いい人

会社の同僚と訪れた施設では、明治時代の建築物が移築・復元されており、かつての生活や文化を体験することができる。


僕たちは北口から入り、蒸気機関車に乗り明治時代へと向かう。

車窓からは、もうすでに魅力的な建物が見え始めていた。

駅に着くとそこは、まるで異世界だった。

建物をじっくり見たい気持ちもあったが、次は路面電車の駅に向かうことにした。


同僚の足取りは軽く、僕を先導してくれた。

路面電車の駅に向かう道中、前を歩く女性のリュックのファスナーが、大きく無防備に開いていた。

僕がそのことを女性に伝えると、女性は恥ずかしそうに笑いながら、お礼を言ってくれた。

僕は会釈をして、同僚を追った。



同僚は、驚きを淡々と、僕に伝えてきた。

人見知りの僕が、女性に声をかけたことに驚いたのだという。

なるほど、本当だ、確かに、その通りだと僕も思った。


リュックが開いていることを、気の毒に思ったのだろう。

無意識に声をかけていた、というのが本当のところだ。

自分の中に、少しいい奴がいるということに、心が沸いた。

しかし、残念ながら自覚がないのだから、僕がいい人というわけではない。



また同じ状況に遭遇した時、僕は声をかけることが出来るだろうか。


善意を意識して、恥ずかしくなり、声をかけることが出来ないかもしれない。


そして、これが男性のリュックだった時、僕は同じことが出来ただろうか。

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