第43話 転生者、視察を終える

 ごたごたとした純魔族の街の訪問を終えた俺たちは、他の領地も見て回る。

 その結果、獣人である俺を魔王として認める向きが大半だった。

 バフォメットに確認してみれば、魔王に能力で勝てるのは純魔族くらいなので、それ以外は勝てないから従うといった感じらしい。とはいえ、獣人の時のように必ずしもそれが全体の意識というわけではないようだ。


「反発する者は必ずいます。そういう時はヒョウム殿の時のように実力を示せば大体は沈黙いたします。魔族の中では力が絶対ですから」


「そうかぁ……。正直言って俺はあんまり暴力は好きじゃないんだよな。魔王討伐も本当ならやりたくはなかったんだが、周りがうるさいから仕方なくって感じなんだよな……」


 バフォメットの話を聞いて、俺はついつい項垂れてしまう。やっぱり力が正義なのかよ。

 とりあえずは領地の全体を見てきたけど、魔王領、思った以上に広かったな。全部見るのに30日以上もかかってしまうとはな……。

 視察を終えて魔王城に戻ってくると、そこではコモヤが不機嫌そうな表情をして待ち構えていた。


「どこ行ってたのですか。うちは待ちくたびれました」


「コモヤ、戻ってきていたのですか。王国の潜入調査はいいのですか?」


「あ、それなら終わったので問題ないです」


 仁王立ちしているコモヤにキリエが問い掛けると、予想外な答えが返ってきた。

 なんと、潜入調査をとっくに終えてしまったというのだ。

 とりあえず魔王城の中に入り、食堂へと移動する俺たち。帰ってきたばかりでお腹が減っているのである。

 食卓に着席すると、俺はコモヤに向かって話し掛ける。


「食べながらでも報告を聞こうじゃないか。王都がどうなっているのかは、俺たちが魔王領の統治を行う上で重要な情報だからな」


「承知致しました。その前に、文書を預かって参っておりますので、そちらをお渡ししておきます」


 コモヤは隣に座ったキリエに文書を手渡し、そこから俺の手元に回ってきた。なんだ、直に自分で持ってくるんじゃないのか。


「なんで私を使ったのですか」


 当然ながらキリエがコモヤを睨む。


「ちょうど間に居たからですよ……」


 人差し指を突き合わせながら、可愛く言い訳をするコモヤである。その姿にキリエは大きくため息をついた。


「あの、私もこの席にいてよろしいのですか?」


 そこにこんな質問をしてきたのはラビリアだ。ピエラのメイドとしてついてきたので、俺たちの食事の席に同席していいのか戸惑っているようだ。


「ああ、構わない。俺たちが許可しているんだから、気にする事はないよ」


「うう、身に余る光栄です……」


 身を縮こまらせるラビリアだった。

 さて、食事が運ばれてくるにはまだ時間がかかる。先触れを出す余裕がなかったので、戻ってきてから仕込みをしているもんな。

 そんなわけで、コモヤが預かって戻ってきた文書に目を通す。それと同時に、王都での調査を結果を話してもらっている。

 王国からの文書の内容は、どうやら俺を表向きは属領とした魔王領の領主として認めるといったものだ。

 追放処分にした人物を領主に指名するというのは、実は王国にとっては前代未聞の判断といえる。おそらくは、俺に従うキリエの姿が目に入ったからだろう。

 さて、表向きといったのは、文書に続きがあったからだ。


「なんだ、俺が魔王になったっていうのを認めるんだな」


「本当。これは思ってもみなかった事ね」


「でも、その代わりに魔族に人間たちの領域で悪さをさせるなって書いてあるな。魔王領の広さを思えば、とてもじゃないが保証できねえぞ」


 無茶振りともいえるその文言に、俺はつい愚痴を漏らしてしまう。


「魔王様、そのためにわたくしどもがいるのです。思う存分お使い下さいませ」


「そ、そうですよ。私たち魔族は魔王様の言うことなら聞き入れますから」


 バフォメットとラビリアが訴えてくる。その言葉に、うーんと唸る俺である。


「まあ、コモヤの報告を聞く限り、王国の方の心配はないみたいだしな。安定のためにいろいろ動いてくれてありがとうな」


「いえ、うちとしては言われた仕事をしたまでです。大した事ではありませんよ」


 俺がお礼とともに褒めると、コモヤはものすごく謙遜していた。

 魔族とはいっても、根本的なところは人間と大差がないのかもしれないな。


「大した事だよ。おかげで俺は、魔王領の運営に集中できるんだからな。とはいえ、政治的な事はみんなに任せて、のんびりと生活したいもんだな。子どもの頃から何かと忙しかったからな……」


 ついつい本音をだだ漏れにしてしまう俺である。


「私もそう思うわね。小さい頃からずっと魔法の練習ばかりだったもの。貴族の令嬢としての所作とか、いろいろ勉強で忙しかったわね」


 それを聞いていたピエラも、同じようにため息をつきながら不満を語っていた。

 これには、キリエとコモヤもバフォメットたちと同じような反応を示している。


「ああ、頼りにしてるよ、二人とも」


 俺がにこりと微笑む。

 二人の反応を見ようとしたその時だった。


「お待たせ致しました。食事をお持ち致しました」


 どうやらようやく食事ができ上がったらしい。

 その報告と同時に俺のお腹が大きな音を立てる。これにはピエラたちはついつい吹き出してしまっていた。


「分かった、入ってくれ」


 俺は赤くなりながらも、給仕の声に反応する。

 そして、運ばれてきた食事を堪能しながら、俺たちはあれこれと話し合いをしたのだった。

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