腰痛2
「先日も拝見しましたが、よく出来てますね……」
ステイシーが、感心したように呟く。一包化の機械は鈍い光沢のある金属製で、前世でおなじみの機械とはやはり構造が違うものの、この世界の基準からすれば驚くべき精密さだった。
「今、部品を改良してるんだ。粉薬を一包ずつ均等に包むのが難しくてな」
ルイスが真剣な目で言った。錠剤の一包化だけではなく粉薬の分包も出来る機械を開発してもらえるのはとてもありがたい。
「ふふ……もし機械が実用化できたら、一台いくらで売れるかな……?」
セレストが、悪い商人のような笑顔で呟く。
「セレストさん、気が早いですよ」
そう言いながらもステイシーは、機械が完成する日を心待ちにしていた。
それから数日後、ステイシーが仕事をしていると、意外な人物が店に足を踏み入れた。
「お久しぶりです。ステイシー様」
「え……あなたは……ヤング様……!」
エイミスファーマシーで働いているハーマン・ヤングだ。まだエイミスファーマシーは営業しているが、社長のロードリック・エイミスが逮捕された為、もうすぐ店を閉めると聞いている。
「どうなさったんですか?わざわざこちらにいらっしゃるなんて」
ステイシーが聞くと、ハーマンはカウンターに近付き、笑顔で答えた。
「まずは、お礼を言いたいと思いまして」
「お礼?」
「ええ。実は、クロウ商会と取引のある工場長、ルイス・ブラウンさんはうちの患者でしてね。彼に湿布を渡していたのはうちの薬局なんですよ」
「ああ、そう言えば……」
ルイスが、エイミスファーマシーで薬を貰ったと言っていた気がする。
「昨日、ブラウンさんがうちの薬局に来ましてね。前回と違う湿布を処方してもらったと言っていたので、詳しい話を聞いたんですよ。そしたら、ステイシー様に光線過敏症の事を指摘されたと伺いまして……。あのまま以前の湿布を使い続けていたら、うちの薬局の説明不足のせいでブラウンさんはずっと悩まされていた事でしょう。大切な患者さんの健康を守って下さり、ありがとうございました」
そう言って、ハーマンは深々と頭を下げた。
「いえ、そんな。頭を上げて下さい」
ステイシーは、慌てて手を振った。
「それで、別件で一つお願いがあるのですが……」
「お願い?」
ステイシーが首を傾げると、ハーマンはにっこりと笑って言った。
「俺を、この薬局で働かせて頂けませんか?」
しばらく沈黙が流れた後、ステイシーは大きな声を上げた。
「え……ええええ!?」
「エイミスファーマシーはもう駄目だし、新しい仕事先を見つけないとと思っていたんです。ステイシー様のいる薬局なら信頼できるし、是非俺を雇って下さい」
正直、人手が増えるのは嬉しい。ステイシーは、チラリと奥にいるマージョリーを見た。視線に気付いたマージョリーは、微笑んで言った。
「いいんじゃないかい。男手はあった方が良いし、働いてもらおうじゃないか」
「ありがとうございます、カヴァナー先生」
ハーマンは、マージョリーにも頭を下げた。
「では、、これからよろしくお願いします、ステイシー様」
「様はつけなくても構いませんよ。これからよろしくお願い致します、ヤング様」
ハーマンと握手をしながら、ステイシーは仲間が増えた事を嬉しく思っていた。
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