強く正しく勇ましく！

プロローグ

いきなりですが‥‥勇者を辞退します！

　異世界（いせかい）アクロワードで、戦神（せんじん）フローラと軍神（ぐんしん）アレックスの、争（あらそ）いが起（お）こりました。

　それは、やがて、鉄（てつ）の種族（しゅぞく）と銀（ぎん）の種族との、大（だい）戦争（せんそう）に発展（はってん）したのです。鉄の種族は、戦神フローラの側（がわ）に、銀の種族は軍神アレックスに従（したが）っています。

　ちなみに、鉄の種族とは、いわゆる人間（にんげん）族（ぞく）‥‥銀の種族とは、魔族（まぞく）の事（こと）です。

　そして、鉄の種族は、勝利（しょうり）の為（ため）に‥‥他（ほか）の世界（せかい）から、勇者（ゆうしゃ）の召喚（しょうかん）を試（こころ）みます。

　エンタープライム王国（おうこく）の王城（おうじょう）にて――

　神官（しんかん）たちが、祈（いの）りを捧（ささ）げると、光（ひかり）と共（とも）に『美（うつく）しき乙女（おとめ）』が、全裸（ぜんら）で出現（しゅつげん）しました。

　乙女の名前（なまえ）は、望月（もちづき）真愛（まりあ）‥‥八幡（はちまん）高校（こうこう）の３年（ねん）生（せい）（１８才（さい））で、生徒（せいと）会長（かいちょう）‥‥あだ名（な）は、パーフェクト超人（ちょうじん）です。さらに、彼氏（かれし）いない歴（れき）は、前々（ぜんぜん）前世（ぜんせ）から‥‥との噂（うわさ）でした。

　性格（せいかく）は、生真面目（きまじめ）ですが、猪突猛進（ちょとつもうしん）な面（めん）があります。

　彼女（かのじょ）『真愛（まりあ）』は、自分（じぶん）が全裸なことに気付（きづ）くと、グラマラスな裸身（らしん）を、座（すわ）り込（こ）みながら両腕（りょううで）で隠（かく）しました。

　恥（は）じらう『全裸の真愛』を前（まえ）に、国王（こくおう）のセリフが始（はじ）まりました。

「おおっ、勇者よ‥‥なんと美しい♡

　なになに、ステータス上（じょう）は‥‥真正（しんせい）処女（しょじょ）ではないか！

　おい、誰（だれ）か、服（ふく）を用意（ようい）せよ」

　国王に『処女』呼（よ）ばわりされて、真愛の表情（ひょうじょう）に怒（いか）りが‥‥

「気遣（きづか）いなど、御無用（ごむよう）！」

　そう言（い）うと、真愛は、全裸のまま、威風堂々（いふうどうどう）と立（た）ち上（あ）がりました。

　意地（いじ）っ張（ぱ）りにも‥‥恥部（ちぶ）も、局部（きょくぶ）も、曝（さら）け出（だ）しています。

　真愛の様子（ようす）に、国王が慌（あわ）てながら言います。

「そう言わずに、服を着（き）てくれないか？

　乙女が、性的（せいてき）器官（きかん）を晒（さら）すなど‥‥」

　今度（こんど）は『乙女』呼ばわりされて、真愛は‥‥

「こうなったら、意地（いじ）です‥‥私（わたし）は、三日（みっか）ほど、全裸で生活（せいかつ）します！」

　真愛が、公（おおやけ）の場（ば）で、全裸生活を宣誓（せんせい）してしまいました。

　しかし、意地の傍（かたわ）ら‥‥真愛の裸身は、恥じらいの色（いろ）に染（そ）まります。しかも、にじみ出（で）た汗（あせ）が、胸（むね）の谷間（たにま）を濡（ぬ）らして行（ゆ）きました。

　それは、兎（と）も角（かく）‥‥国王は、話（はなし）を前に進（すす）めることにします。

「そなたは、勇者として選（えら）ばれたのだ」

「勇者って、ゲームやアニメとかの‥‥？」

　真愛の疑問（ぎもん）を、素通（すどお）りして‥‥国王は、話を続（つづ）けます。

「勇者とは、運命（うんめい）の神（かみ）に、愛（あい）されし者（もの）で‥‥」

「神様（さま）だろうが、悪魔（あくま）だろうが、愛されるとか‥‥パトロンは、お断（ことわ）りです！」

　真愛の喧嘩（けんか）腰（ごし）に‥‥国王は、困惑（こんわく）しながらも‥‥

「運命が、パトロンと云（い）う訳（わけ）では‥‥

　無論（むろん）だが、勇者になれば、我（わ）が側室（そくしつ）か、王太子（おうたいし）の正室（せいしつ）になれるぞ？」

　真愛は、憤怒（ふんぬ）の形相（ぎょうそう）で、話を打（う）ち切（き）る事にします。

「いきなりですが‥‥勇者を辞退（じたい）します！」

　こうして、成（な）り行（ゆ）きで‥‥

　望月真愛は、全裸無一文（むいちもん）のまま、王城から出されました。

　城門（じょうもん）を出る時（とき）、見送（みおく）り役（やく）の執事（しつじ）が『首掛（くびか）け護符（ごふ）』を手渡（てわた）しながら、話（はな）し掛（か）けます。

「王都を、全裸で歩（ある）いて良（よ）いのは、娼婦（しょうふ）の類（たぐい）だけだ。

　‥‥娼婦は、客（きゃく）を選（えら）ぶ事も出来（でき）れば、客を取（と）らなくても良（よ）い。

　裸で居（い）るなら、この『娼婦のアミュレット』を、必（かなら）ず身（み）に付（つ）けるように！

　それが一番（いちばん）、君（きみ）の身の安全（あんぜん）を、保障（ほしょう）してくれる」

　真愛は、躊躇（ちゅうちょ）なく、娼婦のアミュレットを、身に付けました。

　すると、彼女の左胸（ひだりむね）に『休業中（きゅうぎょうちゅう）』を意味（いみ）する文字（もじ）が浮（う）かびました。

　こうして、真愛は、東（ひがし）『王城』から西（にし）『王都の中心（ちゅうしん）』へと、歩（あゆ）み始めたのです。

　ここは、王都‥‥真愛の極上（ごくじょう）ヌードを、初夏（しょか）の日差（ひざ）しが照（て）らしています。