薬の保管法2

「あの、どういう事ですか、オールストンさん」


 アデラが、戸惑った様子で聞いてきた。


「……棚に置いてある薬の瓶に日差しが降り注いで、瓶の温度が高くなり過ぎたんです。それで、薬が変質してしまったものと思われます。……断定は出来ませんが、薬の効果が出なかったのは、そのせいかもしれません」


「そんな……!!」


 ダリルが驚いたように叫んだ。薬の見かけは変わっていないし、まさか変質しているとは思わなかったのだろう。




「あの、私達はこれからどうすればいいんですか……?」


 アデラが縋るようにして聞く。


「……もったいないですが、今持っている薬は飲まずに、医師に新しく薬を処方してもらって下さい。それと、薬は日光が当たらない涼しい所に保管するようにして下さい」


「分かりました」


 ダリルが頷いた。




「……しかし、涼しい場所で保管すると言っても、真夏は厳しいんじゃないか?外気温に左右されない場所なんて、狭い家だと見つけるのが難しいだろう」


 セレストが、考え込むような表情で言った。


「そうなんですよね……箱に入れて水の中で保管するしかないですかね。……冷蔵庫があればいいんですけど……」


「レイゾウコとは何だ?」


 セレストが首を傾げた。


「あ……」


 ステイシーは焦った。この世界に冷蔵庫など無い。


「冷蔵庫というのは、その……物を保管する入れ物のような機械で、保管している物の温度が上がらないようにできるんです」




 前世でおなじみの電化製品としての冷蔵庫は、物体が液体から気体に変わる時に周囲から熱を奪う事を利用するとかそういう仕組みだったと思うが、説明できない。


「ふうん……箱型の機械に氷を入れて、その氷が解けないように魔法石を作動させる仕組みを作れればうちでも売れそうだな。今度業務提携している工場に開発させてみるか」


 セレストが、腕組みをして呟いた。




 しばらくして、ステイシー達三人は山小屋を後にした。別れ際、アデラは「薬の保管の仕方も大事だと教わりました、ありがとうございます」と言って頭を下げていた。




 アーロンの転移魔法で薬局に到着すると、セレストはステイシーに向き直った。


「今日は、薬の保管について学べた上に商品開発のヒントまでもらって、有意義な時間を過ごせたよ」


「お役に立てたのなら嬉しいです」


 ステイシーは、ニコリと笑った。


「ああ、そうそう。一包化の機械だが、順調に試作品の製作が進んでいる。楽しみにしていてくれ」


「はい、ありがとうございます」


 そして、セレストは手をヒラヒラさせながら薬局を後にした。


 ステイシーは、そんなセレストの背中を頼もしく感じていた。

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