お薬相談会2

 そして夕方になり、薬の相談会は無事終了した。帰り際、ハントリー夫人がステイシーに話し掛けてきた。


「あなた、オールストン家の娘さんよね?ブレット殿下に婚約破棄されて悪い噂もあったけど、その噂は真実ではなかったようね。また相談した事が出来るかもしれませんし、今後共よろしくお願い致します」


「こちらこそ、よろしくお願い致します」


 ステイシーは、深々と頭を下げた。




 ハントリー夫人が立ち去った後、セオドアは穏やかな笑顔でステイシーに話し掛けた。


「お疲れ様、ステイシー。君の悪い噂が段々と払拭されているようで良かったよ」


「ありがとうございます、セオドア殿下」


 ステイシーが笑顔で礼を言うと、セオドアは真面目な顔になって言った。


「……ねえ、ステイシー。お願いがあるんだけど」


「何でしょう?」


「……来月、城で夜会があるんだけど、その夜会に……僕のパートナーとして出席してくれないかな」


「え……」




 この世界では、男性が夜会でパートナーとするのは妻か恋人と決まっている。もちろん、恋人がいない場合は家族をパートナーとする場合もあるが。


「……私は平民な上に、殿下の恋人でも家族でもありません。そんな私がパートナーで良いんでしょうか?」


「良いに決まってる。第一王子ともあろう者が一人でポツンと会場にいる方が問題だよ」




 確かに、今セオドアには恋人も婚約者もいないが、形だけでもセオドアのパートナーになりたい女性は多いだろう。ポツンと会場にいる事になるとは思えない。……それでも、セオドアが望んでくれるのなら。


「私、セオドア殿下のパートナーになります」


 意を決したようにステイシーが言うと、セオドアは満面の笑みを浮かべた。


「ありがとう。当日を楽しみにしているよ」




 薬局に帰って来ると、ステイシーはマウンターの奥にいるマージョリーに声を掛けた。


「先生、ただいま戻りました。すぐに夕飯の支度をしますね」


 この薬局のスタッフは皆住み込みで働いている形になるので、週替わりで家事の当番を決めている。


「お嬢様、手伝いましょうか?」


 調合室からアーロンが出てきてステイシーに申し出たが、ステイシーは首を振った。


「いえ、大丈夫よ。今日はアーロンの好きなシチューを作るから、楽しみにしていてね」


 ステイシーは、軽やかな足取りで二階へと上がって行った。


 その様子を見て、マージョリーは呟いた。


「……何かいい事でもあったのかね」


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