ガラクタは俺に取っては最強への鍵だった!? 3年間、殺され続けた俺は【夢想】で無双する!
柳
1:一人目の師匠
日が落ち、月の光が煌々と輝いている夜……俺は気合を入れて目を閉じた。
呼吸を深くし、右手には古びた木刀を握りしめる。
「今日こそ、絶対に勝ってやるからな」
スキルを発動させ、俺は意識を沈み込ませる。やがて、目を開けるとそこは白い空間で眼の前には白髪で白いヒゲを蓄えた老人が俺の事を見ていた。
この世界は圧倒的な能力主義であった。スキルという特別な力を獲得した者のみが権力を独占し、そうではない非能力者が苦汁をなめる腐った世界だ。
その原因は迷宮にある。迷宮と呼ばれる資源の宝庫である危険地帯で活躍できるのは、スキルを獲得した者だけである。スキルは人間の領域を大きく踏み外した力を与える。そのため、迷宮の中で資源を取り、国に貢献できる人材は大きく優遇される。
俺はスキルを獲得することができた。母さんも父さんも自分ごとのように喜んでくれた。だが、俺は特別には成れなかったのだ。
俺が獲得したスキルは【夢想】という寝るだけのスキルだった。誰もが当たり前にできる睡眠ができるようになるスキルなど、何の役に立つのか。自分でもわからない。
能力者育成機関である迷宮調査員養成所に入れさせて貰ったが、その能力が役立つことはなく、養成所内の貢献順位は圧倒的な最下位を独走していた。
だが、俺は諦めたくない。少なくともこの養成所を卒業することができれば給料の良い仕事に就くことができる。そうすれば、家族の負担を減らすこともできると思っていた。だから、できることはやった。走り込み、剣の素振り、弓の素引きや速射など一人でできる事はやってきた。
しかし、現実は無情だった。それでも優秀なスキルを持つ奴らには勝てなかった。
試合に負けた日、俺は部屋の中で一人、壊れかけた剣を抱えながら泣いていた。
「どうしてだよ。誰よりも走った、誰よりも剣を振った、誰よりも努力した! それなのに勝てねぇのかよ」
そして、いつの間にか眠ってしまっていた。
俺が爺さんと出会ったのはその時だ。
「ほれ、若造よ……剣を持て」
つまらなさそうな顔をしながらヒゲを撫でている爺さんは、俺にそう言った。
だが、俺は既に剣を持つ気力なんかは残されていない。
誰かも知らない爺さんに、俺の事を知らない奴に剣を持てなど言われたくなかった。
「こんな老いぼれに負けてしまうぞ? 負けたくないのではないのか?」
「ッ!」
爺さんは妙に苛つく声で俺を煽る。
俺は眼の前の爺さんを見る。痩せこけており、白く長い髭と髪が特徴的な爺さんはどう見ても戦えるような人間ではなかった。
「あんた、誰だよ」
「儂か? 勝てたら教えてやろう」
「……爺さん、死んじまうぞ。俺はスキル持ちだ、雑魚でも能力は一般人より高い」
「そんな事は百も承知じゃよ」
「俺は知らねぇからな」
俺は爺さんに向けて剣を向ける。そして、剣を上段に構えた時には俺の首は胴体と切り離されていた。
「は?」
痛みはない。だが、視界が段々と黒く狭まっていき、何も見えなくなってくる。
そして、薄れていく意識の中で爺さんの声はやけにはっきりと聞こえた。
「また来るが良い。儂は待っておるよ」
そして今日に至る。爺さんは俺を見るとニヤニヤとした笑みを浮かべる。
「ほぉっほぉっ! また死にに来たか」
「何度でもやるぞ。俺が勝つまでだ。俺はずっと挑み続けるからな!」
「その心意気はいいんじゃがの~? もう1095勝目じゃぞ。いい加減にこの老体に鞭を打つような事をさせんで欲しいんじゃがな」
「今日は負けてねぇぞ! 勝手にカウントするんじゃねぇ!」
俺を煽るように爺さんは、木刀を杖代わりにしながら言う。
そう、俺はこの爺さんに負け続けている。夢の中で3年間もの間、ずっと挑み続けては殺され続けている。その数1094戦1094敗0勝という情けない戦績だ。そして、俺は一太刀も爺さんに当てれていない。
「爺さん、今日こそ勝つぞ!」
「首を飛ばされても文句は言わんようにの?」
俺は右手に握っている木刀を構える。爺さんは構えず、自然体で俺を見つめる。
最初は俺のことを舐めていると思っていたが、それは違った。あれは爺さんの構えであり、完成された一つの型だった。
「飛び込んでこない様になったのは成長じゃが……待ちの構えにしては脆いのぉ」
「作戦だよ!」
爺さんは体を倒し、俺の腰よりも低い位置から木刀を下から上に切り上げる。
俺は爺さんの動きに合わせて、半身になり爺さんに斬りかかろうとするが、危険を感じて後ろに飛び退く。
「およ? 危機感知は随分と働くようになったようじゃが……逃げてばかりでは儂には勝てんぞ。ほれほれ、攻めてこんか、カカシの相手など楽しくもない」
「爺のくせに動きが速すぎるんだよ」
「若いくせに遅すぎるんじゃ」
それからも防戦一方の展開が続く。だが、俺は爺さんの攻撃を防げていた。いや、防げる様になっていたのだ。今までは一度の攻撃で死んでいたのが、二度、三度の攻撃に耐えれるようになっていった。
俺は爺さんの動きに合わせて、木刀を横に薙ぎ払う様に斬りつける。
「はっ!」
「ほっ! やっと反撃したの」
「うるせぇ! 軽く躱しやがって……」
硬い地面を蹴ったとは思えないほどの跳躍力で俺の攻撃は躱される。
あんな細い足のどこにそんな力があると言うんだよ。因みに俺にはできなかった。真似しようとして胴体が二つになって目が覚めたからな。あれほど寝覚めが悪かったことはない。
「じゃあ、今度は俺から行くぜ!」
俺は必死にこの眼の前にいる爺さんに勝つ方法を考えた。夢の中に突如として現れた化け物のような強さを持つ爺さんが、一体どこの誰で、どんな目的で俺の夢に現れたのかはわからない。全てが謎のままだった。
だが、そんな事はどうでもいい。今はただこの爺さんに勝ちたい。それだけだった。
「ほぉ……そこまでたどり着くか」
俺は爺さんと同じ構えをとる。自然体でこれから切り結ぶなど考えられないような、穏やかな表情で爺さんを見る。
爺さんは距離を一気に詰めてくる。先程よりも速く、その刃は俺の首筋に伸びる。
「見事ッ!」
俺はそれを身を屈むことで避ける。腰を低く落とし、木刀を腰に収め、身を縮めて重心を前に倒す。
攻撃を躱された爺さんは、素早く後ろに飛ぶことで距離を取る。
爺さんは俺の攻撃の先を読む。それは、相手の意志を読み取ることで出来ていると爺さんが言っていた。そして、爺さんはそれを消すことが必勝であると考えている。
つまり、考えない。勝つこと、殺すこと、躱すこと、全て考えずに行う事が最強であると爺さんは言った。
爺さんの弱点は、早い攻撃への対応が遅いことだ。俺の攻撃は初速が爺さんのものと比べて圧倒的に遅い。だから、圧倒的に速さを追求した。
居合はその極地であった。だから俺はこの構えを体に刻み込んだ。考える余地を残さないようにこれが自然体になるまで続けた。
「面白いのぉ……遠き時代の遠き場所の剣士がたどり着く境地。試さな損じゃな」
爺さんは構えている俺に向かって歩き出す。それは散歩でもしているように、ゆっくりと歩いてきていた。俺の視線は爺さんの下半身に向かっていた。
そして、俺の攻撃が届く範囲に踏み込んだ瞬間、俺は木刀を腰から抜く。
「夢想流 居合 夢刀」
俺の木刀は爺さんの木刀をすり抜け、爺さんの体を切る。
だが、爺さんは体を俺が切りつけた方向に傾ける。そのため、爺さんに致命傷までの傷を負わせることはできなかった。
「チッ! あれも避けるのかよ。あんなの反則だろ」
「避けておらん」
「は?」
「じゃから、避けてはおらんよ。お主の一撃は届いておる」
そう言うと爺さんの体に亀裂が走り出した。そして、その亀裂からは粒子のような小さい粒が漏れ出していることに気がつく。それは、人間の身体では到底起きようのない事象だった。
「な、何が起きてるんだ?」
「トウゲン」
「ん?」
「儂の名じゃ。ヤマト トウゲン、勝てば教えると言ったじゃろう」
「いや、俺は爺さんに勝ってないだろ!?」
「攻撃を一撃当てたじゃろ。充分じゃ」
「ふざんな、巫山戯んじゃねぇよ! あんたも俺を馬鹿にするのか!? 俺はまだやれる! 俺はまだ強くなれる。だから、見捨てないでくれよ……」
俺は爺さんに向かって叫ぶ。
爺さんは木刀を腰に差し、俺の手を握る。爺さんの手はしわしわで人の肌とは思えないほどに硬かった。
「馬鹿になどするものか。儂に当てられる剣士など、あの国にはおらんかった。お主の腕は称賛されるべきものじゃよ。お主の努力してきた時を誇れ、儂に一撃を当てたその才能に胸を張れ」
「爺さん、俺は強くなれるのか?」
「それはお主次第じゃよ。少なくとも儂はお主の強さを認めておる」
俺はそう言われると胸が軽くなるような気持ちになる。
そして、爺さんは俺から離れる。爺さんの胴体から走っている亀裂は徐々に顔などにも走っていた。
「もう潮時じゃな。儂はもうお主の夢に出てこれなくなる」
「なんで!?」
「器に残された力が殆ど残っておらん」
「器ってなんだよ。なぁ、俺のスキルのこと知ってるのか?」
「器とは夢の器、記憶の残影じゃ。お主のスキルに関することなどは知らんぞ」
爺さんは、スキルのことについては知らないようだ。だが、器という言葉に付いては説明をしてくれる。
「俺のスキルは【夢想】という名前だ。けれど、俺のスキルは別に特別な力は無いって。鑑定士が、ただ眠るだけのスキルだって」
「そのようなスキルがある訳ないじゃろう。スキルとは人に人ならざる力を与えるものじゃ。それでは人並みであろう」
「じゃあ、どういう……」
「知らん。じゃが、そのスキルにはお主の知らない力があるのは確かじゃの」
いや、わからねぇよ。なんで、爺さんはそんな事を知ってんだよ。
俺はまだまだ爺さんに聞きたい事があるが、時間はそれを許してはくれない。
爺さんの亀裂はどんどん深くなっていく。
「待ってくれ! まだ聞きたいことがあるんだ」
「儂の夢は弟子をこの手で育てることじゃった。それを叶えてくれたのはお主じゃ。この儂は所詮記憶の欠片に過ぎん。既に人の身ではないんじゃよ……そんな者に対して涙は不要じゃよ」
「別に泣いてなんかねぇし!」
「そうか、そうか。以前のような死に体のような表情は消え失せ、今ではそのような顔を見せるか。強くなったものだ、身も心ものぉ」
爺さんは、俺の顔を見て頭を撫でながら頷く。俺は、親戚の優しかった爺さんを思い出す。親戚の爺さんも子供の時、俺の頭を時々撫でていた。
「儂の夢は叶った……じゃが、人というのは欲深いものじゃな。お主のこれからを現で見守りたいと願ってしまう」
爺さんは悔しそうな顔をする。それは、初めてみる爺さんの表情だった。いつもは、飄々としており何を考えているのかなんてわからない。
「そろそろじゃな。限界が来ておるようじゃ」
「……絶対にまたやるからな! 勝ち逃げは絶対に許さねぇぞ!」
「我が弟子 小野田 真よ、精進しなさい」
「爺さんッ!」
その瞬間に何かが割れるような音がして目が覚める。額と背中には大量の汗をかいており、運動をした後のように心臓はドクドクと鼓動していた。
朝日が顔にさしており、腕を自分の顔にやると気づいた。
「壊れてる」
眠る前に握っていた古びた木刀が半壊していた。ベッドには木刀から欠けた木の欠片が散乱していた。
「……爺さん、見ててくれ」
爺さんとの戦いはその日で一度幕を閉じた。
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