第31話 哲くんと桐ちゃんは何かあった アイサ視点

【アイサ視点】

 

 ——哲彦が図書室へ来る1時間前。


「ふう……あと少しで整理が終わるな」


 あたしは図書室に新しく来た本を整理していた。

 2時間くらい作業して、今、やっと終わる。


「お疲れさま、藤丸さん」


 あたしが書架の下で休んでいると、男子生徒が声をかけてくる。

 どこかで見たことある顔だ。 

 あ、同じ1年の、よく女子から「イケメン」と呼ばれている……誰だっけ?

 名前、覚えてないや。


「ありがとう。何か用かな?」

「うん。藤丸さんに話があるんだ」


 あーこれ、たぶん告白だ。

 こないだはサッカー部のエースの……また名前を忘れちゃったけど、放課後に呼び出されて告白された。

 あれは断る時、気まずかったなー


「話って何かな?」


 あたしは気づかないフリをする。

 告白されることに慣れてる……なんて、嫌味な女の子に見えてしまうから。

 これでもアイドルやってるから、こういう時の演技は割と得意なほうだと思う。


「俺と付き合ってほしいんだ」


 自信ありげにそう言う、イケメンくん。

 たぶん女子から断られたこと、ないんだろうな……

 うーん、こういうタイプが一番、断るのがめんどくさいかも。


「ごめんなさい。付き合えない」

「……マジで?」

「うん。マジ。本当にごめんね」


 書架の間にある狭い通路に、冷たい空気が流れる。

 この空気がいつも嫌だ。

 悪いけど、早くどこかへ行ってほしい……


「もしかして、他に好きな人いるの?」

「……そうだよ。好きな人がいる」

「それって誰?」


 そんなこと聞いて、いったいどうするつもりなんだろう?

 でも、そんな本音は言えない。

 断ったあたしは、相手をなるべく傷つかないようにしないといけない。

 酷い振り方をしたって、噂を流されるかもしれないからだ。


「ごめん。それはちょっと言えない」

「……わかった。お願いなんだけど、俺が告白したことは内緒にしておいてほしい」

「うん。いいよ」  

「じゃあね」


 イケメンくんが去ったのを見て、あたしはホッと胸を撫で下ろす。

 告白は、絶対にされるほうが疲れる。

 相手を傷つけず断らないといけないから。

 

「哲くんとは、やっぱり違うな」


 哲くんと一緒にいると全然疲れない。

 むしろ元気をすごくもらえる。

 素の自分を自然に出していける感じ。


「あの海に行った日、哲くんと桐ちゃんは絶対に何かあったよね……」


 あたしは書架に並んだ本を眺めながら、海に行った日のことを思い出す。

 哲くんと桐ちゃんの間に、すごいことが起こった。

 女の勘だけど、たぶん人に言えないようなこと。


「キスしちゃったとか? あ、もしかしたらそれ以上のことも……?」


 あたしも哲くんとキスをした。

 溢れる気持ちに流されるように、唇を奪った。

 あたしは俊樹が好きなはずなのに……


「桐ちゃんがそれ以上をしたなら、あたしも……」


 あたしだって、哲くんに甘えたい。

 哲くんと、えっちなことしたい……

 桐ちゃんだけズルいもん。


「ダメ。想像しちゃ……」


 もうすぐ哲くんが来る。

 気持ちを抑えないと……

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