お薬手帳5
「そんな事が……」
ステイシーは、目を伏せながら呟いた。ちなみに、セレストは色目云々の下りは省いて話している。
「まあ、そういう事だから、エイミスやその部下には気をつけてくれ」
セレストは、真面目な顔でステイシーに忠告した。ステイシーが頷くと、セオドアが心配そうに言った。
「ステイシー、エイミス氏が強引に独占販売を迫ってきたりとか、困った事があったら相談してね」
「ありがとうございます、セオドア殿下」
ステイシーは、笑顔で礼を言った。
それにしても、セオドアはステイシーに優し過ぎる。先程だって、自分の身も危ないのにドラゴンの炎からステイシーを守ってくれようとしていた。何故こんなにも優しいのか。
……やはり、自分の弟が無実のステイシーを婚約破棄して平民落ちさせた事に責任を感じているんだろうか。
そう感じたステイシーは、セオドアの目を見て言った。
「あの……セオドア殿下、先程はドラゴンから守って下さり、ありがとうございました。でも、ご自分を犠牲にするような事はなさらなくても大丈夫ですよ?もしブレット殿下の行いで責任を感じているのなら、気にしないで下さい。私は平民落ちしましたが、充実した毎日を送る事が出来て幸せですから」
ステイシーの言葉を聞いて、セオドアは眉を顰めた。
「……ステイシーは、僕が責任感から君に優しくしてると思ってるの?」
「あ……申し訳ございません。セオドア殿下はお優しいから、ブレット殿下の件が無くてもきっと私に同じことをして下さいましたね。でも、あまりにもお優しいので……」
ステイシーは慌てて言った。そんな彼女を見て、セオドアはフッと笑った。
「僕が君に優しいのは、君の事を特別に思っているからだよ。僕は聖人君子でも何でもないからね」
「え……」
「まあ、今君は仕事の事しか頭にないだろうから、今日はこのくらいにしておくよ」
その後、今回のドラゴン騒ぎの対応の為、セオドアは城に帰っていった。
「ステイシー、一包化の機械の件だが、工場が試作品作成に着手し始めた。まだまだ時間がかかると思うが、待っていてくれ」
そう言って、セレストも帰っていった。
「私達も帰ろうか」
マージョリーが声を発し、ステイシー達もアーロンの転移魔法で薬局に戻った。
その夜ベッドに横になりながら、ステイシーは先程聞いたセオドアの言葉を思い出していた。ステイシーの事を『特別に思っている』と言っていたが、どういう意味だろう。やっぱり、大切な親友という意味なんだろうか。
恋愛感情は……さすがにないだろう。アニタのように男性に甘えるのが上手くないし、お洒落だってしていない。
そこまで考えて、ステイシーは気が付いた。自分は、恋愛感情を抱かれていない事に落ち込んでいる。何故?……ああ、セオドアに、恋しているからだ。
初めは、賢くて美しい顔立ちのセオドアに憧れているだけだった。でも、ステイシーの無実を信じてくれた。薬剤師の仕事について興味深そうに聞いてくれた。ステイシーを助けようとしてくれた。それが、とても嬉しかった。そして、いつの間にか恋になっていた。
次に会う時、セオドアに今までと同じように接する事が出来るだろうか。ステイシーは、ベッドの中で少し顔を赤くしていた。
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