第45話 転生者、ドライアドに驚く
キリエと話をしてから5日ほど経った日のことだった。魔王城に一人のドライアド族が訪れた。
「たのもー。ドライアドのウネがやって来たよー」
門番に話し掛けるウネと名乗るドライアド。
見た目は小学生低学年くらいだろうか。とても小さな少女が立っている。
ゆるふわなショートボブにちょっとつり目で大きめな瞳がちょっと可愛らしく見える。
「いらっしゃい、よく来てくれたな」
「うん、お姉さん誰?」
俺が出迎えると、ウネからそんな言葉をぶつけられる。
その時のウネの目は不審なものを見るような瞳だったのだが、その可愛さに俺は思わずやられてしまった。
「しっぽを振って、何をしてらっしゃるのですか、魔王様。……よく来て下さいました。お入り下さい」
俺の方を見て呆れたようにため息をついたキリエだったが、すぐさま普段通りに来客に対応している。
「お邪魔させてもらうぞ」
ウネはキリエの対応に簡単に反応し、キリエの後をついていった。俺もすぐに気を取り直して後を追いかけた。
来客用の部屋ではなく、俺の執務室でもなく、先日確認した庭へとウネを通すキリエである。
その庭を見たウネは、しばらくそのままじっと眺めるように動かなくなった。
「一体、どうしたんだろうな」
「この庭の状態を確認しているだけでございます。このままドライアド族の様子を見守りましょう」
俺の疑問にキリエが淡々と答えるので、よく分からない俺はとりあえずキリエの言い分に従う。
しばらく首を捻るような動作だけだったウネだが、突如として何かに取りつかれたように魔力をあふれ出させていた。
「な、なんだ? 一体何が起きているんだ?」
急に魔力が爆発したような状況になったので、理解の追いつかない俺は動揺を隠し切れない。
だが、俺が戸惑う中、キリエはまったく微動だにしない。それに加えて俺への説明も無しだ。ただただじっと、ウネの様子を見守っている。
俺が首を捻った瞬間だった。
ウネが見つめている花壇だった場所から一気に植物が芽を出したのだ。
種も何もなかったと思うのだが、驚くなかれ、一気に大量の芽が生えてきたのだ。一体何が起きたのか、ずっと見ていたにもかかわらず、まったく俺の理解が追いつかなかった。
「植物を一瞬で成長させる能力です。これはドライアドとアルラウネ、どちらも持ち合わせている種族能力です。ただ、種がないと成長させられないアルラウネに対して、ドライアドは種を魔力生成できます。この能力が二つの種族を見分ける大きなポイントとなるのです」
「へ、へえ~……」
キリエがせっかく説明してくれているというのに、俺はそんな簡単な反応を返す事しかできなかった。さっきから驚きすぎて、語彙力が旅に出てしまったからうまく言葉にできないのも仕方ないよな。
「ここは魔王城の庭園だった。こんな殺風景、許せない」
にょきにょきと庭園に草花を生やしながら、ウネは眉間にしわを寄せていた。
「彼女は前魔王様に城を追い出されたんですよ。草花にまったく興味のないお方でしたからね。正直言いまして、今回来られる可能性は低かったんです」
キリエは俺に対して事情を逐一説明している。
「実は先日の手紙に、魔王様が植物に関心を持ってらっしゃる旨を記述して送らさせて頂きました。ダメ元とは思っておりましたが、こうして来て頂けるとは喜ばしい限りです」
キリエの話が耳に入ったのか、ウネは鋭い視線を俺たちの方へと向けてきた。
「勘違いするななのだ。わちは植物のない光景が許せないだけ。枯らしたら許さないのだよ」
厳しい言葉を話してはいるものの、その時の動きのせいでつい笑いそうになってしまう。
「魔王様、笑うのは失礼かと存じます。奇妙な動きではございますが、由緒正しきドライアドの踊りです。我慢下さい」
キリエにまで咎められてしまった俺だが、やっぱりその奇抜な動きにどうしても耐えられそうになかった。
だが、さすがに失礼だと思うので、キリエに睨まれながらどうにか俺は耐えていた。
やがて、ウネの動きが止まる。すると、そこには立派なバラの生け垣ができていた。
「すごい……」
「どう、わちの能力思い知った?」
ドヤ顔を決めるウネ。その姿を見た俺は、激しく何度も首を縦に振っていた。
「すごいや。これだけ立派な生け垣を短時間で完成させるなんて。こんなきれいなバラ、実家でも見た事ないぜ」
「ふふん、これがドライアドの力なのよ」
鼻息が荒くなるウネである。
そのウネに対して、俺は近付いていく。そして、その手を取るとその顔をしっかりと見つめる。
「実に素晴らしい能力だよ。これなら、俺の考えるスローライフが実現できるかも知れない」
「す、すろー、らいふ? 何です、それは」
しっぽを左右に振りながら目を輝かせる俺の姿に困惑するウネ。だが、俺はそんな事にはまったくお構いなしだった。
「踊りは奇抜だったけど、これなら城の中で自給自足ができそうだ。うん、よろしく頼むよ、ウネ」
「は、はあ……。分かったのですよ」
俺が手を握って勢いよく上下させるものだから、ウネは戸惑いの表情を浮かべていた。
とりあえず、こうして城の住人が新たに一人増えたのだった。
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