青い虎

岩里 辿

第1話

 この世界は、謎で満ちている。宇宙の誕生から生物の死。ありとあらゆるものがはっきりと解明されていない。つまり、今のところの自然の法則上、それが人間に分かり得ることはまずないということ。しかし俺は、無意味だと思いながらもそのことを考え続けた。もしかすると、本当の答えを求めていたわけではないのかもしれない。自分が納得できる答えを。今の現実と辻褄が合う答えを。ほぼ何も分からない今を攻略するための手段を、探していた。

勿論そんな俺、青虎真希の16年間は、世の中に爪痕の一つも残せず過ぎ去っていったのだが。


「ありがとう、琉夏」

 俺は、最後の力を振り絞ってそう言って、ゆっくりと目を閉じた。目に映っていた真っ白な世界が、段々と暗くなる。口や鼻の周りには生新しい空気が漂っているが、それを俺はうまく吸えない。

 微かにピ、ピ、ピ、という電子音が遅くなっているような気がした。もう何もかもがあやふやにしか感じられない俺は、無理に感受しようとするのを止める。

「真希」

 琉夏が名前を呼ぶ。でも、それに反応することが、今の俺にはできない。

「真希、また会えたらいいね」

 彼女の声は、震えていた。琉夏が俺の前で泣くのは初めてのことだった。

「わたし、まさきとあえてほんとにしあわせだったよ、ありがとう」

 琉夏は俺に話しかけるのをやめない。彼女が言っていることを理解するのがもう不可能になっている。

 ありがとう、ありがとう。誰に届けるでもなく、俺は頭の中で何度も何度も繰り返した。

「わたしのことわすれないで」

 琉夏の顔が見たくて、俺はうっすら目を開ける。

 彼女の笑顔を見た気がした。


     ーーーーー


 僕の名前はラカ。蟹座55eの惑星に住んでいる、15歳だ。

 僕は今日、この宇宙の中でも大変重要な役割を与えられる。そのための話を聞きに今から行くのだ。8時9分発の銀河鉄道に遅れないよう、チラチラとウォッチを確認する。

7時59分、鉄道出発の10分前。僕は豪邸とも言える自分の家を出発した。どんな条件があるのだろうか。僕の毎日の仕事はどんなものなのだろうか。どの星に移住するのだろうか。頭から次々に浮かび上がってくる疑問を期待に変え、僕はワクワクとした気持ちで鉄道乗り場へと足を運ぶ。

8時8分、一分前。僕は鉄道に乗る者たちの後ろに並ぶ。すると丁度、駅メロが流れ鉄道が走り込んできた。僕は座席を確保して、そこで本を開く。

 鉄道が2分間ドアを開けていたため、暑くてむわっとした空気を車内に溜め込んだ鉄道は、プシューと音を立てて扉を閉じた。

『本日は銀河鉄道をご利用いただきありがとうございます』

 いつものおじさんの声がそう言った。緊張と期待のあまり本の内容が頭に入ってこないので、本を読むのはやめにした。

 それから約15分。

『蟹座55a、55a』

僕は自然と背筋が伸びていた。ドアが開くのと同時に、僕は外に出る。案内に記されてあった、コスモ会館へと向かう。昔、用事があって何度か行ったことがあったので、道に迷うことはなかった。ふわふわと浮遊する体をうまくコントロールしながら歩く。

「ようこそ、お待ちしておりました」

会館に入ると、お偉いさんが僕を出迎えてくれた。僕は胸に右手をあて、左手は体につけて、最も丁寧な挨拶で返す。

「では、会議室へどうぞ」

そう言って前に進み出たのは、何度か会ったことのあるお偉いさんだ。

「ありがとうございます」

僕は言って、彼の後につづいた。

 こちらへおかけくださいと促され、僕は椅子に腰掛ける。その向かいに彼は座った。心を落ち着かせる暇もなく、僕の向かいに座った彼は話し始める。

「蟹座55e、ラカ様でお間違いないでしょうか」

「ええ、大丈夫です」

僕はさぞ冷静でいるかのように答えた。

「宇宙管理係にあたるということですが、これはあなたの祖父の受け継ぎで間違えありませんか」

「はい、そうです」

彼はこく、と頷くと、さらに早口で話し始めた。

「では今からあなたの仕事内容や宇宙管理係の掟についてお話しいたします。あなたは、地球【ニッポン】の管理係にあたるようです。1日の仕事内容は、【誕生者】【死者】の記録をつけること、それと、生まれ変わりに関する契約書に署名捺印をしなかった人の意思を聞き、こちらに連絡することです」

「承知いたしました」

僕は深く頷く。

「あなたには惑星0891で【ニッポン】の管理をしてもらうにあたって、あなたが暮らす環境は、6LDKの家、木19本、この職業に関する本24冊、連絡用の虎、このようなものが用意されております。何かあれば良いと感じるものなどあれば」

「いえ、特にありません」

そんな会話が延々と続き、気づけば正午を回っていた。僕は1つ1つの質問を聞き漏らさぬよう必死で聞き、丁寧な返事を返した。

「必要事項はこのくらいです。…あ、1つ言うのを忘れていたことがありました。仕事が始まるのは、明日の正午です」

明日の、という言葉に、一瞬驚きで声が出そうになったが、それをなんとか飲み込む。

「承りました」

少し不安の後味が残っていたが、僕は彼の目をしっかりと見て、そう言った。


     ーーーーー


読んでくれてありがとうございました

この物語には何度も修正を入れていく予定です

(^^)/~~~



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