第4話 四勢力

――この大陸で、君主を名乗った者は呪われる。

いつから、どうして、世界がそんな風になったのかは知られていない。

ただいつの間にか、この世界で王や皇帝を名乗る者は、必ず非業の死を遂げると囁かれるようになった。


情報の伝達が不確かなこの世界では嘘も真も昨日も百年前も似たようなもので、真偽のほどは分からない。

そもそも誰もがその日を生き延びるのに必死で言い伝えなどに拘らない。

だからそれが本当かどうかは、身を以て実践した者にしか分からないのだろう。


ただ事実として、大陸を分かつ四勢力の長たちも、それには及ばないもののある程度知られた有力者たちも、決して自らを王と名乗ることはない。

それが現実だった。


四勢力――

即ち騎士団の「大公」、

医師団の「老師」、

楽団の「総帥」、

教団の「教主」が率いる勢力だ。


他にも小、中規模な組織や中立地帯は点在しているが、主にこの四つが現在の大陸を分断し支配している。


各組織はそれぞれが固有の軍を持ち、時に攻めては攻め込まれ、独自の縄張りを保っている。

境界線の付近にはどこにも属さない地帯や、何の旨味もないために放置されている場所もあれば、誰も近づけぬ魔境もある。


だが原則として、ほぼ全ての地域は何処かの支配を受け、人々はそれぞれの暮らしを営んでいた。


大雑把に分けるならば、大陸の東は教団領、西は楽団領、南は騎士団領、北は医師団領が多い。


渦中のエレラフは元は騎士団領であり、先代教主の時代に教団が奪った領土だ。

異教の根付いた土地なので住民の帰属意識も低く、寧ろ教団への反発が大きい。

教団の傘下に降って未だ十年足らず、改宗も整備も一向に進んでいない。


本来なら何世代もかけて落とし所を探っていくのだろうが、エレラフの場合、諸事情から下手に甘くすることはできなかった。

徹底的に抑えつけ、支配者を知らしめるしかない。

教団はエレラフを支配し税を取り立てる一方で、街に授ける恩寵――要は配給だが――を削り、人々の生活を圧迫して締め付けた。


それに更に不満が溜まり、とうとう噴出した。

そして、その鎮圧のために明日軍が出動するのである。


(……楽団と休戦している今だからできることなんだろうね、やっぱり)

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