ムクドリ
ある年の春、雨戸の戸袋にムクドリが巣を作った。
かすかな鳴き声が聞こえたので、彼らが巣立つまでそっと見守ることにした。
しかし、しばらくすると複数の高く澄んだ声が戸袋の中から響き始めた。
どうやら雛が生まれたらしい。
では、あの最初に聞いた鳴き声は何だったのだろう。
親鳥たちが巣作りについて話し合っていたのだろうか。
雛たちが生まれてから、1ミリにも満たない小虫が大量に発生した。
それはまるで砂のように細かく、部屋の中にまで侵入し、本棚にもびっしりとついていた。
……巣立ちの日までの我慢である。
やがて、小鳥たちの声が、ぱたりと聞こえなくなった。
彼らは無事に巣立ったのだ。
戸袋をそっと覗くと、確かに彼らの姿は、もうそこにはなかった。
戸袋に残された巣を片付けて、僕は部屋で燻煙剤を焚いた。
彼らの家は、僕の手によってなくなってしまった。
最後に「もう二度と、ここに来てくれるな」と戸袋に蓋をした。
会社の向かいの家でも、今年ついに戸袋に蓋をしていた。
僕たちだって、生きている。
平穏に暮らしたいだけなのだ。
ムクドリたちよ、どうか健やかに。
彼らの旅路に幸多からんことを。
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