第23話 転生者、幼馴染みに笑われる
「ピエラ様の滞在は、誰も文句は言わないと思いますよ」
キリエに相談を持ちかければ、あっさりとそんな答えがキリエから返ってきた。いいんだ……。
「たった三人で私たち魔族を相手に暴れられた方ですよ? 誰がケンカを売るというのですか」
確かにその通りだ。
しかし、キリエの言葉に俺は疑問を投げる。
「あのさ、キリエは居なかったから知らないかもしれないが、魔王軍のヴォルフから勝負を仕掛けられたんだぞ?」
「存じております、見てましたので」
俺が耳を傾けながら言うと、しれっとした表情でキリエから予想外な答えが返ってきた。いや、見てたのかよ、あれを……。
「ヴォルフは魔王様への忠誠が高いですし、弱い方が嫌いですからね。あえて魔王様の実力を見るために戦いを挑まれたのかと」
「ああ、なるほどね……」
キリエの説明に納得のいく俺だった。
俺とキリエのやり取りを見ていたピエラがおかしそうに笑っている。いや、笑う要素がどこにあったんだよ。
ピンと耳を立てて、ピエラにジト目を向ける俺。不機嫌そうな顔を向けたというのに、ピエラはまだ笑っていた。
「おい、ピエラ。一体いつまで笑っているんだよ」
不機嫌な声を掛けるが、ピエラの笑いはまだ収まらない。まったく失礼すぎるだろうが、いくら幼馴染みとはいえよ。
「ごめんなさい。さっきまで耐えてたんだけど、セイの女性声の違和感がすごくてね……、うふふふ」
なんてこった。
困ったことに、ピエラは俺の声に笑っていたのだ。やめろ、そんなに笑われたら何も話せなくなるじゃないか。
「なあ、キリエ」
「なんでございますでしょうか、魔王様」
「……俺の声ってなにか変か?」
「特になんとも思いませんよ。普通の女性の方の声だと思います」
キリエからは普通だという返答だ。だったら、なんでピエラにはここまで笑われてるんだろうな。
「おそらくですが、ピエラ様は魔王様が男だった時のイメージがあるので、その差異で笑ってられるのだと思いますよ。魔王様の今の声はかなり高い美声ですからね」
「……」
キリエの答えに納得した俺だが、やっぱり納得がいかなかった。
だが、ここで俺はふと思い出した。
(あっ、王都で喋った事はあるけど、その時は魔法を使って無理やり出してたんだったな。女になった俺の生声を聞いたのは初めてだから、こんな反応をしているのか……)
そう、女になった後はまともに喋った事がなかったのだった。
呪いを受けてずっと眠っていたし、その後も牢屋に放り込まれるなど散々だったからな。そのせいでまともに声が出せる状態になかったんだよ。
しかしまぁ、だからといってもここまで笑うのはさすがに失礼じゃないかな。
しっぽをゆっくりと左右に振りながら、ピエラにひたすらジト目を向けている俺。しかし、相当ツボに入っているのか、ピエラが笑いやむ事はなかった。
……まったくどうしてくれようかな、この状況。
「魔王様、ここは私にお任せ下さいませんか。お客人をもてなすのも私たち使用人の役目ですから」
俺が困っていると、キリエが申し出てくる。
確かに、このまま俺と話をしていても笑うばかりでちっとも会話が成立しないもんな。
「分かった。キリエ、任せるよ」
「お任せ下さい。代わりとしてカスミをすぐに寄こしますので、しばらくはそのままお待ち下さいませ」
俺はキリエの意見を了承する。そして、キリエはいまだに笑うピエラを連れて部屋を出ていったのだった。
「まったく、どれだけツボってんだよ、ピエラのやつは……」
せっかく二人で話をする機会だったというのに、ピエラの反応のせいですっかり台無しになった。
結局、大した話もできずに暇になってしまった。
「仕方ない……。時間を持て余すのもなんだし、魔王領の運営について少し考えるか。基礎さえ作っておけば、あとはのんびりできそうだしな」
俺は魔王領でのスローライフを夢見て、カスミが到着するのを待たずに机に向かうことにしたのだった。
しばらく待つと、カスミが紅茶とお菓子を持って部屋にやって来た。
「お待たせ致しました、魔王様」
「ああ、カスミ。ありが……とう?」
部屋に入ってきたカスミを見た俺は、思わずその状態に驚いた。
何かに怯えたように震え続けていたのだ。
(そういえば、キリエが説教をするとか言ってたもんな。この様子を見る限り、かなりこってりと絞られたようだな)
さすがに自業自得とはいえど、ここまで震えるカスミを見ると思わず同情してしまうというものだ。
とはいえ、さっきカスミがやらかした事はメイドとしてあるまじき行為だったので、俺もさすがに同情はしても口には出さなかった。
魔王という上に立つ者として、部下の非はちゃんと咎めなきゃいけないからな。変に許すとなめられるもんな、うん。
「カスミ」
「な、なんでしょうか、魔王様」
俺が名前を呼んだだけで、びくっと体をはねさせている。
「うん、悪い事をしたんだからちゃんと反省してくれ。キリエにかなり言われただろうから、俺からはそれだけだ」
「……はい、とても反省しておりますとも」
下を向くカスミである。
「うん、紅茶もお菓子もおいしいな。反省しているなら、これからもちゃんと頼むよ」
「はい……、ありがとうございます」
笑顔で褒めると、カスミはもじもじとしているようだった。
いや、紅茶とお菓子は本当においしいから正直に言っただけなんだが、何なんだろうなこの反応は。
不思議に思うところはあるものの、俺は今は気にせずに黙々と運営計画を練り上げていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます