悠平②
約束した時間の五分前に待ち合わせ場所であるS駅前の喫茶店前に到着すると、孝介と遥香はすでにいた。
「遅いよ」と言う遥香に「五分前だよ」とバイト代を貯めて買った腕時計を見ながら僕は言った。
「それより、どう? 浴衣」
遥香が訊いてきた。孝介がニヤニヤしながらこちらを見てくる。照れていないが、そっけなくなりすぎないように気を付けて、
「いいんじゃない。夏って感じで」
「なにそれ? もっとなにかないの?」
「まあ、それは追々」
「追々っておいおい」孝介が笑う。
頼りない三日月が夜空に浮かんでいる。小学生らしき男子数人が自転車で背後をはしゃぎながら走り抜けていく。
「飲み物だけでもここで買っていくか?」孝介が自販機を指さして言った。
「向こうでよくない? 私ラムネ飲みたい」
「わかった。悠平はどうする?」
「俺もそれでいいよ」
「じゃあ、行きますか」
孝介が歩き出した。後ろを遥香と並んで歩く。この日のために買ったジーパンのポケットに入れっぱなしにしていた手を出しかけて、また戻す。右の頬がとても熱い。喉が渇いて仕方がなかった。
首筋の汗が気持ち悪い。臭っていないだろうかと不安になる。僕はジーパンと一緒に購入したデニムのショルダーバックから無香料の汗拭きシートを取り出して首筋をぬぐった。
「着いたらまずなに食べる?」」
右目の端にわずかに映る遥香が訊いてきた。
「どうしようかな。祭りってなに食っても美味く感じるからなー」
「わかる。焼きそばとかめっちゃおいしいもんね」
「だよな。たこ焼きも捨てがたいけど」
「おいしいよね」
そこで会話が途切れた。なにか言おうと言葉を探したが見つからないまま、祭り会場へ到着してしまった。
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