銀河人材派遣業
立木 斥
第一話 「うむ、ザザ君」
ザザ・ローリング(25歳)は平凡な男である。お給料が安定しているからと、二等級惑星--首都星の次に経済規模のある惑星--ロザンの国立軍士官学校を目指し、勉強の甲斐あって入学。卒業時は序列最下位だったが、無事卒業までこぎつけた。
序列最下位とはいっても、入学時の新入生は500名いたのだ。卒業までの6年間--18歳で入学し24歳で卒業--脱落しなかっただけでも十分能力があることの証明でもあるのだ。ただ、当然ながら序列最下位に声を掛けてくれる、軍や大企業などのプロフェッショナルなスカウトマンは居なかったわけだが。
「課長、本日の出張についてなのですが、今宜しいでしょうか?」
「うむ、ザザ君かね。なに、遠慮しなくて良いとも。なんだね?」
文字通り命を懸けている軍や、只のエリートでは落ちこぼれてしまう大企業からは合格ラインに達していなかったとしても、一般的にはザザ・ローリングは優秀な部類なのには変わらない。その為、軍や大企業でなければ十分に有望な若者なのだ。最近部下の離職が続き、人材不足に拍車が掛かっていたこの小太りな課長がザザに目を付け、スカウトした。進路に困っていたザザは渡りに船とばかりにその話を受けた。つまり、この少し頭毛が薄まっている課長はザザにとって恩人である。
「当該宙域が軍の警邏範囲外となっております。滞在時間を考えますと、安全を十分に確保するには第三種兵装を使用させて頂けないでしょうか?」
「うむ、ザザ君。その要望は尤もだ」
複数の銀河を支配下に置く帝国とはいえ、すべての宙域を隅々まで治安できるわけではない。必要な軍艦が天文学的な数となってしまう。その為、有事の際には管轄の惑星軌道上の駐屯地や、軍の衛星基地から部隊が出動する事となっている。平時においては、主要な宙域・航路を軍がパトロールすることになっているが、当然広大な宇宙では穴が空く。そこに、宙族と呼ばれる武装盗賊団が潜んでいる可能性が高いのだ。
とはいえ、宙族も軍レベルの武装ができるはずもなく、通常は正規の第三種兵装--軍組織以外に許可されている中では最上位の武装--があれば問題ない。例え宙族が同様に第三種兵装を不正に入手できていたとしても、正規のライセンスコードを用いなければ、整備することも使用することもままならないからだ。そのため、宙族の主な武装はセキュリティが低いーーつまりは脅威度が低く、主にデブリ除けに使われるーー第四種兵装が主となる。通常兵装とも呼ばれる第四種兵装に対して、最低限であれど軍事レベルの第三種兵装が使えるのであれば、少なくとも火力面においては勝負にならない。
ザザ・ローリングは本日向かわなければならない先が軍の警邏の範囲外にある宙域であり、近辺に宙族の目撃情報が最近増えているから安全面を強化したいのである。
「課長、それではーー」
「うむ、ザザ君。すまぬが、要望は受け入れられない。第四種兵装で向かってくれたまえ」
「--はい、承知致しました」
あっさりとザザの要望は却下されてしまうが、課長がそう決めたのであれば部下であるザザとしては受け入れるしかない。
この課長は見た目に反し、非常に優秀であることをザザは知っている。
「うむ、ザザ君。済まないね。もちろん、いつも通りB兵装は持って行ってくれて良いとも」
「はい、ありがとうございます。それでは課長、失礼します」
「うむ、ザザ君。気を付けたまえよ」
「はい」
そして課長がわざわざB兵装を持っていけという時には、確実に厄介ごとがまっているということも、ザザは知っている。
ザザはそのまま課長室から退室し、すぐさま出立できるように準備を始めた。
ザザの背中を優しげな眼で見送った課長は一人残った部屋で、ぽつりと零す。
「うむ、ザザ君。君がこの局面で何を掴むのか、しっかりと見守っているとも」
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