アニメ化作家を育て、自分もアニメ化してる作家の創作論

鷹山誠一/小鳥遊真

お手軽編

読みやすい文章の書き方

アマチュア作家志望さんと接していると、とにかくどうしたら文章が読みやすくなるのか、ということを気にしておられる方が多い印象です。

読みにくい理由

どうすれば読みやすくなるのか

というのは色々な理由が考えられるのですが、今回はお手軽編ということで

お手軽に文章が上手くなる方法を紹介いたします。



PREP法と言うものをご存じでしょうか。


Point :要点(結論・主張)

Reason :理由(pointに至った理由・そう主張する理由)

Example:具体例(事例・データ・状況、いわゆるエビデンス)

Point :要点(結論・主張)


の順に話を展開する。


といういわゆる会話や論文などで、相手にわかりやすく言いたいことを伝えるためのテンプレです。

ビジネスなどでも多用されていたりします。


会話相手がこいつ結局何を言ってんのかわからねー!

ってケースはだいたい、このPREP法に則って話をしていません

鷹山が見ていて多いのは


ちょっと聞いて聞いて

わたしね、バイト先では鮮魚コーナーを担当していてね

そうそう鮮魚だと魚の切り方って知ってる?

ほんとあそこのスタッフ見てて鮮やかだわー

そうそうそこで包丁の研ぎ方とか聞いてね

みたいな感じでいつまでも世間話をしてからようやっと

で、その○○さんがね、休んでレジ打ちさせられたの

わたし鮮魚コーナーでやったことほとんどなかったのに

だからほんと大変だったんだよね、酷いと思わない?(Point)


みたいな話し方でしょうか。

これ、結局、

この人が言いたかったのは、

「やったことないレジが大変だったから、共感して」

だったわけです。

そこの本題に入る前の説明がはっきり言えば、「だるい」わけですね。

だって、「やったことがないレジ打ちが大変だった」という情報を相手に伝える上では、鮮魚の切り方だとか、鮮魚スタッフの手際の良さとか、包丁の研ぎ方とかは、「一切関係のない情報」だからです。

こういう書き方をすると、読者はストレスを感じてしまうわけですね。


これをPREP法に沿って書き換えると

P 今日、レジ打ちして大変だった

R 普段は鮮魚コーナーで働いていて、レジ打ちなんかやったことがない

P そんなわたしにいきなりレジ任せるなんて酷くない?


になります。

※PREP法においてEは抜いてもいいです

どうです? 「情報がまとまっていて」ずいぶん読みやすくなってませんか?


小説も実はこういう作業が必要です。

太宰治の走れメロスを引用しましょう。

-------------------------------------------

メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。きょう未明メロスは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれた此このシラクスの市にやって来た。メロスには父も、母も無い。女房も無い。十六の、内気な妹と二人暮しだ。この妹は、村の或る律気な一牧人を、近々、花婿はなむことして迎える事になっていた。結婚式も間近かなのである。メロスは、それゆえ、花嫁の衣裳やら祝宴の御馳走やらを買いに、はるばる市にやって来たのだ。先ず、その品々を買い集め、それから都の大路をぶらぶら歩いた。メロスには竹馬の友があった。セリヌンティウスである。今は此のシラクスの市で、石工をしている。その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。歩いているうちにメロスは、まちの様子を怪しく思った。ひっそりしている。もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、市全体が、やけに寂しい。のんきなメロスも、だんだん不安になって来た。路で逢った若い衆をつかまえて、何かあったのか、二年まえに此の市に来たときは、夜でも皆が歌をうたって、まちは賑やかであった筈はずだが、と質問した。若い衆は、首を振って答えなかった。しばらく歩いて老爺ろうやに逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。老爺は答えなかった。メロスは両手で老爺のからだをゆすぶって質問を重ねた。老爺は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。

「王様は、人を殺します。」

「なぜ殺すのだ。」

「悪心を抱いている、というのですが、誰もそんな、悪心を持っては居りませぬ。」

「たくさんの人を殺したのか。」

「はい、はじめは王様の妹婿さまを。それから、御自身のお世嗣よつぎを。それから、妹さまを。それから、妹さまの御子さまを。それから、皇后さまを。それから、賢臣のアレキス様を。」

「おどろいた。国王は乱心か。」

「いいえ、乱心ではございませぬ。人を、信ずる事が出来ぬ、というのです。このごろは、臣下の心をも、お疑いになり、少しく派手な暮しをしている者には、人質ひとりずつ差し出すことを命じて居ります。御命令を拒めば十字架にかけられて、殺されます。きょうは、六人殺されました。」

 聞いて、メロスは激怒した。「呆あきれた王だ。生かして置けぬ。」

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最初に、

Pメロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。

から始まり、

引用の最後に、

P聞いて、メロスは激怒した。「呆あきれた王だ。生かして置けぬ。」

と、結論が一致しているわけです。

間はそう決意した理由が語られてるわけです。


かように、小説というものは、

「突飛なP」から始め、

なぜそうなるのかの説明をしてから

最後、Pにまた帰着する、という流れで実は書かれているのです。


夏目漱石の坊ちゃんを引用してみます。

--------------------------------------------

 親譲の無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰こしを抜ぬかした事がある。なぜそんな無闇むやみをしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談じょうだんに、いくら威張いばっても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃はやしたからである。小使こづかいに負ぶさって帰って来た時、おやじが大きな眼めをして二階ぐらいから飛び降りて腰を抜かす奴やつがあるかと云いったから、この次は抜かさずに飛んで見せますと答えた。

 親類のものから西洋製のナイフを貰もらって奇麗きれいな刃はを日に翳かざして、友達ともだちに見せていたら、一人が光る事は光るが切れそうもないと云った。切れぬ事があるか、何でも切ってみせると受け合った。そんなら君の指を切ってみろと注文したから、何だ指ぐらいこの通りだと右の手の親指の甲こうをはすに切り込こんだ。幸さいわいナイフが小さいのと、親指の骨が堅かたかったので、今だに親指は手に付いている。しかし創痕きずあとは死ぬまで消えぬ。

-------------------------------------------

どうでしょう? これも

P親譲の無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。

という突飛な、言い換えるなら読者の気を引けそうな結論から入り、

その説明をしていませんか?


長々と説明してきましたが、まとめましょう

それこそ結論を言えば

「小説というものは、まず『相手の興味を惹く』『端的な』結論から入れ」

です。

これからこういう話をしますよ、と最初に『簡潔に』『興味深いもの』として読者に教えてあげないといけないんですね。

じゃないと、読者はいったい何の話をしているかちんぷんかんぷんになってしまうわけです。あるいは、退屈です。


ちょっとした会話一つとっても、

「コーヒーが買えなかった」

「そうか。残念だったな」

「死にたい」

「そんなことぐらいで死にたいとか言うな!」

なんて文章よりも

「死にたい」

「いきなりどうした!?」

「コーヒーが買えなかった」

「そんなことぐらいで死にたいとか言うな!」

のほうが最初にインパクトがあって読者の興味を惹き、続きを読ませやすくなります。



この記事ならば、「読みやすい文章の書き方」が書かれてるとタイトルで教えています。

作家志望者さんにとって「興味を惹くワード」だと思ったからです。

そうやって興味を惹いてから、そのために必要なのはPREPだよ、とも示しています。

こうすることで、読者は、この項目はこういう話をしているんだな、という全体像がつかみやすくなりますし、興味関心を持ち続きを読もう、となります。


こういう風な「情報の出し方」が、読みやすい文章の基本になります。

読みにくい文章、わかりにくい文章と言うのは得てして、

この情報を出す『順番』が間違っているのです。






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