第25話 転生者、魔王領の視察に出向く
翌日からはいよいよ魔王領の視察だ。
俺に魔王領内の状況を教えてくれたバフォメットは解説役として同行することになった。
さすがに頭に角のあるいい感じのおっさんを前にして、ピエラはちょっと緊張した様子を見せていた。
「魔王様のお知り合いの方ですか。わたくしめはバフォメットと申します。これでも代々の魔王様の参謀を務めさせて頂いております。以後お見知りおきを」
馬車に乗り込む前に自己紹介を受けていたが、さすがにピエラは警戒していたようだった。
見た目は紳士で、物腰は柔らかくて態度も真摯だ。でも、どことなく感じるうさん臭さ。警戒するのも無理はないよな。
「セイの幼馴染みのピエラ・ハミングウェイです。今回はよろしくお願いします」
自己紹介の挨拶をするピエラだが、かなり厳しい視線をバフォメットに送っている。警戒心丸出しのピエラである。
人間と魔族はそもそもいがみ合ってきたから仕方はないとはいえ、この雰囲気ではこの先が心配な限りだ。
とはいえ、今さら予定は変えられないので、俺たちはついに魔王城を出発して視察へと出かける。
キリエとカスミという俺の専属侍女二人もしっかり同行している。
馬車は六人乗りとはいえ、バフォメットも乗っているせいでちょっと狭く感じる。このヤギの魔族は少しでかいからな。
ただ、女性四人の空間に唯一の男なんで、人によっては気に入らない状態にはなってるな。とはいえ俺は元男だから、問題ないか。
「どうしたのかしら、セイ」
「いや、何でもないよ。こうやってゆっくり魔王領を見て回るのは初めてだから、ちょっと緊張してるだけだって」
ピエラが俺の様子が気になったのか声を掛けてきた。なので、俺は適当に言ってごまかしておいた。わけの分からない事で悩んでる場合じゃなかったな、うん。
「それでは出発致します」
キリエが合図を送れば、馬車がいよいよ走り始める。
さすがは魔界の馬。俺たちがここまで乗ってきた馬と比べるとものすごく速い。
「魔界の馬は人間界に比べれば鍛えられていますからな。環境が過酷ゆえに、そうでもしない事には生き残れませんでしたから。ああ、ピエラ様が乗られてきた馬でしたら、城の者がちゃんと世話を致しますのでご安心下さい」
バフォメットが頼んでもいないのに勝手に説明している。俺たちの表情を見て察したのだろう。さすが参謀は違うようだ。
「まずはどこへ向かっているのかな」
「魔王様と同じ獣人族の集落からですね。おそらく魔王様が獣人だと知って沸き立っていると思いますので、最初に釘を刺しておいた方がよいかと存じますぞ」
俺の質問に淡々と答えるバフォメットである。
俺が獣人だから獣人族が沸き立っているというのがいまいち理解できないので、俺はついつい首を捻ってしまう。
「魔王様が自分と同じ種族の事を優遇されると思っているのだ思われます。過去の魔王様の中にはそういった方もいらっしゃったと聞き及んでおります。それと、魔王様と同族というだけで増長される魔族というのはいらっしゃいますからね。それによって魔王領が荒れることを、バフォメット様は懸念されているのだと思われます」
「なるほどな……」
キリエの説明で俺はすっかり納得がいった。
つまり、俺が獣人だから、獣人が優遇されると勝手に思い込んで盛り上がっているということだろう。まあ、分からなくもない話だな。
「私は魔王様が愚かではないと信じております」
キリエはしっかりとした表情で俺に言い切っていた。それだけ俺に対して期待をしているってことなんだな。
これは、ここからの行動はかなり重要な意味を持ちそうだ。
ここで判断をミスらなければ、楽な生活を送れそうだし、うーむ、真剣に考えると胃が痛くなってくるぜ。
「そこまで気負わなくてもよろしのですよ、魔王様。わたくしどもも居るのですから、どうかお気楽に構えておいて下さい」
俺がお腹を擦っていると、バフォメットが言い聞かせるように話し掛けてきた。
こういう時ばかりは、なんとも頼りになる言葉だ。
「ああ、頼むぜ」
「お任せ下さい」
実に淡々とした表情で頭を下げるバフォメットだった。
こうして、俺の顔見世を兼ねた魔王領内をめぐる視察の旅が始まった。
「そういえば、このペースでいけばどのくらいで魔王領全域を見て回れるかな」
思わず俺がキリエたちに尋ねてしまう。すると、キリエたちは表情を曇らせていた。
「そうですね……。これといった問題がなくて、最短30日ほどかと思います」
キリエが答えてきたのだが、何だろうな、今の間は……。なんとも嫌な予感しかしない。
なんとも気になる状況になってきたのだが、バフォメットは咳払いをしてごまかすし、キリエとカスミも目を合わせようとしてくれない。いや、本気で心配になってきたぞ。
ともかく最初の目的地は獣人族の集落だ。犬以外の獣人も居るのか気になるが、ピエラが正気を保っていられるかも気になるところだ。俺の手のひらだけであんなに興奮してたからな。
不安が高まる中、1泊野宿をしてようやく最初の目的地である獣人たちの集落へとやって来たのだった。
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