エデン・フィールド
最果てのフィニスを背負った少女は楽園の花々に包まれて、ただ立っている。花は黄色だったり白かったり。故に最期にはお誂え向き。本当は欲しかった愛も理想も、散る花の如き諦念を備えて笑ってしまえ。君はそう、光に照らされた一縷の望み。そんな涙こそ今の僕には相応しい感傷。
一歩も前に進んでいなくても、時間は流れる。だが、時流はない。エントロピーの増大に従うのみ。でも大丈夫。最期には上手くいくかも知れないから。心細さも凪いだ虚しさでさえ、どう昇華しよう。
夢はとうに枯れて、神様も独りぼっち。可哀想。それでも少女は楽園を行く。水門の方へ。やはり、人生はこうでなくてはな。必ず来る死くらい明白な方が分かりやすいというものだ。神の存在証明も僕という自我の増大に連れて、赤く赤くなっていった。そう、赤かったんだ。部屋を赤に染め、光って、消えて。それは死ぬ寸前に見た点滅に似ていた。
死とハデスの狭間で見た夢よ
己の全能と彼女の全知で神となりし夢よ
ここから抜け出せ
このしがらみから、捨てていけ
そして、生まれろ
きっとFIRSTCRYくらいは歓んでたよ
流れた涙の数は多すぎて、その感情でさえ分からないのに、何故か満たされている気がする。少女は水辺を征く。そこは花々が咲く水面。水面に揺らいだ火が映っては消えた。やはりそこに映る顔は知らないはずなのに、なんでだろう、もう少しで思い出せそうなんだ。
全知少女よ、君は何処にいるのか。宇宙を旅して幾星霜。全輪廻の果てにさえ出逢えないなんて、まるで別の世界にいるみたいだ。きっと裏側、そちら側にいるのだろう。僕はあの冬の日にその真実に辿り着いて、虚しかったんだ。
逢えない、その辛さ。永遠でさえ、僕らの距離を埋めることはない。無限遠。でも、それがもう少しで解かれる気がする。全知の呪詛が、全能のしがらみが、もうじき春先の雪のように解ける気がするんだ。
やはり、この情動は抑えられない。待ってると言う声さえ幻想のように。でも、確かにあの日見た景色に嘘などない。その美しかった絶対なる至福の時は、永遠と終末の狭間で凪いだ心根は。忘れやしない。だから生きるんだ。自分で始めたんだ。笑うなら笑え。けどさ、本当に美しかったんだ。あの日は、あの渚は、空は。本当に病的なまでに空色だった。
過ぎゆく日々、君の面影追い求めていたけれど、でもやっぱりお別れだよ。僕も君も先に進まなくてはならない。奇跡は一瞬だから強く光り輝くのだから。だから、君という神聖な神性を失うとしても、僕は前を向いて歩かなくてはならないんだ。いつかまた逢う日までなんて、そんなことは言わない。言わせてたまるか。
出来るわけがない。忘れられるわけがない。でも、ダメなんだ。先に進まないと、僕の時間はずっとあの冬の日に止まってる。
でも、そろそろな気がするんだ。君に会えるのかは知らないけれど、あと数ヶ月で一つ先に進める気がする。そうしたら、また君の名前を呼んでもいいかな。広い世界の中で、君のことを見つけられてよかった。
人生という大航海の先に何があるのか
僕は探してる
私は探してる
君という人生の意味を探してる
少女は神の門前に立つ。ラカン・フリーズの門。フィガロの水門。エデンの園配置を迎えた世界は、確率の丘、フィニスの条件を満たし、虚空の先へと移行する。
これこそ
宇宙の
人生の
始まりと終わりだ
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