ねむデレ兄妹の甘えあい。~普段は塩シャイな妹が、眠たい時だけ溺愛寝かしつけ~

或木あんた

〈第1話 兄がねむデレの場合〉




(放課後の自宅。帰宅した兄がバタン、と玄関の扉を閉める)



「……あ」


(兄と鉢合わせ、『しまった』という表情の妹)


「………えと………おかえり」


(気まずそうな様子で、妹はいつものぎこちない挨拶を返す)


「お父さんとお母さん? ……出掛けたよ」


「……」


「……特に何もない。学校はいつも通り」


「…………」


(会話を続けようとするが、話題が思いつかない兄。その様子を横目に見ながら)


「えと、兄さん、もういい?」


「……なんというか、兄さんと話すの……緊張する」



(ショックを受ける兄。妹が視線を逸らしながら立ち去る)


(トタトタトタと、階段をあがっていく妹。二階の扉がバタンと閉まる)




 ◇◇◇




(深夜。リビングでソファに寝ころぶ兄。垂れ流しのテレビ放送はすでに通販番組になっている。睡魔に襲われる兄)


(パタ、パタと規則的な足音をたてて階段で妹が降りてくる。ゆっくりドアが開き、妹が息を殺して一歩一歩、近づいてくる)


「……」


(ソファを回り込む妹。兄の顔を覗きこんで、ささやく)


「兄さん、眠たい?」


(眠気のあまり、兄は的を得ない返答をするが)


「……ふぅん」


「……眠そうだね」


「……ふふ♪」


(ボフっとソファに座り込む妹。心底嬉しそうな表情で思わず抱き着く)


「……やっと、眠くなってくれたッ」


「兄さん、ここ寝ていいよ」


「こーこ。わたしのお膝。なに恥ずかしがってるの?」


「んーん、ダメじゃないよ。むしろ待ってた……兄さんが眠くなるの」


「だって、昔から眠くなったら、なんか『ふにゃふにゃー』ってなるじゃない?」


「なってるよォ。……さっきから目も開いてないし、口調もたどたどしい。……赤ちゃんみたい」


(顔を赤らめ、妹がまるで本物の赤ちゃんを目の前にしたようなテンションになる)


「褒めてるんだよォ。……ふふ」


「……兄さん♡」


「兄さん♡ ……えへへ、赤ちゃんな、兄さん♪」


「ほぉら、ふにゃふにゃしてる。もー兄さん、尊いなぁ」


「……だから、おいで?」


(頭が働かず、言われるがままに妹の膝に頭を下ろす。妹の手が優しく兄の頭を撫でた)


「……よしよし。おつかれさま、兄さん。ほら、抱っこしよう? ぎゅー……ぎゅー」


「毎日がんばってて、兄さん偉いなぁ。かっこいいなぁ」


「ふふ、呂律がまわらなくなってきてるよ?……もうちょっとでお眠だね。でも、ここでは寝ちゃダメだよ? 身体が痛くなっちゃう」


(不意に耳元に触れる吐息)


「……だから、兄さん、一緒にベッドへいこう?」


「今日も私が……赤ちゃん兄さんの……ママになってあげる」


「こうやってぎゅー、って、たくさんしてあげるからね?」


「え? なんでそんなに優しいのかって……? えと……それは」


(妹は視線を逸らし、顔を真っ赤にして絞り出すように)



「……眠たい兄さん見てると、……耐えられないの」



(妹は誤魔化すように兄の手を引いて立ち上がる。妹に倣って立ち上がった兄はされるがままについていく)


「おやすみ兄さん。……また、あした」




 ◇◇◇




「……あ」


(翌朝。妹はいつもの気まずそうな顔で視線を逸らす)


「……おはよう。……何?」


(特に話題のない兄へ、困った表情をする妹)


「えと、兄さんと話してると、ちこくするから」


「……」


(足早に通り過ぎようとする妹が、ふと振り返り)


「……兄さん」


「……おぼえてる?」


 (実はおぼろげな記憶があるが、とりあえず首を振る兄。それを見た妹は何もなかったかのように)


「ならいい……」


「……いってくる」



(終始素っ気ない態度のまま、バタンとぎこちなくリビングの扉が閉まった。残された兄は今日も、昨日の記憶は夢だと思うことにした)



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