェイスターになってからすごく活躍しただろう。チームも大きくなっていったし、レースの数も増えた。実績をいくつも残した」


ポラリス:「そうだな。彼女の腕は素晴らしかった」


ミザル:「ああ。だから、僕が彼女の隣にいるには、ずっと実績を残すしかなかったんだ。必要とされる要素がなければ置いていかれる。そのくらいルカは、すごかったんだ。スポンサーからはお前からの乗り換えもずっと提案されてたしな」


ポラリス:「それは……知らなかった」


ミザル:「だろうな。けど僕は、ルカが走れれば、ルカが夢を追うことができればそれで良かったんだ。そこに届こうが届くまいが、どうでも。ただ、隣に立っていられれば、それで、良かったのに……」


ポラリス:「……ミザル。ルカの夢は、終わっていない。彼女の夢を、叶えてみないか」


ミザル:「終わっただろう。彼女は、死んだ。死んだらそこで、夢は終わりだ」


ポラリス:「終わりではない。彼女の夢を覚えている私達がいる。共に夢を追った経験がある。そして、叶えられていない目標は今なお、変わりはない」


ミザル:「……ゴダードのタイムレコード、か」


ポラリス:「そうだ。惑星アルファベガでゴダードが出した最速レコード。それを塗り替えることが、彼女の一番の夢であったはずだ」


ミザル:「……」


ポラリス:「ミザル。叶えられる手段はまだここにある」


ミザル:「……わかったよ。他にやることも、ないしな。それに……」


ポラリス:「それに?」


ミザル:「いや、なんでも」


ポラリス:「そうか。では、これからよろしく頼む」

ミザル:「ああ」

ポラリス:「ミザル。君が私の、チェイスターだ」

ミザル:ルカがチェイスターになったきっかけ。そして生涯追い続けたもの。僕らが生まれてはじめてみた生のギャラワンが、レコードが生まれる瞬間だった。その衝撃がずっと彼女を夢に走らせていた。ルカはずっと、ゴダードの背中だけを追っていた。まるで北極星だけを頼りに旅する、旅人みたいに。別に、僕が旅をしたくなったわけじゃない。ただ、今更他の男のことばかり追っていたのが気に食わなくなっただけなんて、言えるわけもない。


0:


0:翌朝


0:


ポラリス:「おはようミザル。8時間41分ぶりだ」


ミザル:「おはよう、ポラリス。その経過時間をわざわざ言うのやめてくれ」


ポラリス:「何を言う。時間というコストは有限だ。コスト管理をするのも私の努めだ」


ミザル:「ああ、そうだけどさ……はぁ(ため息)」


ポラリス:「ではミザル。早速今後のプランを決めよう」


ミザル:「朝食くらい摂らせてくれよ……」


ポラリス:「問題ない、食事をしながらでも会話はできる。プラン作成は並行して行えるだろう」


ミザル:「落ち着かない生活になりそうだな……」


ポラリス:「落ち着いていられる時間など残ってはいない。早速計画をはじめよう」


ミザル:「ああ、わかったよ、まったく……」


ポラリス:「昨晩の間に現在のギャラワンについての情報は検索し把握した。まず、目標とするアルファベガでのレースだが。通常のギャラワンは同じ惑星でレースが開催されることはほとんどない」


ミザル:「ああ。数百ある星がランダムで選出されるんだから、普通は同じ星が選ばれることはない。だからアルファベガでの二度目のレースは盛り上がりもしたし荒れもしたな」


ポラリス:「その通りだ。だが現在、惑星アルファベガでのレースだけは毎年開催されている。タイムレコードへ挑むゴダード杯として」


ミザル:「そうだな、おかげでアルファベガはいまや有名観光地だ」


ポラリス:「不満なのか」


ミザル:「べつに、どうだっていい。続けてくれ」


ポラリス:「了解した。我々はゴダード杯が開催されるまでの間に走りを完成させ、挑むことになる。次回の開催はこの星の日数で164日後、約半年だ」


ミザル:「半年で一流チェイスターになれるトレーニングメニューを考えろって?無茶言うな、僕はトレーナーじゃないぞ」


ポラリス:「いいや、君のトレーニングメニューは私が担当する。君に考えてほしいのは、レースへの参加回数や私の調整だ。チェイスターとなってレースを経験していない状態でいきなりレコードが取れるような世界ではない。君にはどれくらいのレース経験が必要なのか、私では判断ができない」


ミザル:「なるほど……簡単に言うけどな、専門知識もなしに判断できるものでもないぞ」


ポラリス:「君ならできるだろう。ルカのレースプランを組んでいたのはずっと君だったのだから」


ミザル:「…………何年前の話だよ」


ポラリス:「商業チーム設立までの間であるから、最低でも9年以上昔だ」


ミザル:「真面目に返すな、ったく……!」


ミザル:そう悪態をつきながらも、僕の胸にはなんとなく、高鳴りのようなものがあった。新しい何かを始めるときの、忘れ去っていた高揚感が。


ミザル:そうして。僕たちのトレーニングが始まった。


0:


0:ある日の夜。ミザルの部屋。


0:


ミザル:「チェイスター経験一年以上、こっちは三年以上……くっそ、どこも参加条件に経験必須を入れてくるなよ……」


ポラリス:「やはり裏レースを視野に入れるべきではないか」


ミザル:「だめだ、それだけはやらないってルカと約束した。約束させた僕が破ってたら世話ないだろ」


ポラリス:「律儀だな」


ミザル:「頑固なんだ」


ポラリス:「そういう捉え方もあるか」


ミザル:「ほっとけ」


ポラリス:「自分で言ったのだろう」


ミザル:「うるさい。それより衛星開催のレースもリストアップだ。惑星と変わらない直径のところもあったはずだ」


ポラリス:「検索結果、648件」


ミザル:「多いなクッソ。いいよ、全部チェックしてやるさ……!」


0:


0:別の日、スクラップ置き場近くの廃棄されたレースコース


0:


ポラリス:「ハンドリングが遅い。この角度では次のカーブでコースアウトする」


ミザル:「んなこと言ったってッ……う、わあああ!」


ポラリス:「左前輪コースアウト。壁面への衝突箇所破損。復帰は不可能」


ミザル:「ハンドル硬すぎるだろ……」


ポラリス:「君の腕力が足りないだけだ。軽すぎれば誤操作を生む」


ミザル:「いっそ操作系変えるか……?」


ポラリス:「今から新規の操作系を設計して作る時間も資金もない。逃げるなミザル」


ミザル:「わかってるよ……はあ……」


0:


0:別の日の朝、ガレージ


0:


ミザル:「ああ、寝坊した!時間が惜しいっていうのに……!」


ポラリス:「おはようミザル、7時間16分ぶりだ」


ミザル:「そうだな、16分も遅刻した。それだけあれば昨日組んだシステムの起動テストくらいはできたのに……!」


ポラリス:「またシステムを更新したのか。今度はどこだ」


ミザル:「前輪シャフトの駆動制御だ。繋いで試すぞ。前回のやつはこないだ変えた重心制御との兼ね合いがとれてなかったからーー」


ポラリス:「了解した、繋いでくれ。実際の挙動を確認しよう」


0:


0:


ミザル:あっという間だった。まさに、あっという間だった。ポラリスの改良、レースの下調べ、身体トレーニング、ドライビングテクニックの習得……走り始めてみるとやることは山積みで、どれもこれもをやるには時間が足りなくて、目一杯詰め込んで詰め込んで、不安も後悔も残しながら、それでも時間はやってきて。


0:


0:二ヶ月後、惑星ヘルクイオタ特設レース場実況席


0:


実況:『レディーーース、エーンッ、ジェントルメーン!今日のギャラワンエキシビジョンレースはここ、惑星ヘルクイオタからお届けだ!実況は私、グレートファシリテイターことチャールズ・ハッブルがお送りしまぁす!そして解説はこの方!コンプトン・スピッツァー・チャンドラ氏にお越しいただいております!』


解説:『よろしくおねがいします』


実況:『さてコンプトンさん、今回のレースですが、どのあたりが見どころになりそうですかね?』


解説:『そうですね。今回は半数近くがレース経験3年未満ということですから、まだまだ新しい才能が埋もれていそうです。意外なダークホースがいるかもしれませんから、そこも期待したいですね』


実況:『なるほどありがとうございます!それでは選手の紹介と参りましょう!まずは1号車ーー……』


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0:ポラリスの運転席でスタートを待つミザル。


ミザル:「勝手を言ってくれるな……そんなものになれる奴はまずいないだろ」


ポラリス:「そうだな。それほどの実力があればこの時期、既に別のレースに出ている可能性が高い」


ミザル:「ああ、まったくだ。こんな時期にレースデビューしてゴダード杯を狙ってるやつなんて、出遅れにもほどがある」


ポラリス:「では諦めるか」


ミザル:「もうスタートに立ってるのにやめられるか。そんなことよりコンディションチェックをーー」


ポラリス:「ここまで既に23回行っている。オールグリーン、変化はない」


ミザル:「……い、一応もう一度チェックを……」


ポラリス:「必要ない。ミザル、緊張しすぎだ」


ミザル:「くそ、わかってるよ……」


ポラリス:「集中しろ、スタートだ」


ミザル:「わかったよ……!」


0:


0:実況席


実況:『さあ、ギャラクティックスターワンエキシビジョン……今、スタートです!各車一斉に……とはならず!いきなりエンストを起こしているのは2号車、ミザル・メチウス搭乗のポラリスだあ!無事発進できるのかあ!?』


解説:『まあまだ先の長いレースですからね、様子を見守りましょう』


0:


0:ポラリスコクピット


ポラリス:「何をしてるミザル、焦りすぎだ。クラッチ操作が噛み合っていない」


ミザル:「ああわかってるよ!のっけからこんな……!」


ポラリス:「落ち着け。まだ追いつける。深呼吸しろ」


ミザル:「(深呼吸をして)……いくぞ」


ミザル:グン、と踏み込んだアクセルに合わせてクラッチを浮かせる。タイヤを削りブラックラインをコースに残しながら、ポラリスが勢いよく発進する。急加速でシートに押し付けられながら、だだっ広い無人のコースに向けて、僕のレースが始まった。


0:


0:


0:ポラリスコクピット


ポラリス:「現在順位は16位。ここまでのタイムは178秒、予想タイムのプラス11秒だ」


ミザル:「先行車との距離は?」


ポラリス:「約800m」


ミザル:「この先でみんな速度が落ちる。その間に追いつくぞ……!」


ポラリス:「了解した」


ミザル:「先頭車までの距離も算出しとけよ、山を抜けたら追いかける」


ポラリス:「……わかった」


ミザル:「なんだ、今の間は」


ポラリス:「なんでもない」


ミザル:「そうかよ」


ポラリス:「ミザル。ここまでのコースはほぼ直線に近かったが、このあと通るのは切り立った2つの山の間。傾斜はさほど脅威ではないが……」


ミザル:「せまい道幅と連続するカーブが嫌でも速度を落としに来る、わかってるよ言われなくても。落石とかも見逃すなよ!」


ポラリス:「了解」


ミザル:「(ぼそりと)大丈夫だ……ルカなら、このくらい軽くやってみせた……」


ポラリス:「先行車との距離600」


ミザル:「そろそろ見える、か……ッと……!?」


ポラリス:「コーナークリア、接触なし。いい反応速度だった。以前ならコースアウトしていたところだ」


ミザル:「ちょっとは訓練が効いたかもな。それより先行車との距離は」


ポラリス:「460。まもなく視界に入るはずだ」


ミザル:「(先行車を目視して)ッ!!追いついたぞ……!」


ポラリス:「まだ見つけただけだ。距離430。ここからは下りだ、注意してくれ」


ミザル:「わかってる!」


ミザル:怒鳴り返しながら、アクセルを目一杯踏み込んでギアを上げる。ポラリスは更に加速し、点だった先行車の形がはっきり見え始める。その後ろ姿を捉え、追いかける。迫る、迫る、迫る……!


ポラリス:「先行車までの距離60m」


ミザル:「ここ、でえ!」


0:


0:実況席


0:


実況:『さあ、先頭車が山間部を抜けてくる!11番コカブポールスターを先頭に次々と抜けてきた!やはり順位の変動は今のところはありません!』


解説:『やはりあの山道での追い抜きは難しいところだったようですねえ』


実況:『後続も順調に抜け出してきて……おおっとこれは!?』


解説:『ほほお……!』


実況:『最後尾だった2番ポラリスが追い上げてきています!現在8位!スタートの出遅れもなんのその!先頭集団に迫る迫る!』


解説:『いい加速ですね、10年前の車体とは思えません』


実況:『全車再び平原へ突入!ここから市街地を抜ければいよいよゴールだ!まだまだ先が読めない展開です!』


0:


0:ポラリスコックピット


0:


ミザル:「ポラリス、車体の状況は!?」


ポラリス:「破損箇所なし。だが危険な追い越しだった。接触していてもおかしくない」


ミザル:「結果オーライだろ!それよりこの先でトップをもらうぞ!距離と速度計算しとけ!」


ポラリス:「了解したミザル。だがこのコースでは最終のストレートでーー」


ミザル:「あとにしろ!聞いてる余裕はない!」


0:


0:実況席


0:


実況:『市街地コースへ入り、各車の距離が詰まっております!各車一団となって市街地の出口を目指す!』


解説:『市街地コースを抜ければゴールはすぐですからね、ここで順位を上げておきたいところです』


実況:『さあ狭いコース上で接触が相次いでいるぞ!火花を散らしながら突き進む!』


解説:『ゴール目前で焦りもあるでしょうね、冷静な判断で切り抜けたいところです』


0:


0:ポラリスコクピット


0:


ポラリス:「まもなく市街地を抜けるぞ」


ミザル:「順位は!?」


ポラリス:「7位だ。先行のブロックがうまかった」


ミザル:「ここじゃ抜けない……!市街地抜けたらブーストだ!」


ポラリス:「後続の様子を見て判断しなくていいのか」


ミザル:「後続!?必要ないだろ!いいから言うとおりにしろ!ルカだったらそうする!」


ポラリス:「……了解した。市街地最後のコーナーまで15秒」


ミザル:「くッ……!」


ポラリス:「コーナークリア、先頭集団を補足」


ミザル:「ポラリス!ブースト起動だ!早く!」


ポラリス:「了解、後部ブースターポッド展開、オーバーブースト起動!」


ミザル:「ん、ぐ!」


ミザル:車体の後方がせり上がり、ジェットエンジンを改造したブースターが点火する。直後訪れる、体がシートに押し込まれるほどの急加速。オーバーブースト。レース中1度だけ使用の許される超加速装置。アイマシンの切り札だ。こいつで一気にトップをもらう……!


ポラリス:「加速終了まで20、19、18……」


ミザル:必死にハンドルを操る。先行車を抜き去り、先頭に躍り出た。


ポラリス:「10、9、8……」


ミザル:「よ、しッ……!このまま……!」


ミザル:振り切れる、勝てる、優勝がもう、目の前だーー!


ポラリス:「後方に車体接近」


ミザル:「えッ!?」


ポラリス:「3、2、1……」


ミザル:「だ、だめだポラリス!ブーストを切るな!」


ポラリス:「加速終了」


ミザル:がくんと速度が落ちる。僕の右側を、一瞬で後続車が抜き去っていく。どれだけアクセルを踏んでも、もう間に合わない。2台、3台、横をすり抜けていった後続車たちがゴールをくぐっていく。


実況:『ゴオオオオオオル!優勝は11番コカブポールスター!最終直線で見事な追い抜きを見せ勝利を掴みました!』


ミザル:無線から実況の声が無情な結果を伝えてくる。さっきまでの集中力が嘘のように、すべての感覚がふわふわとして実感がわかない。


ポラリス:「ミザル。ゴールは通過した。車体を停止させてくれ」


ミザル:「……ポラリス。なんでブーストを止めた」


ポラリス:「あれ以上使用すれば臨界を超え、爆発の危険もあった。使用を継続するのは不可能だった。設計した君自身が理解しているはずだ」


ミザル:「でもあそこでブーストを維持できてれば……!」


ポラリス:「不可能だ。ブースト使用が早すぎた」


ミザル:「……負けたのか、僕は」


ポラリス:「我々の順位は6着だ、ミザル。とにかく車体を止めてくれ」


ミザル:「……なんで……」


ポラリス:「……運転操作をオートドライブに切り替える。あとの操作は私が行う」


ミザル:その言葉に答えることすらできなかった。ポラリスがゆっくりと停車する。コックピットが開いて、ひどく遠くから拍手が聞こえてくる。僕らに勝った優勝者へ向けての拍手が。


ミザル:こうして、僕の初のレースは、あっさりと終わった。


0:


0:ミザルの部屋


0:


実況:『優勝おめでとうございます!今回圧倒的な実力を見せての勝利でしたね!特に最後のごぼう抜きは圧巻でした!』


ミザル:暗い部屋の中、テレビからの声に視線を向ける。映し出されたのは最終直線での優勝者のごぼう抜き。ゴール直前、優勝者の黄色い車体の前を行く赤い車体がカメラに映る。しかし数秒後、赤い車体は、ポラリスはブーストを切らせて一瞬で減速しフレームの外へと消えた。


ミザル:「ッ〜〜〜……!」


0:(声にならない声を上げて、拳が机を叩く)


ポラリス:「……ミザル」


ミザル:「なんだよ……」


ポラリス:「……悔しいのか」


ミザル:「悪いかよ……」


ポラリス:「いいや。ただ、意外だったのだ」


ミザル:「意外……?」


ポラリス:「そうだ。君は今まで、レコードに興味はないと言っていた。レースに勝つことそのものにも。あの熱意はルカへ向けられたものであって、レースへ向けたものではなかったと」


ミザル:「ああ……そうだよ」


ポラリス:「今回のレースは経験を積むためのものだ。勝ちにいく必要はなかった。それは君も理解しているだろう」


ミザル:「……」


ポラリス:「だが君は、レースが始まったときから優勝を狙っていた。ゴール直前、追い抜かれまいとした」


ミザル:「……だから、なんだっていうんだ」


ポラリス:「それは、君が。レースに勝ちたいと思ったからの行動だ。今までの君の発言とは矛盾する。だから、意外だったのだ」


ミザル:「……(視線をそらす)」


ポラリス:「ミザル、君はーー」


ミザル:「ああ、くそ!そうだよ!勝ちにいったし正直勝てるかもと思った!でも負けた!悔しいさ、おかしいかよ!」


ポラリス:「……では、諦めるか」


ミザル:「諦める……?」


ポラリス:「そうだ。レースは勝負の世界だ。勝てなければ負ける。悔しいのなら、負けたくないのなら、レースをしなければいい」


ミザル:「……それは……!」


ポラリス:「なにも、おかしなことはない。悪いことでもない。君自身が、そう思っていたはずだ」


ミザル:「え……?」


ポラリス:「彼女が勝負に挑むべきではなかったと、君は思っているのだろう?」


ミザル:「……けど、それは話がーー」


ポラリス:「(かぶせて)何も違わない。君がレースに勝利する確率はどのくらいだ?彼女の失敗とどちらのほうが高かった?君がレース中に死亡する可能性だってある」


ミザル:「…………」


ポラリス:「リスクは大きく、得られる成果は僅かなものだ。それも、いつかは風化する有限のものでしかない。命をかけるだけの理由が、君にあるか」


ミザル:そんなものは、ない。僕は彼女のようにチェイスターではないから。


ミザル:「…………そうだな。僕にはそんな、命がけになる理由なんてない」


ミザル:追うべき目標も、走り始めた理由も、自分自身のためではないから。僕の追う星は、自分で決めたものではないから。


ミザル:


ミザル:けど。


ミザル:


ミザル:「けど、降りない。ここで諦めたりは、しない」


ポラリス:「なぜだ。理由はないと」


ミザル:「ああ、命をかける理由はないな。でも降りない理由ならある」


ポラリス:「それは?」


ミザル:「彼女の夢を叶えると約束した。そのために努力もした。僕はもう、走り始めた。なら、途中で投げ出すなんて、格好悪いだろう」


ポラリス:「……それだけか」


ミザル:「それだけだ。悪いか」


ポラリス:「……いいや」


ミザル:その時、一瞬。ポラリスが笑った気がした。


ポラリス:「では、変わらずゴダード杯を目指すのだな」


ミザル:「ああ。けど今のままじゃ勝てない。やることは山積みだ、手伝ってもらうぞポラリス」


ポラリス:「もちろんだ、ミザル。君は私の、チェイスターなのだから」


0:


0:


ミザル:そこからの4ヶ月は、ずっと闘いだった。今までの練習に加えて、レースへの対策を練った。レコードへの到達のために必要な方法を絞った。あらゆる可能性を考えて、できることを考えて、そして、できないことと向き合った。


ミザル:「ぐ、ッく……!だめだ、やっぱり僕はルカほど早く反応できない。ハンドルを切るのが遅すぎる……」


ポラリス:「そうだな。ギャラワン選手の平均的な反応速度を下回っている。訓練してもこれ以上の上達は難しい」


ミザル:僕と彼女の、違いを知った。


ポラリス:「違うぞミザル。今のポイントはアクセルを抑えながら慣性とカウンターを調整してクリアすべきだ」


ミザル:「簡単に言うな、加速で押さえつけておくのが精一杯だ。そんな微細な調整、感覚でできるもんか」


ポラリス:「ルカはやっていた。だから空転を最小限にして立ち上がりを早めていた」


ミザル:知るほどに、挑むほどにわかる、僕と彼女の差。星への道のりの果てしなさ。自分の無力さ。それを噛み締めて4ヶ月。それでも逃げ出さなかった僕は、自分の意思でそこへと立った。彼女が命を落としたレース。夢を叶えるはずだったレース。すべての始まりとなったレース、ゴダード杯。そのスタートへと。


0:


0:惑星アルファベガ、ゴダード杯特設コース実況席


0:


実況:『ギャラクティックスター・ワン、スペシャルレコードレース、ゴダード杯!今年もギャラワン最速レコード保持者、アール・ゴダード氏のレコードを更新しようとオルタナ銀河中からチェイスターたちが集まっております!』


解説:『ギャラワン決勝の前の一大イベントですからね、毎年こちらのみに出る選手も多くいますから、もう一つの決勝戦とも言われています』


実況:『そのとおりですね。しかしレース設立から5年、未だにレコードは破られぬままです、果たして今年はどうでしょうか!?チェイスターたちへの期待も高まります!』


0:


0:ポラリスコクピット内


0:


ミザル:「7番、か……」


ポラリス:「どうしたミザル。エントリーナンバーに不満があるのか」


ミザル:「ないよ。ただ、あいつとナンバー並んだな、って思っただけだ」


ポラリス:「確かに、ルカは6番で出場していた。よく覚えていたな」


ミザル:「まあな。ルカのことはなんだって覚えておきたいのさ」


ポラリス:「それは……惚気、というやつか」


ミザル:「はは、まあな」


ポラリス:「リラックス、しているな」


ミザル:「ああ。なんだか、感慨深くて。本番は今からなのにな」


ポラリス:「そうだな。浸るにはまだ早い」


ミザル:「わかってるよ。シミュレートの読み込みは?」


ポラリス:「完了している。外気観測用センサー各種のリンクも異常ない」


ミザル:「だな、インジケーター良好。メモリ拡張したんだ、処理落ちするなよ?」


ポラリス:「君こそ、判断ミスをするなよ」


ミザル:「わかってるよ」


ミザル:ヘルメットのバイザーを下ろす。深呼吸して、体の力を抜いた。視線の先、並んだ6つのシグナルがスタートへの刻限を告げる。3……2……1……。


ポラリス:「ゼロ」


ミザル:「いくぞ、ポラリス!」


ミザル:止まっていた時が動き出す。ポラリスが、駆ける。


0:


0:


ポラリス:「現在14位、先頭との距離540。風速はーー」


ミザル:「見えてる、問題ない。風速とコース情報は常にモニターに映せ。それと先頭との距離は必要ない、タイムだけ出してくれ」


ポラリス:「先頭車との距離は気にしてなくていいのか」


ミザル:「いい。僕が戦う相手はそいつじゃない」


ポラリス:「了解した、ミザル。まもなく第1カーブ」


ミザル:「わかってる。……アクセル10%減、ブレーキ32%、ステア36度……」


ポラリス:「(カーブを曲がりきって)コーナークリア、操作系異状なし。次のカーブは320メートル先だ」


ミザル:「見えてるよ、この調子で行くぞポラリス」


ミザル:僕が前回のレースを終えてすぐ行ったのが、これだった。操縦系の全交換。ハンドルもアクセルもブレーキも、全て左右のコントロールボールで制御する。ポラリスが観測したデータから、必要な出力を僕が計算して操作する、デジタル制御の産物。


ミザル:この4ヶ月で理解した。同じ術では届かない。同じやり方ではかなわない。スタートも条件も違う僕が追いつくには、模倣だけではだめなのだと。届かせようと思うなら、戦おうと思うなら、自分の強みで戦うしかないのだと。


ミザル:「試させてもらう、技術屋の走りがどこまで通じるか……」


0:


0:


実況:『さあゴダード杯は現在43分が経過、全車一団となって進んでおります!まだまだ先の読めない展開ですが、どうでしょう今回注目のチェイスターは』


解説:『そうですねえ、実力を見ると粒ぞろいでなかなか甲乙つけがたいところですが、やはり注目は7番のミザル・メチウス駆るポラリスでしょうね』


実況:『そうですね、なんと言ってもあのアルカイド・ハッチンスのマシンの復活ですからね。観客からもかなり注目されているようです』


解説:『前回からは操作系を一新しての参加のようですが、果たしてどうでるかですね』


0:


0:


ミザル:「アクセル減5%、ステア25度……!」


ポラリス:「ヘアピンまで630」


ミザル:「ポラリス!アクセルキープ!」


ポラリス:「了解、アクセルキープ開始」


ミザル:「ステア18、29、33、ブレーキ1・2秒キープ……!」


ポラリス:「後続車接近」


ミザル:「構うな!それより路面状況のデータ追加しろ、操作の結果と誤差がある!」


ミザル:読む、探る、取り込む。数字にまみれて茹だる頭と、固まりそうな指先に、息を吸い込んでムチを打つ。


ポラリス:「ミザル、操作に遅れが出始めている、集中しろ」


ミザル:「わかって、る……!」


ミザル:わかっていたことだ、こんな方法は長くもたない。それでも、この方法しか勝機を見出せなかった。だから、あとすこしだけ。


ポラリス:「コーナークリア。目標ポイントまであと860」


ミザル:「ッ!」


ポラリス:「車体機構チェック、オールグリーン。破損なし。やるのか、ミザル」


ミザル:「ああ、やるさ、そのために来たんだ。ポイントまでカウントダウン開始!」


ポラリス:「了解。ポイントまでのカウントスタート」


ミザル:カウントダウンが始まる。ゴダードの加速の原理はおそらく、映像には写っていなかった部品の欠落による軽量化が原因だ。それを人為的に起こすための機能を積載した。仕掛けるポイントは、渓谷沿いの急カーブ、このレースの最終コーナー。ルカがクラッシュを起こしたあの場所。ここまで来たんだ、もう戻れない。全部の答えが出るまでの、カウントダウン。


ポラリス:「59……58……」


ミザル:「現在順位は!?」


ポラリス:「6位に上昇」


ミザル:「よし……コントロール換装、ハンドル操作に切り替え!」


ポラリス:「了解、コントロールボール解除、ハンドル操作へ移行完了」


ミザル:手首の固定が外れると同時にハンドルを握る。アクセルを踏みしめ、視界を精一杯広く。親指がハンドルへ新設されたボタンをなぞる。浅くなっている呼吸に気づいて、大きく息を吸う。


ポラリス:「ミザル」


ミザル:「どうした、ポラリス」


ポラリス:「最終確認をしたい」


ミザル:「何だ、今更」


ポラリス:「この作戦はリスクが高い。短時間での大幅な挙動および操作性の変化、加速による車体損壊の危険性もある」


ミザル:「それこそ今更だろ」


ポラリス:「今更ではない。今だからこそ、聞いている」


ミザル:「それは、どういう……」


ミザル:答えを聞くまえに気づいた。ああ、そうか。


ミザル:「……ルカにも、同じこと聞いたんだな」


ポラリス:「そうだ。つけ加えるなら、彼女はここで挑み、失敗した。それでも、やるのか」


ミザル:「……やる。やらなきゃ、いけない」


ポラリス:「なぜだ」


ミザル:「後悔するからだ。やらなきゃ、後悔する。多分、死ぬまでずっと」


ポラリス:「それは、死んでも構わないということか」


ミザル:「そんなわけない。死にたいわけあるもんか」


ポラリス:「それなら」


ミザル:「けど、それでも。仕方ないだろ、わかっちゃったんだからさ……」


ポラリス:「わかった、とは?」


ミザル:「……どんなに隠したって言い訳したって。やりたいって気持ちは、消えないんだろ……!?ずっと残るんだろう!?あいつが止まらなかったのは、それをわかってたからなんだろ!?」


ミザル:いや、本当はずっとわかっていた。ルカが、あのレースで自ら挑んで失敗したのだと。誰でもなく自分の夢で滅んだのだと。ただ認めたくなかった、理解しないようにしていた。その衝動を、気持ちを。本気になって挑んで負けるのが、どれほど悔しいか知っていたから。傷つきたくなどなかったから。


ポラリス:「ミザル……」


ミザル:「なら、背中を向けてなんかいられないだろ、挑むしかないだろ!一度見た輝きは消えない、なかったことになんてできないんだから!」


ポラリス:「……了解した、ミザル。君は私の、チェイスターだ」


ミザル:「ポラリス……」


ポラリス:「ボルト点火準備完了。ポイント通過まであと5、4、3、2、1……」


ミザル:「今ッ!」


0:


0:


ポラリス:その数秒の出来事は、今なお多くの人々の目に焼き付いている。惑星アルファベガ、第5回ゴダード杯最終コーナー。優勝候補たちの後方で弾けた白い光。赤い表面装甲を脱皮するように引き剥がしながら白色へ姿を変えていく、ポラリスと呼ばれたそのマシンは、直後に凄まじい加速を見せた。わずか800メートルの最終直線をオーバーブーストで駆け抜けたその姿は、輝きは。さながら、燃える流星のようであった。


0:


0:


実況:『ご、ゴォォォォォォル!!優勝を飾ったのは7番、ポラリスぅ!並み居る強敵を追い抜いて、栄冠を手に入れました!』


解説:『まさか装甲のパージを行うとは想定外でした。奇策ではありましたが見事というべきでしょう』


実況:『そして、タイムレコードはぁ……!』


0:


0:


ミザル:歓声が、ひどく遠く聞こえる。ゴールテープを切って、優勝を攫った。電光掲示板に大きく映る僕の名前とポラリスの文字。そして、その下に続く数字。赤色のランプが表すそれはゴダードのレコードを、わずかに上回っていた。


ミザル:「……」


ポラリス:「車体コントロールをオートメーションに移行。……喜ばないのか、ミザル」


ミザル:「え……?」


ポラリス:「ゴダードのレコードを0.3秒更新してのゴールだ。君が新たなレコードホルダーだ。喜ぶべきことだろう」


ミザル:「いや、なんだろうな、実感がまだ、わかなくて……」


ポラリス:「なるほど。君らしいな」


ミザル:「なんだそれ。……ポラリス、ハッチ開けてくれ」


ポラリス:「了解」


ミザル:コックピットを覆うカバーが開き、ぶわっと風が吹きぬける。同時に聞こえた叩きつけるような歓声でようやく、頭が追いついて。


ポラリス:「……泣いているのか、ミザル」


ミザル:「ッ……悪いか」


ポラリス:「いいや。ただ理解できないだけだ」


ミザル:「…………お前にもそのうち、わかるよ」


ポラリス:「……そうか」


ミザル:「さあ、ウイニングランがある。行こうかポラリス」


ポラリス:「……いいや、私は参加できない」


ミザル:「え?」


ポラリス:「ミザル、君とのレースはとても充実していた。時間が短く感じた。それは0.3秒などというものではなく、もっともっと、一瞬の輝きのようだった」


ミザル:「おい、何言ってるんだ、ポラリス」


ポラリス:「こういうのを人は、楽しかったというのだろう。あるいは、満足と呼ぶのだろう」


ミザル:「待て、勝手に話をすすめるな、状況を報告しろ!」


ポラリス:「ミザル、君の手は星に届いた。であるなら君はもう、チェイスターではなく。人々が追う、星そのものだ」


ミザル:「ポラリス!聞けよ!」


ポラリス:「伝えるべき言葉がまとまらず、すまない。だが最後にこれだけは伝えなくてはいけない。……ありがとう。ミザル」


ミザル:「ポラリス!」


ミザル:直後、体が宙に浮く。座っていたコックピットの座席が弾き出されると同時に、ポラリスが加速する。視界から消え去った数瞬後、光と音が爆ぜた。使命を果たした北極星は燃え落ちて、僕の前から、消え去った。


0:


0:


0:


実況:CM『さあいよいよ今年もこの季節がやってきた!ギャラワン開催地の発表だ!昨年は本戦レースも大盛り上がりだったがなんといってもあのゴダードの記録が書き換えられたのが一番のニュースだったな!ゴダード杯あらためミザル杯のレギュラーション発表もあるからそっちも要チェックだ!ではいよいよ発表だ!』


ミザル:雨の中でも大音量で響き渡るCMから逃げるように店内に入る。


ミザル:「この型番の在庫、ある?」


実況:店主「ああ、これね。うちにもないよ。去年からの人気でみんな売れちまった」


ミザル:「だよな……ありがとう」


ミザル:苦笑を浮かべて店を出る。


ミザル:ウイニングランを前にして、ポラリスはバラバラになってしまった。車体の限界だったらしい。僕だけを脱出させたポラリスは文字通り爆散。部品は一つ残らずジャンク屋たちが回収していった。


ミザル:けど、後悔はない。僕らは全力で走った。星へ手を届かせた。あいつは満足だと、そう言っていた。


ミザル:「さて、つぎは、と」


ミザル:端末に記録したチェックリストに一箇所印をつけて、次の場所へと足を向ける。


ミザル:なあポラリス。お前は僕が星になったといったけど、それはちがう。


ミザル:お前が一人じゃ走れないように、僕も一人じゃ星みたいに輝けない。誰かに見せた夢の輝きは、僕らが揃ってやっと見せられたものなんだ。ファーストスターを追うチェイスターたちがそうだったみたいに。


ミザル:ゴダードを追うお前とルカがそうだったみたいに。誰かの輝きを、星を追う姿が。輝いて見えたんだ。


ミザル:だから僕は追い続ける。たとえどれだけ時間がたとうとも、僕が追われる星になっても変わらない。僕はお前の、チェイスターなのだから。


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0:


0:


0:※以下は読んでも読まなくても。


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0:


0:


ポラリス:ミザル。私は君に嘘をついていた。私は君に、夢は終わっていないといった。だが私の夢は、終わっていたのだ。彼女とともに、あのレースで。私は満足してしまっていたのだ。これ以上はないと。


ポラリス:だが、君という存在が、夢に続きを与えてくれた。そして見るはずのない景色を見せてくれた。君はもしかしたら、私がいたから走れたのだと思ってくれているかもしれない。


ポラリス:だがそれは私の方なのだ。


ポラリス:君が見つけてくれたから、見ていてくれたから、私は輝いていられたのだ。星は見つけてもらわなければ、輝いていることなどわかりはしない。君自身が、そうであるように。


ポラリス:だからどうか忘れないでほしい。君が誰かにとっての星であることを。君は私の、チェイスターなのだから。

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Polariss レオ≒チェイスター @Shimokami-yuusa

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