口減しのため追い出された男、ゾンビに噛まれ覚醒、レベルアップで無双する。
UFOのソース味
プロローグ
「おい、今回の調達任務は、お前も同行しろよ、薫」
「え、僕ですか?」
「お前以外に誰がいるんだよ。頭悪いんじゃね」
せせら笑う声が頭上から聞こえる。また始まった。結衣と付き合い始めてから、このグループに目をつけられている。みんな割り当てられた作業があるのに、調達至上主義の彼らは、調達任務に出ていない人間を見下している。外に出していないと基地の中で何をしでかすかわからないから、遠ざけられているというのがわかってないんだ。
僕は農作業の手を止め、しゃがんだまま見上げた。
「お前、なにメンチ切ってんだよ」
「いや、別に」
衝撃を感じた。口のなかに砂が入って、気持ち悪い。どうやら蹴られたらしい。
「だっさ、な、結衣ちゃん、こんなやつのなにがいいの?」
彼らの奥に、結衣を見つけた。心配そうな表情を浮かべている。僕は痛めた肩をさすりながら立ち上がった。
「なになに、もしかして、やり返してくんの?」
「調達任務にいかないといけないんでしょ。準備してくる」
同じく農作業をしていた人達からの哀れみの視線を感じる。僕は気にしなくていいよとアイコンタクトで伝え、服を着替えにロッカールームへと向かった。
作業着からTシャツにジーンズというラフな格好に着替える。プロテクターもつけて、万が一に備える。支給されている金属バットを手に彼らの元へ戻った。
「おっそ、頭も悪けりゃ、行動もとろいな」
なにが可笑しいのか、くすくす笑っている。リーダーの佐藤 拓也を中心に下僕のように従っている鈴木 健太、高橋 直樹、この3人組でいつも調達に出掛けては、大した成果も出さずにいつも威張り散らしていた。なにかの拍子に死んでくれたらいいのにといつも思う。ゾンビで溢れる前の世界では、繁華街で暴れていたチンピラらしい。誰も聞いていないのに、いつも自慢していた。
「おい、健太、早く車、回してこい」
「わかった」
「な、拓也、今日はどこに調達しにいくんだ?」
「決まってんだろ、今日は念願の物流センターに調達しにいく」
「な、そこはいくなって佐々木一等陸佐に言われてなかったっけ?」
「あほか、ほかのやつら、最近めっちゃ調子いいだろ、絶対こそこそ隠れて、とってるんだ」
「なるほど、確かにそうだな」
……なるほどじゃねぇよ。心の中で毒づく。あそこに何千人の従業員がいたと思ってるんだ。ほとんどがゾンビになってるんだぞ。碌な武器もないのにどうやって、その数と戦うんだよ。そんなこといっても殴られるだけだから、黙っているしかなかった。
「そういえば、結衣ちゃんもくる?よかったら、分けてあげるよ」
「いや、わたしは」
「結衣、来ないほうがいい」
「なんだ、薫、お前には聞いてないんだよ」
佐藤は僕の胸ぐらを掴むと、右腕を振り上げた。殴られる。覚悟して目を閉じた瞬間、「やめてっ」と結衣の声が聞こえた。
「冗談だよ、結衣ちゃん。俺、暴力嫌いだし」
僕を突き飛ばすと調子良く結衣に絡み始めた。
「誘ってくれて嬉しいんだけど、やっぱり女の私には役に立てそうにないし、帰ってくるの待ってるね」
そのとき結衣と目があった。いつも綺麗だなと思う。なんで、こんな僕と付き合ってくれることになったのか疑問だった。けど、絶対に帰ってくると心に誓う。
「結衣ちゃんは絶対に俺のこと好きになるわ」
鈴木の運転する車の助手席に乗せられ、国道をひた走っている。たまに、ゾンビを見かけるものの相手するだけ時間の無駄なのか、無視していた。
「な、健太もそう思うだろ」
「う、うん、拓也くんなら間違いないと思うよ」
元々、鈴木は僕の前に拓也に標的にされていた。それも、別の調達チームにいて、不幸があり、鈴木以外のメンバーは全滅してしまったからだった。それ以降、疫病神といわれたりして、いじめられていたが、僕が標的になってからは、こうしてパシリへと昇格を果たした。
「ってか、まじで、薫の何がいいんだろ、ナヨナヨしてて気持ち悪いし、絶対俺の方がかっこいいし、頼れる男って感じしない?」
「しつこ」
「おい、なんかいったか?」
「いや、別になにもいってないよ」
「あ、拓也くん、もうそろそろ着くよ」
某アメリカの大企業が作った物流センターは巨大な敷地内に四角い箱状の建物をいくつも建てている。このなかに大量の物資があり、そして、大量の元従業員のゾンビがいるんだろう。
目的地に近づいていくにつれ、敷地内を徘徊するゾンビたちが嫌でも目に入る。この中に入るのは誰が見たって自殺行為だ。それにゾンビ以外にも生存者がいた場合、このアホ3人組では戦いになって最悪全滅の可能性だってある。
「拓也くん、どうするの?」
「拓也、なんか策はあるんだろうな」
「当たり前だろ、何のためにこいつを連れてきたと思ってんだよ、おい、早く降りろ」
僕は言われるまま車を降りる。抵抗しても3対1では勝ち目はない。
「お前、いまから走ってゾンビを誘導してこい。俺らは車でそのまま向かうから。わかったな。で、こっちの荷物の回収が終わったら、クラクション鳴らすわ。ちゃっちゃとこいよ。遅かったら置いていくからな」
「わかったよ」
「じゃ、よろしく」
車が走り出す直前、健太と目が合った。今にも泣き出しそうにしているのが不思議だった。
僕は車の音につられて向かってくるゾンビを見つけては「おい、お前ら、こっちだ」と声をかけ誘導していく。どう考えても自殺行為だと頭の片隅で思いつつ、足の遅いゾンビに感謝しながら、どんどん引き連れて行った。
「行き止まりにあたったら逃げ場がなくて死ぬし、立ち止まっても死ぬし、本当に最悪な一日だよほんと。まじで生きて帰れたら、あの3人全員殺す。絶対殺す」
怒りを原動力にアスファルトを駆け回った。拭っても拭っても次から次に汗が流れる。
どれくらい走っただろうか、たまに後ろを振り返ると数百人近いゾンビが追いかけてきていた。まるでアイドルになった気分だが、僕の魅力に惹かれているわけではなく、肉を食したい一心だと思うと複雑な気持ちになる。
そのとき、クラクションの音が聞こえた。合図だ。やけに早いなとも思いつつ急いで向かう。もしかしたら、なかで不測の事態が起きたのかもしれない。
やっと近くまでいくと、運転席にいたのは、健太ではなく、拓也だったことに嫌な予感を覚えた。
「いやー考えたんだけど、やっぱりお前の席ねぇわ」
「拓也、それまじでウケる」
「ってことで、いまから追いかけまわすから、頑張って逃げろよ」
拓也はアクセルを踏み猛然とスピードをあげ、こちらに向かってくる。
「安心しろ、お前なんかいなくても、結衣ちゃんは俺が幸せにするから」
「ふっざけんな。この腐れ低脳が。お前なんかを結衣が好きになるわけないだろぼけ!寝言は寝ていえ、このクソチンパン野郎が」
「あいつ、マジで殺す」
なんとか横にジャンプして車をかわせたものの右足を挫いてしまった。日頃の運動不足にずっと走り続けていたからか、疲労でまともに動かない。
「な、なぁ、拓也くん、まじでやばいって」
「あ?なにがだよ」
「いや、あいつ、なんか様子がおかしいって」
よほど慌てているのか、健太の声がここまで聞こえる。あまりの足の激痛にしゃがみ込んでいると、近くまでゾンビが来てしまっていた。
「マジかよ」
そのことに気がついたのか、車はこちらに来ることなく、そのまま敷地外へと出ていった。
「僕は、俺は、こんなとこで終わるやつじゃない……結衣、ごめん、戻れないかも」
殺到するゾンビを見て、僕は早々に意識を手放した。
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