形勢逆転
マージョリーは、エイミスファーマシーの応接室にいた。彼女の向かいには、笑顔のエイミスが座っている。
「いやあ、カヴァナーさん、よく決心して下さいました」
エイミスは、一枚の書類と万年筆をテーブルの上に置いた。それは、薬屋カヴァナーの経営権をエイミスファーマシーに譲る為の契約書だった。マージョリーは、エイミスを睨むように見て言った。
「……本当に、ステイシー達をここで雇ってくれるんだろうね?」
「ええ、好待遇で雇う事をお約束致します」
マージョリーは、意を決したように万年筆を手に取った。そして紙にサインしようとしたその時、応接室のドアが勢いよく開けられた。
「ちょっと待ったあああああ!!」
入って来たのは、ステイシー、アーロン、セオドアの三人。
「な、何だお前ら!?」
エイミスが狼狽えながら叫ぶ。
「薬屋カヴァナーの経営権を譲渡する契約を阻止しに来ました!」
ステイシーが堂々と言った。
「そんな事出来ると思ってるのか!?」
「それが出来るんですよ」
口を挟んだのはセオドア。彼は、一枚の書類を取り出すとエイミスに見せた。
「これ、何だか分かりますか?捜索令状です。……あなた、偽造処方箋を持ち込んだ反社会勢力の人間に精神安定剤を販売していましたね?偽造処方箋だと知っていたのに。少なくとも捜査が終わるまでは、契約は中止してもらいます」
「ふん……偽造処方箋なんて知りませんね。知っていたという証拠が出て来るはずが無い」
エイミスは鼻を鳴らして口角を上げた。しかしその時、一人の男が応接室に姿を現した。
「あれー、社長、証拠が無いと思ってたんですか?」
その男――ハーマン・ヤングは、ヘラヘラした顔で右手に持った書類の束を掲げてみせた。
「これ、反社会勢力の人間に薬を渡す代わりにこちらが手数料を貰うという契約書です。ほら、こーんなに」
ハーマンは、見せつけるように書類の束をパラパラと捲る。
「お前、それっ……処分しろと言っただろう!!」
顔を真っ赤にしてエイミスが怒鳴る。
「俺はこれでも薬剤師の端くれなんでね。流石に良心の呵責に苛まれるわけですよ」
今までのヘラヘラした様子から一変して、ハーマンは真面目な顔で言った。
「くっ……!!」
エイミスは、唇を噛み締めた。
その後すぐに警官達が応接室に足を踏み入れ、エイミスを警察署へと連行して行った。
エイミスが連行された後、応接室には四人だけになった。ステイシーは、ポカンとした顔でソファに座ったままのマージョリーを見て、穏やかな顔で話し掛けた。
「先生……帰りましょう。私達の薬局に」
マージョリーは、戸惑った顔で言った。
「私だって帰りたいけど……未だに嫌がらせは続いてるんだろう?まだ帰れないんじゃないかい?」
「確かに。……でも、嫌がらせはそんなに長く続かないと思いますよ?」
「え?」
実は、セオドアはエイミスについて警察に調べてもらっていたのだが、その過程で、エイミスが新聞社にマージョリーについての醜聞を書くよう頼んでいた事が分かった。それだけではない。人を雇って薬屋カヴァナーの壁に落書きをしたり、窓ガラスを割らせていた事も分かった。
「……そうだったのかい。でも、私が医療過誤を起こしたという話は既に広まってしまっているだろう?この先薬局の経営を続けていけるのかねえ……」
マージョリーが不安そうに言うと、ステイシーは笑って言った。
「それは、何とかなると思いますよ。……どうぞ、入って下さい」
すると、応接室に一人の男性が入って来た。その姿を見て、マージョリーは目を見開いた。
「テレンス……!!」
「お久しぶりです、カヴァナー先生……」
テレンスは、穏やかな笑顔で挨拶した。そして、マージョリーに近付くと、深々と頭を下げた。
「三十年前、全ての責任を負って下さり、ありがとうございました。……今更ですが、恩返しさせて下さい。私が新聞社に真実を話して新しく記事を書いてもらえば、少しは名誉挽回できるでしょう」
「……いいのかい?逆にあんたの評判が落ちるんじゃないのかい?」
「大丈夫です。これでも私は田舎で患者さんに信頼されてるんですよ」
「……そうかい。ありがとう……」
マージョリーは、穏やかな顔で礼を言った。
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