ありがとう

「有り難い」という漢字を初めて目にしたのは小学生の頃だった。


「ありがたい」と読むのが普通だが、「ありにくい」とも読める。


「ありにくい」こと、つまり、普通ならばあり得ないようなことをしてもらえたからこそ、「ありがとう」と言うのだと、一つの悟りを得た。


例えば、朝ご飯が準備され、しっかりと食事をとれること。

服がきれいに洗濯され、着替えの準備が整っていること。

学校で友達と授業を受けられる環境があること。

晩ご飯が食卓に並び、家族と一緒に食べられること。

お風呂で体を温め、清潔なベッドで眠りに就けること。


これらの何気ない日常が、実はどれも「ありにくい」ことの積み重ねであることに気づかされた。


「普通のこと」なんて何一つない。

僕のために誰かが手をかけてくれている。


僕は、自分一人の力で生きているのではなく、誰かの支えや心遣いによって生かされているのだ。


そう思うと、自然と「ありがとう」という言葉が心の中に湧き上がってくる。


ただ、歳を重ねると、必ずしも感謝の気持ちを持ちたくない相手とも、付き合わなければならないことが増えてくる。


大人の世界には、心を曇らせるような出来事も少なくない。


「九割はいい人だ、わかっている。でも、一割の嫌な奴のせいで心がヤラレル」と、対人業務に携わる友人が言っていた。


それでも、やはり「いい人が多い」と思いたい。

僕は、そう思える出会いに恵まれてきた。

それもまた、有り難いことだ。


どんなに些細なことであっても、相手の優しさに気づける人間でありたい。


そして素直に「ありがとう」を心から言えるようになりたい。

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