滴る水

角居 宗弥

上垂る水

 あめは雨を垂れ流し、は血を永遠とわに受け止める。綺麗に剥がれたきれと私をこう思う。いつまでこれが続くかと。


 槌を下ろして土をき、日の暮れるまで火をべる。腰を下ろしてこう思う。いつまでこれが続くかと。


 人をしては無理を押し、阿付あふを推しては烙印捺され、お釈迦の前でこう思う。いつまでこれが続くかと。


 長雨ながめに降られて気に触れて、眺めた先にはれる風、古い写真を見て思う。いつまでこれが続くかと。


 僧においては千日巡り、山川草木さんせんそうもく悉有仏性しつうぶっしょう、しつこいくらいに数珠を擦る。十歩の内に収めて思う、いつまでこれが続くかと。


 せいを揃えて歌います、合うたび個性はかき消され、噛むなと神には見張られて、居候の身は怪しくて。脳の奥底、深みで思う、いつまでこれが続くかと。


 文字に起こして匂いせず、音に乗せても目に見えず、目に映るものそれは影。物書き、音楽、映画において、見かけに拠らずこう思う。いつまでこれが続くかと。


 恋せよ乙女、愛せよ青年。この町一番、人気者。外にいるならなかにもいるぞ、着物を着たらば余生を考え、止めるまもなくまっ逆さ。倅を亡くした私が思う、いつまでこれが続くかと。


 波を尻にし山河を見据え、支流の水はいづこにかん、もしや現世にないとこか。滴る水をあとからすくい、上垂うわたる水へ譲ったろ。今宵は初めて血を見ることなく、雨にも濡れずに布も見ず。満天星空仰ぎて見て請う、今宵はせめてこのままで。

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滴る水 角居 宗弥 @grus

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