第33話 哲彦くんに嫌われた…… 桐葉視点

【桐葉視点】


「哲彦くんに嫌われちゃったかな……」


 あたしは自分の部屋のベッドで、天井をずっと見つめていた。

 何もない天井……

 あたしの心に、ポッカリと穴が空いている。


「……どうしても我慢できなかった」


 哲彦くんと二人きりになる。

 海で、二人とも水着姿で……

 そしてあたしと哲彦くんは、抱き合った。


「すごく気持ち良かった……」


 気持ち良かった、というのはどちらかというと身体じゃなくて心がドキドキした。

 なんだか暖かくて柔らかい布団に包まれた感じがする。

 ずっとずっと哲彦くんと抱き合っていたい……本気でそう思っていた。


「それからどんどん気持ちが高まってきて……」


 あたしは我慢できなくなった。

 心の中にとっても大きな波が押し寄せてきて、あたしを飲み込んだ。

 もうどうすることもできない。

 あたしは流されるままに、哲彦くんにキスした。


「あの時、哲彦くんと繋がった気がする」


 身体が繋がったわけじゃない。

 心が繋がったんだと思う。

 哲彦くんと、ひとつになりたい。

 心からそう思えてきて……


「あー! あたし、何を言ってるんだろう?」


 あのまま、哲彦くんがあたしを受け入れてくれたら、あたしはすべてを曝け出していたと思う。

 たぶん水着は……脱いじゃったかも。

 あたしの生まれたままの姿を、哲彦くんに見てほしい。


「抱きついた時、哲彦くんの大きく……」


 ダメだ。

 それ以上は言ってはいけない。

 でも、あたしはすごく嬉しかった。

 哲彦くんが、女の子としてあたしを求めてくれていることが——


「でもあれから、連絡できないんだよね……」


 哲彦くん、傷ついたかもしれない。

 だってあたしはずっと俊樹が好きだった。

 そして哲彦くんは、あたしの恋を応援してくれた。


「哲彦くんに酷いことしたよね……」


 本当に好きな人がいるくせに、哲彦くんとえっちなことしようとするなんて……

 普通に考えてすごく酷いことだと思う。

 不純だし許されないこと。

 でも、あたしは確かに——


「哲彦くんを、求めていた」


 男の子として、哲彦くんがほしかった。

 あーもう。あたしは変態だ。

 でも、本当にほしくてほしくてたまらなかった。

 それがあたしの、本当の気持ち。


「あり得ないよね……本当に」


 あたしは両手で、顔を覆う。

 恥ずかしさで身悶える。


「はぁ、はぁ……またしたくなっちゃった」

 

 あたしはお腹の下に、手を這わせる。

 ズボンの上から、指で少しずつ……


「うんっ! はぁ……」


 あの海でのことを、思い出していた。

 それであたしは何回も……


「哲彦くん、好き……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る